第124話15-2

 夜の9時を過ぎた頃。ジュリは自室にてお気に入りの洋楽を掛けながら、塗られた迷彩色に愛用のチェーンソーを分解していた。。


「Keep in the darknes eyes~♪ ん?」


 作業台の横に置いたスマートフォンが鳴動し、着信を告げる。そのスマートフォンの画面には『清水@面倒ごと』と表示されていた。

ジュリはそれを見ると眉をひそめ、工具手袋を外して掛けていた眼鏡を手袋の上に重ねるとスマートフォンを手に取る。


『あ、もしもし。ジュリ、仕事の依頼なんだが』


「清水さんから連絡があった時点で分かってたわよ。それで依頼内容は?」


「ああ、前にお前ら2人に紹介した依頼の再調査だ。なんでも、ぶーどぅー村?でどでかい芋虫みたいな化けモンに襲われたらしい」


 その清水の言葉を聞いて、眉をひそめていた表情がさらに険しくなる。

清水が言いたいことは、つまり自身の仕事に不手際があったから自分たちで後始末をしろ、というものだからだ。


「あ~、分かったわよ。 ……でも、ゾンビたちを退治したあとはそっちが死体とかの後始末をしたはずよね?」


「ああ、そこら辺にとっ散らっていた”元ゾンビ”液は全部処理したぞ。逆に取りこぼしが居たとかないよな?」


 ジュリは少しだけ考えるが、そもそも前回退治したのはあくまで人型のゾンビであり、”芋虫”ということにやや引っかかりを覚える。

そしてまた、自身の仕事にケチをつけられた様に感じたのであった。


「まさか。取りこぼしなんて初歩的なミス、私と兄さんがすると思っているの?」


「いやぁ、念のためだ。まあ、そこら辺は信用しているさ。じゃあ。再調査の件、頼むぞ」


 言いたいだけ言われて、清水との通話は終わる。 

ジュリはスマートフォンを乱雑に手に握ったまま自室を出ると、キッチンで夕食の準備をしている兄の元へと向かう。


 キッチンに入ると、揚げ物の香ばしい香りに包まれる。

その香りの震源地で水色のエプロンを身につけたジョンが、真剣な表情で天ぷら鍋の中を菜箸でつついていた。そして背後の気配に気がつくと。菜箸を持ったまま振り返る。


「なんだ、つまみ食いにでもきたのか? まだ、夕ご飯のコロッケは揚がっていないぞ」


「それも魅力的なんだけど、清水さんからの依頼があったのよ。で、少し相談したいんだけど」


「んん?」


「前にほら、『死体の踊り子《ネクロマンサー》』を退治したこと覚えてる? あそこでまた”出た”らしいのよ」


「……またゾンビか?」


 ジョンは一瞬だけ考えを巡らせると、その”ゾンビ説”をすぐさま否定する。


「いや、それはないか。ああいった手合いは、操り手が死ねば全部ご破算になるもんだしな。なにより、俺が最後に村中くまなく見回ったんだ、取り逃がしはないはずだ」


「今度”出た”のはゾンビじゃなくて、大きい芋虫だって言われたわ。本当、意味が分からないわよ」


 ジョンはさらに考え込んでいたが、ふと何かに気がつく。


「なあ、ジュリ。あのネクロマンサーのじいさん、ゾンビを作る以外のこともしていたんじゃないか。というかそれ以外に考えられないぞ」


「でも、基本的には術者が死ねば全部なくなるわよね? それに兄さんが呪文書と祭壇とか壊してくれたんだし」


「だよなぁ」


 ジョンは頭を掻きながらさらに考え込む。

少しすると、キッチンに焦げたような臭いが立ち込める。


「兄さん、焦げてる」


「あっ」


 急いで鍋からコロッケを回収するが、そこには衣が焦げて無残な姿となった”元”コロッケがあった。


「あらら……やっちまった。この焦げたのは俺が喰うか。まあまだタネはあるし、とりあえず夕飯を食ってから依頼に取りかかるか」


 そういうと、ジョンはコロッケのタネを鍋に放り込む。

その横でジョンを手伝うために、ジュリは黄色のエプロンを身につけるのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る