第122話14-14
――雑踏や人の話し声が混じるカフェの一角。
ケーキを口に運びながら喋るジュリの対面で必死にメモをとり続ける雅司の姿があった。
「これが、私がチェーンソーを使っている理由よ。ただ手に馴染んだから、ただそれだけよ?」
ケーキの最後の一欠片を口に運ぶと同時に、自身が何故チェーンソーを使うようになったのか語り終えたジュリ。
一方で必死にメモをとり続けていた雅司はペンを横に置くと、自身の注文したアイスティーに口をつける。
「ちなみに、その正造さんって方から頂いたチェーンソーには何か不思議な力とかあったんですか?」
「え?」
「例えば、チェーンソーに聖なる力があるから怪異をたたき切れるとか。なんかあったんですか?」
「いえ、特にないわよ? ちょっとカスタムがされてたけど、普通のチェーンソーよ」
その言葉を聞いて、雅司はやや肩すかしを食らったかのような表情になる。
雅司が期待していたのは『古来から家系に代々伝わる秘宝や、伝説の師匠的な人から受け継いだ伝説の武器』というイメージだったのが、何の変哲もないものだと教えられたからだ。
「えー、なんか聖剣エクスカリバーや魔刀ムラマサみたいなものを期待していたんですけど、違うんですね……」
「え、なに。そんなことを期待して私にチェーンソーのことを聞いてきたの?」
噴き出しそうになりながら、ジュリは言葉を続ける。
「そもそも、チェーンソーなんて今の形になってから百年も経ってないのよ? そんな伝説なんて出来るわけないでしょ」
「いや~僕のイメージしたのとはだいぶ違ってて……。 あ、ところで世の中にはそういった特別な武器とかってあるものなんですか?」
「ん~、まああると思うわよ。ただ、そう言うモノは大概は使っている本人がその武器の存在自体を隠しているか、博物館とか特殊な施設で厳重に封印されているかでしょうね」
「どういうことです?」
「だってみんなが知っているようなものなんてほとんど全部歴史があって価値があるものよ。そんなモノを個人が自由に持ち歩けるわけがないじゃない。持ち歩けるとしたら、そもそも存在自体が隠されてきたようなモノしかないってことよ」
「ああ、まあ確かにそうですよね……。 今日は色々ありがとうございました」
そう言って雅司はアイスティーの残りを飲み干すと席から立ち上がる。
荷物をまとめて、レジまで行こうとした雅司は何かを思いついたかのように動きを止める。
「ところで正造さんにもお話を聞くことって可能ですか?」
「……無理ね。3年前に亡くなったわ」
「その、怪異に襲われて……?」
「いいえ、道路に飛び出した子供を庇ったそうよ。自分の命が一番って言ってたのに、本当は違ったみたい」
少しだけジュリと雅司の間に沈黙が流れる。
微妙な空気になったのを察した雅司は逃げるように「ありがとうございました」と小さくつぶやいてレジへと消える。
「逃げるように帰らなくたって良いじゃない……」
後に残されたジュリは不満げにそう漏らすと、追加のケーキを注文するために店員を呼び止める。
近づいてきたチーズケーキとホットミルクを注文すると、腕時計で時間を確認する。
「まあ、本音と建て前は大事よね。 ……でも”自分の命が一番大事”が建前じゃなくたって良いのに」
ジュリはそう独り言をつぶやくと、まぶたを閉じて正造や雪江のこと、当時の自分のことに想い耽るのであった。
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