その13 死闘の時

「共闘……という事ですか?」

「あぁん? 文句あんのか?」

「あ、いえ、大丈夫です。はい」


 ……おのれ、顔が怖いぞお前。

 だが、協力してくれるのは有難い。

 互いに利があるし、実力も知った者同士。これなら……。


「簡単な打ち合わせだ。お前の使える魔法は風魔法だけか?」

「……ダークヒール」


 俺は昼間のドゥムガの怪我を思い出し、闇系回復魔法を放った。

 回復を終えると、ドゥムガはダメージの大きい腹部をさすって驚いてみせた。

 おぉ、自分にしか使った事なかったけど、ちゃんと効果を発揮するのか。


「はん、こいつぁいい。雷魔法は?」


 根掘り葉掘り聞いてくるが、ドゥムガに殺意はない。

 ここは教えた方が得策か。どちらにしろドゥムガの協力がないと勝算が低い戦いだ。


「いえ、まだ」

「そうか、ま、俺が雷魔法を使えるからいいだろう。生憎俺はガキと違って一種の魔法のみだが……固有能力についてはどこまで知ってる?」

「鬼族だと……超回復の事ですよね?」

「……なるほど、末恐ろしいガキだ」


 学習能力だけは普通の三歳児より圧倒的に上かもしれないが、今だけだぞ?

 末は恐ろしくはないはずだ。そもそも、三歳児の方が感性は豊かだろうしな。


「自分はまだ固有能力を使えません」

「そうか、ガキの超回復は見込めねぇか。俺の嗅魔は半径2キロまでのある程度大きい魔力を察知出来るというだけ。対してアンドゥは鬼族の固有能力、超回復が使え、土魔法の使い手。これはかなり厳しいかもしれねぇな」


 そうだ、本で読んだ事がある。固有能力・特殊能力・魔法。これが一人の個が持つ戦闘力だと。

 固有能力は魔獣族や鬼族といった一族固定の能力。

 特殊能力は吸血鬼やダークマーダラーといった種族だけが持つ能力。

 そしてその個体に合った魔法。

 確かダイルレックスが持つ特殊能力は…………バイトクラッシュ。

 己の牙で噛んだのであれば、能力発動時にその部位を必ず破壊するという恐ろしい能力だ。

 だが、破壊しても超回復で回復されてはあまり意味がない。何とかしてアンドゥ対策を練らなくちゃだな。


「あれ、アンドゥの……ダークマーダラーの特殊能力って何ですか?」

「硬化だ。あくまで物理的衝撃に対してだけだが、例外があって、保有属性魔法に対しては強くなる」


 という事は、土魔法に対して強くなるのか。なら、そこに関しては大丈夫だな。

 でも、衝撃に強いのは変わりない。常時という事ではないだろうが、決め手となると、ドゥムガのバイトクラッシュに頼る事になりそうか。

 問題は超回復か……うーん、何も思い付かない。……何とかならないものか。


「……入ったな。間も無くアンドゥがここへ来る」

「よくこっちが俺だとわかったものですね」

「スパニッシュの野郎が《呼び戻しの風》の魔法を使ったんだよ。それでお前らの匂いを嗅ぎ分けたって事だ」


 呼び戻しの風……過ぎ去った風の呼び戻す魔法。

 主に強風の風を戻して身体を浮かせたり、ちょっとした防御に使う事が出来ると本で読んだ。

 なるほど、こういう使い方もあるのか。使い方次第で魔法は更に便利になるって事だな。

 さて、現在俺の使えるのは、


 ◆魔法◆

 風魔法:エアスライス・浮遊滑空・ヘルメスの靴

 闇魔法:ダークヒール・暗衣あんい

 光魔法:?

 ◆特殊能力◆

 解放・呪縛・超能力:サイコキネシス・テレパシー・チェンジ


 戦闘で使える魔法や能力はある。だが、相手の強さを考えると心もとないな。

 浮遊滑空は風を使った大ジャンプ。ナタリーを助けるために自分の部屋に跳んで入ったのがこれだ。

 暗衣は、ゲームや何かで言うところの、強力なマジックシールドみたいなものだ。

 超能力のチェンジは、何のことはない、身体の変化能力だった。

 ナタリーの前でジェイルに変化した時は大変だった。服が破けたからな。

 慌てて元の姿に戻ってビンタされたのは、ある種の幼馴染イベントだったのだろうか。


 ん、あれ、何だこの感覚? 誰かが……近づいて来る?

 この魔力量…………もしかしてアンドゥか?


「……来たな」


 やはり来たのか。だが、これは一体?

 いや、今はそんな事を考えている場合じゃないか。


「ほっほっほっほ、ミケラルド様にドゥムガ。これは面白い組み合わせですね」


 プロレスラー並みの剛体。

 いつの間にかアンドゥは、橋の手前に立っていた。


「ほざけ、俺たちを殺しに来たんだろ? 俺はお前を潰してさっさとトンズラする予定があるんだ、ごたく並べてねぇで掛かって来やがれ!」

「あなたはおまけです。私が殺しに来たのはミケラルド様。所詮ダイルレックス種の半端者がどこで何を吹聴しようが、旦那様に痛手にならないですから」

「っ!」


 一瞬でドゥムガの殺気の圧が変わった。

 熱くさせて動きを単調にするつもりなのか、どうやら半端者という単語が気に食わないみたいだな。

 戦闘前から戦闘が始まってる……単調な心理戦ってところか、勉強になる。


「けれど安心してください。旦那様の命令の中にあなたを殺すという指示は入っていますから。ほほほほ、さぁミケラルド様、残念でなりませんがお別れの時間ですよ」


 俺は、この段階で既に暗衣を発動した。

 黒く深い闇が俺の身体を覆い始めた。これ、背中がぞわぞわしてあまり好きじゃないんだけどな。

 命がかかってる戦闘だ、仕方ないだろう。


「……本当に残念な才能です。はっ!」

「地走る蛇だ! 避けろ!」


 アンドゥが地面に手を置いて掛け声を出した瞬間、地面から鞭状のしなる土を放った。

 そうか、だから橋の手前、地面があるところに立ったのか。

 しかし、ここで戦うと決めたドゥムガも流石だ。

 俺たちの足の支えが木製の橋である以上、地の理は俺たちにある。ホント、少しだけな。

 それにしても魔法名の詠唱って必要ないのか! そう言えば初めて発動した時言ってなかった! くそ、ちょっとしたブラックヒストリーだぜ。

 俺はドゥムガの声に左へ避け、ドゥムガは反対に避けた。


「続きますよ、ふっ!」


 アンドゥの左右には小さな大砲のような土が形成された。それはもう沢山。


「く、砲岩か! ありゃ、避けらんねぇ! ガキ、下がれ!」

「はい! だっ!」


 後方へ跳びながらエアスライスを大砲に放つ。……当たった!

 そこまで硬くはないようで二つ三つ壊せたが、その数は軽く二十は超えていた。

 アンドゥの手が前に倒されると、土の大砲は「ポンッ」という間の抜けた音を発して放たれた。


「くっ!」


 その時、ドゥムガの後ろに隠れた俺は、正面に出されるドゥムガの手から歪んだ何かが放たれたのを見た。

 あれは雷魔法か?

 土の砲弾がドゥムガの巨体に向かって放たれているが……おかしい。着弾音が聞こえない?


「弾が……浮いている?」


 弾は、ドゥムガの正面で紫電に発光する壁に阻まれて静止していた。

 弾がゆっくりと地面に落ちると、アンドゥの左右の大砲は崩れながら消えていった。


「……流石、実力で種の第五席まで上りつめた男ですねぇ。仕方ありません、あなたから殺しましょう」

「ガキ、能力で援護しやがれ! 来るぞ!」


 体術で来ると言ったのだろう。

 そう思った時には、既にアンドゥがドゥムガに強烈な一撃を放っていた。

 肩を揺らすドゥムガを見て、俺は遅れながらにもアンドゥにサイコキネシスを使った。


「む……何とっ! 既に超能力までっ?」


 辛うじて制御に成功したが……重い、脳がはち切れそうだ!


「お返しだぜ、クソ爺ぃ!」


 ドゥムガの強力な尾撃が、直撃した。


「ぐぅっ! 重いですねぇ!」

「くそ、硬化で凌がれた! もう一度だ、ガキ!」

「こなくそっ!」

「ほほほほ、先程より力が落ちてますねぇ! あの力が最大値だったのでしょうね。何とおいたわしい。ほほほほほ」

「ちっ、逃げられたか!」


 ぐ……くぅうううっ。痛い……超絶頭痛い。

 これ、無理過ぎるだろ。まるで強制負けイベントみたいだ。


「お次はミケラルド様です」


 嘘っ!? 休憩させてくれよっ! 一瞬だけの後退でアンドゥが俺に向かって来た。

 くそ、浮遊滑空でしか逃げられない!


「だっ!」

「クソガキ、そりゃ悪手だ馬鹿野郎っ!」


 あ、よくあるやつだ。跳んだ位置はそう簡単に変えられない。

 アンドゥにとって格好の的って事か。そ、そうだ、アレを!


「お、おぉっ!?」

「何と、これは私が甘かったですね。私も跳び上がれば殺せたものを……」

「サイコキネシスで、砲岩だった土を宙へ持って来て、足場としたのか」


 空中で歩行するイメージで土を仮初の地面としたんだ。咄嗟の機転だったが、どうやらうまくいったようで良かった。


「何とも……厄介な能力ですねぇ……ふっ!」

「がっ!?」

「ドゥムガさんっ!!」


 くそ、視えなかった! ドゥムガの腹部にアンドゥの手がめり込む。

 あれはどう見ても体内まで届いてる……、くそ!

 瞬間、ドゥムガがニヤリと笑みを零した。刺さったアンドゥの右手を掴み、更に体内へと運んだ。

 痛い……あれは痛いぞ!


「ぐっ……ふっ、踊りやがれ」

「ちぃっ! これはまさか!? は、離しなさい!」

雷の領域スパークホール!」


 アンドゥの周りを雷の球体が包み、中央にいるアンドゥ目掛けて集束するように放電が始まった。


「がぁああああああああっ!!」

「ぬぅううううううううっ!!」


 当然、ドゥムガもその被害に遭う、何とか救出を……!


「う、腕だ! ガキッ!」

「そ、そうか! はっ!」


 この助言で、ドゥムガの体内に深々と突き刺さる腕に向かってエアスライスを放った。


「ぎぃ!? ガガガガガガッ!」


 切断が成功し、ドゥムガが尻餅を突いて後方へ倒れた。

 スパークホールはそこまで効果時間の長い魔法ではない。そして、アンドゥも固定しているドゥムガが離れたため、その場から離れる事が出来た。

 だが、利き腕の切断という、大きなダメージを与える事が出来たのだ。流石に超回復と言えど、無くなった腕の再生には多少の時間が必要だ。

 正に肉を切らせて骨を断つというやつだな。おっと、ドゥムガの回復をしなくては。


「ど、どうだ、やってやったぜちきしょうめ!」

「ぐぅううううう……。殺します。皆殺しです……。ぶっ殺して墓の上から小便ぶっ掛けてやりますよ愚か者どもぉおおおおっ!!」


 大変だ、腹の口が目を覚ました。

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