第8話 彼女の想い 1
私はハイラント王国のモートン侯爵様のお屋敷に仕える、メイド長のリアと申します。
モートン侯爵家はハイラント王国の中でも宰相を代々排出している家でもあり、此処に仕える事は何よりもの誉れなのですが・・・。このお屋敷には、“禁忌”とされる子供が居ます。
勿論これは侯爵家の中ではトップシークレットになるので、このことを知っているのはモートン侯爵家フォボス様、奥様のソフィア様、執事長のゼノスこの四人のみ知りえる事です。
そして先日、奥様が倒れられてしまいました。
勿論お屋敷は騒然となりました。
奥様のソフィア様はとても気さくな方で、私達使用人に対しても優しい方なのですが生まれつきお身体の弱い方でした。
そんな奥様のご懐妊が分かった時は、屋敷の者はとても喜んだのですが・・・御生まれになった子は元気なお嬢様で、“禁忌”と呼ばれる子でした。
旦那様はそれを知るとすぐさま生まれて来た御子を、亡き者にしようとなさったのですが奥様が懇願してこの屋敷の塔に幽閉される事になりました。
奥様が旦那様に望んだことはただ一つ“生まれて来た子を殺さない事”でした。
旦那様は奥様をとても愛しておられました。
この国では、愛妾が黙認されております。
ただし、愛妾の子は家を継ぐ事は出来ません。なので家名を名乗ることも出来ないのですが、代わりに王宮での高官などが約束されています。
ですが正妻との間に世継ぎが生まれない場合、または正妻が亡くなった場合などは愛妾の子を正妻の承認を得て養子として迎える事があります。
なので名のある家柄であれば愛妾の一人か二人は居る者ですが旦那様は、奥様一人を愛されておりました。
身体も弱くやっと出来た御子でしたので、旦那様も奥様を無下には出来なかったのでしょう。
生まれて来たお嬢様は、表向きには死産として扱われました。
奥様はお一人でお嬢様を毎日お世話をされて、約十三年の年月が流れたのですが・・・先日奥様が亡くなわられた為、お嬢様のお世話を私が承りました。
屋敷の北側にある塔は旦那様の許可が無ければ立ち入りが禁止されている為ひっそりとしており、温かい日でも寒さが感じられる場所です。
朝食を持ち塔を登り切った奥の扉の鍵を開け中に入ると、一人の少女が立っていました。
赤子の時以来お会いしていなかったお嬢様の第一印象は、『やはり奥様に似ていらっしゃる』でした。
大きなくりくりとした目に雪の様に白い肌の愛らしいお子様です。
「本日からお嬢様のお世話をさせて頂くリアと申します」
お辞儀をして、目を合わせたお嬢様の顔は何が何だか分からないといった様子で
「あ、はじめまして」
と返事を返してきました。
先ほども言った様にとても愛らしいお子様なのですが・・・やはり不吉でしかありません。
老人の様に白い髪、血の様に赤い瞳。
まるで死神が現れる所、不吉と死を振りまき国を亡ぼすと言うこの国に語られる物語の死神を呼ぶとされている人物像を体現しています。
これでは、侯爵家においては不祥事以外の何物でもありませんね。
ただ生まれてきたお嬢様にとっては、耐えがたい状況ではあるのでしょう。
「あ、の・・・」
いろいろと考えながら、お嬢様を凝視してしまっていたようで困惑した声が聞こえてきました。
「失礼しました。朝食をお持ちしましたので直ぐに支度いたします」
テーブルの上に持って来た朝食をテキパキと準備をしていると、再び控えめな声で呼ばれます。
「あのリアさん。お母さんはどうしたのですか?」
「私の事はリアとお呼びください。敬称は不要にございます。奥様は此方に来ることが出来なくなってしまった為、私がお嬢様のお世話を一任されました。何か不便がございました直ぐに申しつけ下さい」
朝食を食べて下さいと頭目して促すと、席に座り食事を始める。
そんなお嬢様の背中を見ながら思う、先ほどの質問は最もな疑問なのでしょう。それでも旦那様からは奥様については何も答える必要は無いと言われているので、倒れたことなどは伏せておく。
それにしても、奥様から聞いていた話と様子が違う様に見えます。
聞いた話では会話は最低限しかせず、物事にも興味が無く教えた事に対しては大人しく従うと。
観察している間に食事が終わったのか椅子から立ち上がりこちらを見ていた。
「ご飯ありがとうございました。リアさっとリアは今から何をしますか?」
ふと考える。確かにお嬢様の専属にはなったが、お嬢様は特に何かをされないので食事の配膳と部屋の掃除に入浴の準備ぐらいしかない。
「食器をお下げ致しましたら、部屋の掃除をさせて頂きたいのですが構いませんでしょうか?」
「えっ・・・リアが掃除をするのですか?」
「・・・・はい。そうですが、何か問題でもありますか?」
「い、いえ問題はないです。ただお母さんは掃除をされなかったので、私が行っていた為ビックリしました」
最後はごめんなさい・・・と消え入る様な声で謝られました。
確かに奥様に食事を持って行くことや、入浴の補助は出来ても掃除をする事は出来ないであろう・・・。
とにかくお嬢様の了承も得た事なので、掃除をしようと動き始めると邪魔にならない様にでしょうか、いつもそうしているのかこの部屋に唯一置かれているソファに座る姿が見えた。
大した広さもない部屋はすぐに掃除が済んでしまいます。
掃除の間もずっと私の行動を見ていたお嬢様をチラリと盗み見たが、今は窓の外を眺めている。
暇なのでしょう。
この部屋から出れないため外には行けなく、まったく教育も受けてないため本も読めず、ましては貴族のご令嬢がする様なマナーレッスンやダンスレッスンもない。
何もないこの部屋には、小さな窓から外を眺める事しかする事がない。
唯一自分で行う事は、掃除ぐらいなものなのでしょう。
それを考えるとなんだか悪いことをした気分になってきてしまった。
かと言って今更どうにもならないので、仕方がない。
「お嬢様掃除が済みましたので、私はこれで下がらせて頂きます」
そう言うなりそそくさと部屋を出た。
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