ロリコン剣士は魔剣の精を成長させない
イプシロン
第一幕 旅の始まり
1 ロリコン、魔剣の精霊と旅をする
「ねえ、ご主人様? そろそろ人を殺してよぉ」
森を散策しながら風景を楽しんでいると、不意に頭上のマイハニーが物騒なことを言い出した。
彼女は僕が持っている魔法の剣の精霊で、名前はアイン。
「いい加減、この姿でいるのは飽きたよ~! そろそろ成長したいんだよ~!」
ぷにぷにすべすべの柔らかお肌と、年相応の僅かに骨張った体格。
凹凸の殆どない体にあどけない容貌、ちっちゃな背、艶のある長い金色の髪。
世界の『可愛い』を宝石箱のように詰め込んだ、天使のような存在だ。
仕草だけちょっとおばさんくさくて気に入らないが、それ以外は世界で一番綺麗な女の子だと思っている。
「ね、ご主人様! 私を成長させたらさ、ちょー素敵なないすばてぃーになってー、いいこともさせてあげるんだけどな~?」
そして彼女、実は魔剣の担い手である僕にしか姿が見えないし、彼女の声は僕にしか届かない。
そして僕以外に触ることはできないし、彼女に触ることができるのも僕だけだ。
「私、成長さえすればテクも凄いんだよ? この体だと真価を発揮できないけど、成長さえすればどんな女にも負けないくらい……」
言わば僕は、こんなに美しい彼女を独占していると言えるわけである。
「ご主人様? 話聞いてる?」
意中の相手に袖にされ続けてきたこの僕が、こんな素敵な
「聞いてない? 聞いてないね? 聞きなさいよ? ねえ、ちょっと……」
こんな魔剣に運良く巡り会えた僕は、きっと特別な存在だと――――
「話を聞け――――っ!!」
「ふごっ、ふごごっ!!」
僕が淡々と無視していたら、おてんばなハニーは僕の口に手を突っ込んで左右に引っ張ってきた。
僕は優しく彼女の手を掴み、拘束から逃れる。
「いきなり何するんですか、止めてくださいよ」
「ご主人様が人の話聞かないのが悪いんでしょ! 女の子のことはちゃんと構わないといけないんだからね!」
「ちゃんと聞いてましたよ。
「そう! ご主人様が担い手となった魔剣『ディアボリバー』は、人の命を奪えば奪うほど強くなるの!」
「ええ、前にも何度か聞きました」
「逆に言うと、人殺しに使わないと何の意味もないんだよ! 貴方には最強の力は与えられないし、私はこんなちんまいまんま! あなただって、それは嫌でしょう?」
「そうですか、では」
「ええ! 早速さっきの村に戻って皆殺しにしよ?」
「丁重に鞘にしまっておきます」
「なんでそうなるんだよ――――!! ご主人様のばかばかばかぁ~!」
アインは僕の頭をぽかぽか殴り始めた。
これくらいの刺激なら、幼女のやること、愛らしいくらいだ。
「うう、全力で叩いてるのにびくともしないしぃー……わたしの手ばっかり痛くなるし……」
そのまま放置しておくと、アインは途中で叩くのをやめた。
「こんな体じゃなかったら、もうちょっと強く殴れるのにぃ……ご主人様が、私を成長させてくれないから……」
後ろでアインが悲しそうにぷかぷか浮かんでいるのに気付いた僕は、振り返って彼女を優しく撫でた。
「無理をしては駄目ですよ、アイン。僕はあなたが元気でいてくれれば、それで別にいいんですから」
「ご主人様……」
目を潤ませるアイン。僕の優しさに、きっと感動しているんだろう。
「アイン……」
良い雰囲気になってきたと思った僕は、ここでそっと唇を近づけた。だが――――
「ご主人様の、分からず屋―――――っ!!」
ここで一発、アインのビンタが僕の頬にクリーンヒットした。
予想外の方向からの一撃に驚いた僕はよろめきそうになったがなんとかこらえて立ち直る。
「うわーん! もう嫌だー! なんでこんな人が担い手になっちゃったのー!?」
改めてアインを見つめると、彼女は顔を伏せて泣きはらしていた。
「魔剣の神殿には、欲望に取り憑かれた人しか来ないはずなのにぃ~!」
魔剣の神殿。それは僕が彼女を見つけた遺跡の名前だ。
僕は今でも思い出せる。
良心に訴えかける数多くの妨害を振り切って、
「僕だって、欲望の権化でしたよ。ただ、その欲望の方向が……」
僕は、泣いている彼女をそっと抱きかかえて言った。
「ちょっとだけ、
「ちょっとじゃないでしょ! 筋金入りの変態ロリコンでしょ、ご主人様は!」
「ぐへっ」
僕の顎にアインの蹴りが見事に当たって、僕はのけぞる。アインはその隙に僕の頭の上よりさらに高い所に飛び上がった。
「昨日は私の成長後の姿を夢でねっとり見せてあげたから、いい加減発情したと思ったのに……」
これは僕に人殺しをさせて、自分を成長させようとする魔剣『ディアボリバー』の精霊アインと。
「ああ、昨日の悪夢ですか。吐きそうでした」
「!? 吐きそっ……」
「やっぱりアインは、今が一番可愛いですよ」
「~~~~~!! うれしくな――――い!!!」
それを無視して彼女を愛でる、ロリコンの僕ことローランドの旅路を描いた物語だ。
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