みちのりのはてに。

しろみこさん

第1話 みちのとちゅう。

この作品はけものフレンズ2のIFの作品です。

アライさんとフェネックがキュルルたちに出会っていたら?というお話です。

キュルルちゃんの視点で物語が進みます。

スクロールするとお話が始まります。




















こうやにて。



「ねぇ、まだ乗り物動かないのー?このままじゃ夜になっちゃうわよー!」

後ろから、不満そうな声が刺さる。

空から太陽の眩しい光が僕たちを照らしている。

そう、僕たちはいま荒野の上で立ち往生しているのだ。

 数時間前、僕たちはチーターさんたちと別れたあとに新しい乗り物と共におうちを探すことにした。した、したのはいいのだ。けれど、しばらく走っていると乗り物の調子がおかしくなり、やがて止まってしまった。

「うぅーん、さっきまで動いてたのになぁー。ねぇラッキーさん、どこがおかしいかわかったりしない?」

 僕は腕につけたラッキービースト…ラッキーさんに話しかけた。

「ちょっとまってね、ぶんせきちゅう、ぶんせきちゅう・・・」

ラッキーさんのレンズ?のようなものから光が出た。

「ぶんせきちゅう・・・ぶんせきちゅう・・・。」

・・・時間がかかるな、と思ったぼくはラッキーさんを外して運転席から降り、自分で乗り物の様子を見ることにした。

 こうしてみると…結構汚れてるなぁ、それにサビだらけだ…あっ!

前輪のタイヤの空気が抜けている。他のタイヤはパンパンなのに、このタイヤだけ手で押しても返ってこない。

 ぼくはカラカルを呼んだ。

「わかったよカラカル!このタイヤを見て!」

カラカルがぼくのところに来てどうしたとばかりにタイヤに視線を向けた。

「あら、足?が潰れてない?これ。」

カラカルが空気の抜けたタイヤを興味深そうに見つめ、僕がしたようにタイヤを触っている。

「そう、このタイヤ…というか足がだめになっちゃったんだよ。」

「やれやれ、これじゃあもう歩くしかないわね…って、うわっ!」

カラカルがやれやれだと言わんばかりのしぐさをすると、突然驚きだした。

「手が真っ黒になってるわ!タイヤってこんなに汚かったの?!」

ぼくも自分の手のひらを見た、たしかに真っ黒になっている。

「んもう…びっくりしたわ。でもまぁ、いつまでもこれにかまってることはないんじゃない?」

カラカルはため息をつくと、自分のスカートで拭いてしまった。

 確かにカラカルの言うとおりだ、タイヤを直すことは僕にも、カラカルたちにも出来ない。乗り物を捨てるべきなのは僕もわかっている。

 ただ、つぎのおうちの手がかりまでにはかなりの距離がある。

たとえこの乗り物が遅くとも、この乗り物を捨てるわけには行かない…だけど、どうしよう…。

と、考えていると荷台からあくびの声と背を伸ばす姿が見えた、サーバルだ。

「んん~~っ…よく寝たー…。あれ?二人ともどうしたの?」

気持ちよさそうに背を伸ばすと、この状況を聞いてきた。

「おはよ、この乗り物が止まっちゃったのよ。」

「えーっ!?」

サーバルを声を上げる。

「だから、これからこれからどうしようって考えてたんだよ。」

「歩けばいいんじゃない?」

ぼくの言葉に、サーバルが答える。サーバルもカラカルと同じ考えのようだ。

「そうよ!サーバルも言ってるじゃない!あんたが疲れたらおんぶしてあげるわ!」

 こまったなぁ、これでは本当に歩いて向かう事になってしまう。

こんなときにだれかがいたらなぁ・・・。


すると突然、ガササササッ!と茂みの中を走るような音が聞こえた。


なんだなんだと驚く僕らに大きな声が響き渡る。

「アライさんたちをよんだな!!!」

突然大きな声が聞こえてくる、びっくりして僕も二人も飛び上がってしまった。

「ちょ・・・どこにいるのよ!」

カラカルが尻尾の毛を逆立たせながらも吠える。

「ずっとここから見ていたのだ!」

ぼくはあたりを見回してみた、カラカルたち、乗り物、荒野…

…茂み?

「ふっふっふ!アライさんたちの出番なのだ!」

 どうやら茂みをカモフラージュにしているようだ。

二人もおかしな茂みに気がついたようで警戒しながら近寄ってくる。

「は…はやく姿を見せなさいよ!早くしないと…引っ掻いちゃうわよ!」

「…えっ!ひ、引っ掻かれちゃうのは嫌なのだ…も、もう出たほうがいいのかフェネック?」

「そうだねぇ、いっせーので出よっかー。」

さっきとは違う声が聞こえる。

「ふ、ふたりもいたの?!ひ、ひきょーよ!」

 こっちは3人だ。

しびれを切らしたカラカルが爪を出したまま草むらに近寄っていく…ぼくがカラカルを止めようとしたその時だった。


「ばぁーっ!」

「ばぁー。」

草むらから二人のフレンズが顔を勢いよく出してきた。

もうひとりは灰色のお耳の生えた女の子と、金髪で大きな耳の生えた女の子だ。

「ぎゃーーーっ!」

度肝を抜かれたカラカルがさっきよりも高く飛び上がった。

「ふっふー、アライさんがアライさんなのだ!こっちは―――」

「フェネックだよー。」

体についた葉っぱを落としながら立ち上がり全身をあらわにしてきた。

「すっごーい!ねぇねぇ!どうやってこの葉っぱを持ってきたの?」

サーバルがそう言うと、二人はハッとした表情で彼女に視線を向けた。

「お、おまえ…サーバルなのか?!かばんさんは…かばんさんはどこにいったのだ?!」

「かばん”さん”ならさっきあったよ!」

サーバルは普通に答える。

「一緒に旅をしてたんじゃないのかっ?!」

「そ、それはー…そのー…」

なんとも言えない空気が漂う。

この状況では、驚かされて怒ったカラカルも怒るに怒れない。


「ねぇ、アライさん。私達の知ってるサーバルじゃないかもよ?」

フェネックさんがアライさんの耳にヒソヒソと話す。

「そ、そうなのだな…急に変なこと聞いて悪かったのだ。」

「ふぅ、あ、えっとー…まぁ、ちょっとインパクトのある登場がしたかったんだ。まぁ、ごめんねー。」

フェネックさんがカラカルに少し頭を下げて謝る。

「…ふん、まぁ許してあげるわ。」

カラカルの怒りも収まった。その場の空気が和らいだのに合わせて、アライさんがぼくに視線を向けて

「それで…どうしてこんな暑いところで立ち往生してるのだ?」

と聞いてきた。

「それは…えっと…」

僕が説明しようとした時、運転席においたラッキーさんからピロリロと音が聞こえた。

「分析終了しました、タイヤがパンクしているため走行ができません。センターに連絡しヘルプを要請します、連絡中…連絡中…連絡中…連絡中…通信状況確認中…使用可能な回線を確認しています…」

ラッキーさんが話しだしたのに二人が驚き、こちらを見てきた。

「ボスが喋ってることは…おまえ…ヒトなのか?!」

 ラッキーさんが話すのに驚くフレンズは今まで見てきた、が二人はぼくがヒトだと感づいたようだ。

もしかすると、二人はサーバルの過去を知っているのだろうか?

「う、うん。ぼくもヒトなんだ。」

「おまえもヒトだったのか…アライさんたちはヒトに縁があるな!…アライさんたちに任せるのだ!」

アライさんが自信満々な表情で胸を張る。

「それで、アライさんどうするのー?」

「アライさんがいま寝泊まりしてるとこは…乗り物がいっぱいなのだ!」

「あれだけあるんだからこの乗り物に合うまんまるもあるのだ!だからこの乗り物を持ってくればいいのだ!」

なんていいタイミング!

「うん、じゃあ行ってみよう!」

「いってみよー!」

サーバルも元気よく拳を上げる。


…でも、なにか忘れてるような。と考えるとカラカルが恐る恐る口を開いた。

「ね、ねぇ…持っていくって行ったけど…どうやってこの乗り物を持っていくのよ?」

あっ。



「……」

……

静まり返ってしまった、アライさんもどう持っていくのか考えてなかったようだ。

静寂を、フェネックさんの口が開く。

「押せばいいんじゃないー?」

「そ、そういうことなのだ!みんなで押せば持っていけるのだ!」

…大丈夫かなぁ。ぼくは不安になった。

 荷台の後ろに回ってぼくとカラカル、サーバルとアライさんが押すことになった。フェネックさんは荷台に乗り、進行方向に障害物がないか確かめる役だ。

「それじゃあいくのだ!せーのっ!」

「「「せーのっ!」」」

 アライさんの掛け声を合図に、僕らはのりものを押し始めた。

4人の力でゆっくりと進んでいく。3人の力は凄まじく、ぼくは押すどころか精一杯しがみついているような感じだ。

すこし悔しいので、せめてもと精一杯押すことにした。

「あっ。まって・・・岩があるよー。」

フェネックさんの言葉を聞いた僕たちは手を止めた。

横から様子を見ると、なかなか大きな岩が乗り物のすこし前に転がっている。

「進むなら方向を変えないとー。」

「でもどうやって方向を変えるのだ?」

僕は少し考えた、乗り物のハンドルを切れば曲がってくれるだろうか?

「それなら・・・運転席のハンドルを回してみてよ!」

「わかったー、あれ?回らないよー。」


 ぼくは運転席へ歩いた、もしかしたら…こっちもだめになってしまったのだろうか?

「うーん・・・・ねぇ、あなたがやってみてよー。」

ぼくはフェネックさんの言われたとおりにハンドルに手をかけた。

ハンドルが回り、タイヤが動いている。

「あ、あれ・・・?」

「もしかして…ヒトにしか動かせないのかもね。」

「…じゃあ、ぼくがのりものの舵を切るよ。」

「うん、よろしくねー…あ、お名前聞いてなかった。きみ、名前はー?」

ぼくの名前をフェネックさんが訪ねてきた。

「キュルル、サーバルにつけてもらったんだ。」

「そっか、いい名前だねー。」

フェネックさんがニコリと微笑む。

 その笑みは…なんだか…懐かしいものを見て懐かしむような笑顔だった。

「んーーしょ!んーーしょ!」

3人の踏ん張る声が後ろから聞こえる。

ん?3にん?と振り返ると、フェネックさんは荷台に乗ったままだった。

「フェネックーーーーッ!手伝ってほしいのだー!」

「そうよー!ちょっとおててがいたいわー!というかアライさんばっか見てるじゃない!」

アライさんとカラカルが叫ぶ。

「いやぁ、アライさんの苦しそうな顔がたまらなくってさー。」

「やだ、さでずむ!」

「さでずむってなにー?」


「検索中…検索中…検索中…」

広い広い荒野の中を、僕らは力を合わせて進んでいった。











すみかにて。


「ふぅーっ…やっと着いたのだ!」

「腕がもうパンパンよぉ~っ、もー…。」

 のりものをみんなで運び、ようやくアライさんたちのすみかへやってきた。

ぼくの目の前には石?でできた灰色の建物が立っている。

開かれた大きな入口には、かばんさんの乗っていたバスとそっくりなのりものが止まっている。

更に奥を見てみると、赤い箱や山積みになったタイヤやおおきな機械が転がっている。

そういえば、これと同じようなのをかばんさんの住んでいたところで見た。

これは…かばんさんがラッキーさんに言われていた せいび? をするところなのかなぁ?

 周りを見てみると、あのバス以外にもいろんな形の乗り物が止まっている。

なるほど、これならタイヤがありそうだ。

「よーっし!いまタイヤをもってくるのだ!」

アライさんが元気よく走り出し・・・山積みになっているタイヤから一つ持ってきた。

しかし…そのタイヤは…。


「ちょっと、小さすぎるんじゃない?」

 カラカルがアライさんの持ってきたタイヤを見て疑問を投げかける。

アライさんが持ってきたタイヤは,僕らの乗り物のタイヤと比べると1回りも2回りも小さかった。

 更に厚さも足りないのでこのタイヤは使えないだろう。

「ほ、本当なのだ…」

アライさんの表情から自信がうっすら抜けていく。

「ねぇアライさん、他のタイヤってないの?」

そう聞くとアライさんはちょっと考えて

「まだ色んなタイヤがあるのだ!ちょっとまってろなのだ!」

そう言ってさっきのタイヤ置き場へ走っていく。

「なんか不安ねぇ、ついていったほうがいいんじゃない?」

 ぼくも少し心配になってきた。というわけでぼくらはアライさんのあとをついていき、タイヤ置き場の前に来た。

タイヤ置き場には、色んなタイヤが高く積まれている。

大きなタイヤ、溝のないタイヤ…

「こんなにあるのだ!きっと同じタイヤがあるとおもうのだ!」

僕らはタイヤの山をかき分けることにした。

 タイヤの山をかき分けていく、どのタイヤもぼくには大きくて重い。一つどかすのも大変だ。

しかし、どのタイヤも小さかったりボロボロだったりとちょうどいいタイヤは見つからない。

少し疲れてしまったので、ぼくはタイヤの上に座ってちょっとだけ休憩することにした。

 なんとなく手を眺めてみる、手は汚れていなかった。

手を近づけて見ていると、ゆびからタイヤの匂いがする。

 そんなことをしていると、後ろから笑い声が聞こえる。ぼくは背後を振り返った。

サーバルがタイヤの上にたって器用に転がしている。

「あはははっ!これ面白いねっ!」

「ちょっとサーバル!遊んでる場合?!…でもなんか面白そうね。」

「そうなのだ!遊んでる場合じゃないのだ!…つ、次はアライさんにもやらせるのだ!」

すっかり4人はすっかりタイヤで遊んでいる。

それを見てぼくは少しため息がでた、でもずっと探すのはつかれるし、気分転換にいいかも…。

ぼくはそう考えると、腰を上げて4人の方へ歩き出した。

「あっキュルルちゃんもやってみる?これすっごく面白いよ!」

サーバルがタイヤの上から話しかける。

「うん、じゃあぼくもやってみよ・・・って、あっ!」

サーバルが乗っていたタイヤはちょうどいいサイズのタイヤだった。

「こ、これだよ!これが一番ちょうどいい大きさなんだ!」

タイヤを指差す。

「えっ、これが乗り物に合うタイヤなの?やるじゃない、サーバル。」

「えっ、これだったの?」

どうやらサーバルはこのタイヤが正解だと気づかなかったようだ。

ちょっとアライさんが悔しそうな顔をしている。

アライさんがすこし咳払いをして

「よ、よくやったのだサーバル!あとはこのまん丸をあの乗り物につけるだけなのだ!」

僕らはタイヤを転がして乗り物のそばにつけた。

大きさも太さもピッタリだ、ただ…どうやってタイヤを交換するんだろう?


「ふふふ、アライさんに任せるのだ!」

というとアライさんがのりもののタイヤを引っぱる。

「ぐぬぬ…ぐ、ぐおーーーっ!」

アライさんが精一杯吼える、タイヤはピクリとも動かない。

「ちょ、ちょっとそれで抜けるわけ?」

カラカルが聞くが、アライさんは引っぱりつづける。

「ふぇ、フェネックっ!手伝ってほしいのだ!」

「はいよー。」

フェネックさんもタイヤを掴んで引っ張ろうとする。

二人の力を持ってしてもタイヤはピクリともうごかない、そのうち二人は尻餅をついた。

「いでっ!」

「いたーいっ。」

二人がお尻をいたそうにさする。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「どこか打っちゃった?」

カラカルたちが心配そうに駆け寄る、ぼくも二人に声をかけた。

「二人とも、大丈夫?」

「だ、大丈夫なのだ…って、ボスが喋ってるのだっ。」

立ち上がりながら運転席においたボスを指さす、ボスがなにか喋っているようだ。

「…ください。」

ぼくがラッキーさんに気がついた頃には、ラッキーさんは話し終わってしまったようだ。

「ラッキーさん!もっかい言って!」

「現在別のラッキービーストを呼び出しています、しばらくお待ち下さい。」

すると、どこからともかく水色のラッキービースト…ラッキーさんが現れた。

「乗り物修理に来たヨ、動かなくなってる乗り物はこれかナ。」

そういうとラッキーさんはてくてくと歩いてパンクしたタイヤをチェックしている。

「なるほド、タイヤに傷がついてパンクしてるネ。たいやのこうかんがひつようだヨ」

「それなら…ぼくらがタイヤを持ってきたよ。」

ぼくはタイヤを指さした。ラッキーさんが僕らの持ってきたタイヤをチェックする。

「…チェック完了。このタイヤは使えないヨ。」

「えっ!?」

そこにいた全員が驚きの声を上げた。

「このタイヤは使用済みデ、これを使うのは危険なんダ。持ってきてもらって悪いけド、別のタイヤと交換するネ。」


というとラッキーさんはどこかにトテトテと歩きだしてしまった。

………なんとも言えない空気が漂う。

とくに、アライさんが一番ショックを受けたようで言葉に言い表せないような顔をしている。

冷たい沈黙の中で、カラカルがどうにか口を開いた。

「で、でもボスがのりものを直してくれるみたいだしよかったじゃない、ね?」

精一杯のフォローだ。だけど……

「う、ううっ…うわあぁぁぁん!!」

アライさんが泣き出してどこかに走り出していってしまった。

「あ、アライさーんっ。」

「待って!アライさん!」

慌ててフェネックさんがアライさんのあとを追う。

ぼくもそれにつられて追いかけていった。



どうやら、林のなかに来たようだ。

思わず駆け出してしまったが、カラカルたちのことをほっぽりだしてしまった。けれど、戻るわけにも行かないし…なんて考えながら歩いていると、座り込むアライさんとフェネックさんを見かけた。

「う、ううっ…ぐず……うう~っ…」

「大丈夫だよー…アライさん、お願いだから顔を上げてよー…。」

アライさん三角座りのまま膝に顔をうずめて表情を見せない、だけども時々ひく、ひくっとしゃくりあげている。

フェネックさんはどうにかアライさんを慰めようとしているが、どうにも言葉が出ないようだ。表情からもしっぽからも余裕が無くなっている。

ぼくが近寄るのにフェネックさんが気がついた。

「あっ、キュルルさん。…追いかけて来てくれたんだー。」

ぼくはこくりと頷いた。

「その…アライさんをずっと泣いてて…どうしたらいいかわかんないというか。」

 フェネックさんの表情からはさっきの余裕さは完全に失われていて、どこか落ち着かないし、目を伏せて落ち込んでいる。

「その…さ、アライさんのこと励ましてほしいな。私じゃちょっと難しいみたい。」

 そういうと、フェネックさんはアライさんから少し離れた。

ぼくはアライさんの側によって、同じように座り込んで目線を合わせた。

アライさんはぼくが近づいたことに気が付き――――

「うっ、う…お、おまえ…きゅる…るなのか…?」

ぼくはうんと頷いた。

「…全然役に立てなくて、ごめんなさいなのだ…」

アライさんは顔を見せないままだ。

「うぅん、謝らなくっていいんだよ。その…アライさんはどうしてそんなに泣いているの?」

「それは…その…困ってたから…助けたいって思って…でも…空回りばっかで、全然役に立てなくって…悔しくて…うっ、うう…ひぐ…。」

「いいんだよ。僕らだけじゃ心細かったし、アライさんたちが来てくれて安心したんだ。」

「で、でも…結局アライさんはのりものを直せなかったのだ!なんもできなかったのだ!」

アライさんが叫ぶ。

「…だけど、だけどアライさんたちはぼくらを助けようとしてくれたじゃないか。」

「えっ…?」

 アライさんが顔を上げてくれた。ぼくはアライさんの正面に座り、目を合わせる。

涙で頬が濡れている。僕はよく考えながら言葉をかけた。

「確かに、アライさんはバスを直せなかったかもしれない。だけど、助けようとしてくれたじゃないか。ぼくはそれが嬉しいんだ。」

「……。」

アライさんは閉口している。ぼくは言葉をかけ続けた。

「もしアライさんたちが助けてくれなかったら、ぼくらはずっと困っていただろうし、もしかしたらあののりものを捨てることになっていたかもしれない。というかもう諦めかけてたんだ。」

「でも、そこにアライさんが手を差し伸べてくれた。結果はどうであっても、アライさんはぼくらを助けてくれたんだ。」

「…あらいさんは…役に立てたのか…?」

ぼくは強く頷いた。

「う、ううう~っ、わーーーーんっ!!」

「うわあっ!」

アライさんが飛びついてきて、ぼくは尻餅をついてしまった。

ぼくの胸でわんわん泣きじゃくっている。

そっと背中をさすり、アライさんを落ち着かせようとした。

ちらりとフェネックさんの方を見ると、どこかほっこりと安堵の表情を浮かべていた。

…しばらくして、アライさんはすっかりと落ち着いて、日もかなり沈んでいた。

「ね、アライさん。そろそろ帰ろっかー。」

「…うん!」

力強く頷いたアライさんの目には、もう涙は流れていなかった。






ゆうぐれ

さて、アライさんを連れてぼくたちはアライさんのすへ戻ってきた。

…だけど、そこで迎えてくれたのは二人ではなく……

セルリアンだった。

工具の形を模したセルリアンは僕らに一直線に飛んでくる。

フェネックさんが僕らをかばい、セルリアンをやっつける、すると奥からガッシャーン!と大きな音がした。

「い、行ってみよう!」

ぼくらは音の聞こえたほうに向かった。

建物の裏の方に行くと…シャッターのしまった…いや、シャッターが破壊された建物が立っていた。

破壊されたシャッターから、カラカルたちが出てくる。

「サーバル!カラカル!何があったの!?」

ぼくは二人に叫んだ。

「何って、セルリアンよ!ボスについて行ったらセルリアンが出てきたのよ!」

カラカルの背後から、丸い何かがものすごい勢いで突っ込んでくる。

「カラカル!危な――――」

ぼくがそう言い切らないうちに、サーバルを庇って押し倒す。

セルリアンは二人の上を飛んで走っていく。

二人に気を取られている間に、シャッターからたくさんのセルリアンが湧き出してきた!

セルリアンはぼくらを囲むように回っている。

ぼくらは、中心に集まってお互いに背中を預けた。

「すごい数…キュルルちゃん、隙を突いて逃げ出してね!」

「そうよ、こんな数相手じゃキュルルなんかすぐに食べられちゃうわ!」

「や~れやれ、アライさん。準備は出来てるー?」

「よーっし!アライさんに任せるのだ!」

…体が震える。


ばきっ、ぱっかーん。

サーバルたちがセルリアンを砕いていく。

そんななか、ぼくはその中で動けずにいた。

だって、隙を突いて脱出しろったって…そんなの難しいじゃないか!

そんなふうに考えていたら、タイヤ型のセルリアンがぼくめがけて突っ込んで来た。

「う、うわあっ!」

ぼくは思わず目をつむってしまった。

びゅうっ、と風を切る音と、ぱっかーん!と砕ける音が聞こえる。

「ほら、今のうちだよー!」

フェネックさんが叫んでいる、ぼくは急いで飛び出した、が。

少し走った先に石かなにかに躓いてしまった。

立ち上がろうとした時、ぞわりと寒気を感じた。

目の前にセルリアンがいる、決して大きくはない。だけど、ぼくにとっては恐怖でしかなかった。

助けを求めようとした、がみんな自分の目の前のセルリアンに精一杯で、ぼくのところにはこれなさそうだった。

……やるしかない!

ぼくはバッグからハサミを取り出し、柄の部分を握り眼前のセルリアンを見据えた。

セルリアンも、ぼくが武器を手にしたとわかると一直線に向かってきた。

「――――えいっ!」

下からすくいあげるようにハサミを振り上げた。

空中にセルリアンのかけらが散っていく、やった?!











視線をハサミに向けた。

折れている、ポッキリとハサミが折れている。

 ヒュルル、と風を切って刃の部分が落ちた。そして、セルリアンは空中でUターンし…こちらに向かってきていた。

…あぁ、今度こそもうダメだ。

手に握っていたハサミを落とし、まぶたを閉じた。








ぱっかーん。と、ぼくの耳に砕ける音が聞こえる。

「えっ・・・?」

 つむった目を開く、開けた視界には…しましまのしっぽと、青い毛皮の…アライさんだ!

「…アライさんにお任せなのだ!」

自信にあふれた声がぼくの胸に響く。

「あ、アライさん…ありが…うわっ!」

 言い切らないうちにぼくはカラカルに掴まれてしまった。

「ちょっと!もうちょっと空気読んでよ!」

「お礼ならあとでも言えるでしょ!とにかくこっから離れるわよ!」

カラカルの脇に抱えられたまま、ぼくは三人から離れていった。








 灰色の建物の前で、ぼくは降ろされた。

カラカルは口をへの字にして眉をひそめている。

「あんたねぇ、逃げなさいって言われてるのになんで戦ってるのよ。」

お説教の時間だ。

「で、でも…あのときはみんな手いっぱいで…仕方なかったんだよ…それに…」

ぼくはどうにかこうにか言い訳をした。

「そう…じゃあこんど上手に逃げる方法教えてあげるわ。」

お説教の時間が短かったのでぼくはホッとした。

すると、後ろからサーバルが読んでいる。3人の姿が見えた、三人共無事なようだ。

「キュルルちゃん!カラカル!お待たせ!」

サーバルが僕たちに手を降っている。

「あら、サーバルったら、ちょっと手こずってたんじゃない?前足の毛皮がボロボロよ。」

「カラカルだって、手袋がボロボロだよ!」

確かに、二人の手袋の…指のあたりがずたずたになっている。いや、ふたりだけじゃない。

アライさんたちの手袋もずたずたになっていた。

「そういえば…ボスはどうしたのだ?」

「…あっ!ボス!…どうしよう、さっきの建物で見失っちゃったよ。」

「ど、どうすんのよ…もしかしたらボス…」


背後からてくてくと歩く音が聞こえる、ぼくが振り返るとみんなも振り返った。

振り返った先には、水色のラッキーさんが立っていた。

「あっ、ラッキーさん!…よかったぁ。」

「いつの間にか抜け出してたんだー。抜け目ないねぇ。」

みんなも安堵のため息を漏らした。

「タイヤの交換が終了したヨ、いつでも出発できるヨ。ボクはもう帰るネ。」

そういうと、ボスはどこかへ歩いて行ってしまった。

のりもののタイヤは新品に変わっていた。

「おおー…なんだかピカピカだねぇ。」

タイヤが新品になったので、車体のオンボロさがさらに際立つ。

「それで…もういっちゃうのか?」

 アライさんがぼくに尋ねる。ボクは一度カラカルたちの方を振り返った。

二人の様子を見ると、怪我こそしてないけれど、どこか疲れているようだった。

 そういえば、カラカルはお昼寝出来ていなかったな…僕は少し考えて

「一晩だけ、ここにいようかな。」

と答えた。それを聞いたアライさんは、どこか嬉しそうだった。








よあけ

―――夜が明けて、出発の時間を迎えた。

 ぼくは眠たい目をこすり、二人を連れてアライさんたちに別れの挨拶をする。

アライさんたちも、少し眠そうだった。

「おはようなのだ!…きのうは眠れなかったのか?」

「うん、ちょっとね…アライさんも寝れなかったの?」

そう聞くと、それを待ってたと言わんばかりにアライさんが胸を張った。

「そうなのだ、アライさんが寝れなかったのには理由があるのだ!ちょっとついてくるのだ!」

 アライさんに誘われて歩いていくと、のりものの前に案内された。

ただ、のりものには白いシーツがかけられて隠されている。

「ふっふっふー…フェネックっ!いっせーのでひっぱるのだ!」

「はいよー、いっせーのっ。」

「ちょ、はやいのだああっ!!」

フェネックさんがシーツを引っぱる。すると…

ぴっかぴかののりものが僕らの前に姿を表した。

「すごい…これアライさんがやったの?」

「せーかくには、フェネックといっしょにやったのだ!」

「アライさんすっごーいっ!」

「…た、たしかにスゴイわね。」

称賛の声をうけて、アライさんとフェネックはどこか誇らしげだ。

「ありがとう!アライさん、フェネックさん!…その、お礼と言ってはなんだけど。」

ぼくはスケッチブックを取り出し、一ページを切り離した。

「ふたりを描いてみたんだ、…どうかな?」

二人はぼくの絵を興味津々に見つめる。

「おぉ…これは…ありがとうなのだ!大事にするのだ!」

「よかったねぇ、アライさん。」

アライさんもフェネックさんも嬉しそうだ。

そんな姿を見てぼくも、なんだかあったかい気持ちになる。

のりものが動き出し、ぼくらは進んでいく。

「またあおうなのだー!」

「またねー。」


二人は、二人が見えなくなるまで手を降ってくれた。

さぁ、旅を続けよう。

































































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