じゃんけんの国

塚野 夜行

第1話

 あるところに、じゃんけんの国がある。

 その国は小さい国土に畑が広がり、各地域に点在する町並みはいたって古風である。鉛筆の先を地面から生やしたような形の家が、石畳の道の両脇を縁取るようににょきにょきと並ぶ。昼は町の中央の市場がざわめき、客を呼び込む大声とそれに負けない客のざわめきが響く。夜は打って変わって森のように静かになり、家々の明かりが灯る町を見下ろせば星空のようである。

 ところでなぜその国がじゃんけんの国、と呼ばれているのか。国民がじゃんけん好き、というわけでもない。ただ、その国で生まれた人は赤子のころから、もしくは外からその国に入ってきた人は、どんな人でもとある『属性』を持ってしまうのだ。

 その属性とはもちろん、『グー』『チョキ』『パー』である。人々はこの国の敷地に入った瞬間から三つのうちのどれかの性質を持たされる。それらは形こそ見えないが、持っているものがどの属性かは自覚できるし、他人の属性もなんとなくわかる。自分や相手の性格が理解できる、という感覚に似ているかもしれない。

 もちろん、その属性に意味はある。なんとじゃんけんと同じ、自分より強い属性を持つ人にはあらゆる面で何をしても勝てない。その逆もある。『グー』の人はどれだけ畑を耕しても隣の『パー』の人よりもたくさんの芋がとれない。体格のいい『パー』の人がもやしのような『チョキ』の人とケンカをしても、偶然や不幸が重なって負けてしまう。だから『パー』の人はケンカをするときには『グー』の人を無理やり連れていくのが普通だった。

 たくさんの学者が、その国でこの属性の研究をしていた。しかし、どの学者も最後には頭を九十度捻らせて「わからん」と唸るのだった。

 その国では、生まれ持ったじゃんけんの属性がすべてである。全ての属性が仲良しの地域も僅かながらあったが、国民のほとんどは自分より強い属性の人には近付かないように暮らしていた。

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