第8話 小説を読むことで得られるもの
今回のは、以前、私が「近況ノート」に書いたものの焼き直しです。近況ノートには、いろいろ書いてますが、これはこちらにあるのがふさわしいだろうと転載することにしました。
旧作ですが、おつきあいください。
☆☆☆
絵画の展覧会に行くのが好きです。
小さな子供の頃は「自分は絵描きになる」と思っていました。そんなに上手ではなかったし、いまではまったく描きませんが。
美術館に面白そうな展覧会があると知ると出かけていきます。
だいたい展覧会というものには、その展覧会の目玉となる絵を含めて、何十点もの絵が一堂に展示されているのが普通です。
しかし、そのうち「これは!」と感銘を受ける絵が何点あるか。
目玉を含めてほとんどないことが多いと感じます。いずれも美術的価値を認められた佳作ばかり展示されているにも関わらず。
私の美的感覚に問題がある――という点は棚上げするとして、「これはすごい!」とある人の心に届くような作品は、選りすぐりの作品の中でもごく一部。それも鑑賞する人によって(その人の美的感覚によって)それぞれ異なるのではないかと、そんなことを考えながら絵を見ていました。
ところが、展覧会に通い続けるうちに、また別の考えに至るようになったのです。
――たくさんの「くず」絵画を見続けてきたことが、私の絵画鑑賞力を支える土台となっているような気がする。こうして展覧会に通い続ける限り、この土台は大きくなることはあっても、痩せることはないようだ――と。
色のない絵と見えていたものが、鮮やかな色彩を帯びていくような感覚。
それとよく似たことが小説にもあって、たくさんの優れた小説を読んできたにも関わらず、大多数の小説は私にとってくずだったように思います。
沈殿して――私のなか深いところに沈み込んでしまって――浮き上がってこないくず小説。何百何千と降り積もったその小説たちが、その実、私の小説観を支えている――
と考えてはじめて、「土台がなってないから自分の小説はいつまでたっても読んでもらえないんだな」と気づくようになりました。なので今更ながら本を読んでいます。
そして、いつか人の心に届くような小説――展覧会の絵のような小説が書けたらいいなあと思っているのです。
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