第70話 11-3
ポニーテールの女がインターフォンを押してすぐに、家の中から何かが歩く音が聞こえてくる。
その重い足音から、ポニーテールの女は、中から歩いて来るのは男だと感づいた。
「誰だ?」
無精ひげを生やして、寝間着を着たジョンが寝癖をつけたままドアを開ける。
ジョンの様子は先ほど起きたばかりといった感じであった。ジョンはポニーテールの女を観察すると、女はまだ20歳前後といった顔立ちであった。
「あー……えぇと、初めまして。ワタクシ、篠生 鈴《しのう りん》と言います」
「ああ、どうも。それで、その篠生さんがどうしてここへ?」
「こんな玄関先で話すことではありませんの。 ……中に入っても?」
少し考えていたジョンであったが、ため息をついて鈴に視線を合わせる。
「5分待ってくれるか」
「ええ、準備が出来たら声を掛けてください」
5分後、中の準備が出来たらしく、ジョンが中から鈴を呼ぶ。
その声に反応して、鈴は玄関の扉を開けて応接間へと足を踏み入れる。
そこには、寝間着姿のままのジョンと、不機嫌そうな顔をしたジュリが座っていた。
鈴が2人の前に座ると、目の前に紅茶の入ったティーカップが差し出される。
「それで、ウチになんの用があってこんな早朝に来たのよ?」
「単刀直入に言いますと、ワタクシたちを助けて頂きたいの」
「助けろですって? アナタたち怪異を?」
ジュリが眉をひそめながら、応対する。その様子に鈴は驚いたように目を見開く。
驚きの余り立ち上がり掛けた鈴であったが、すぐにイスに座り直す。
「まだ、そのことは話していないのに、ワタクシが怪異だってよく分かりましたね?」
「匂いよ……。 上手く隠しているけど鉄と獣の匂いが僅かにしたのよ」
「そうよ。ただし、ワタクシたちは怪異を捨てましたの。怪異を捨てた怪異は”オルハ”と、呼ばれてますのよ」
「それで、そのオルハがどんな依頼を?」
ジョンが鈴に質問を投げかける。鈴は、ジョンを見つめながら次の言葉を探しているようであった。
「ある物を移送するのを、護衛して頂きたいのです」
「アナタたち怪異を護衛することに、私たちに何のメリットがあるの? 個人的な見解を言わせてもらえれば、怪異同士がつぶし合っている状況は、人間にとっては良いことだと思うんだけど?」
「まあ、ジュリ。話を聞くぐらいなら良いじゃないか。そうだろ?」
かなり不機嫌になっている妹のジュリを窘めながら、ジョンは鈴に話を促す。
鈴は無言で頷くと、話を再開する。
「先日、ワタクシたちの幹部たちが拉致されまして、次々と拷問を受けて死んでますの。拉致したのは、目撃情報から、恐らく”祝福されし仔ら”、そして彼らの目的は、彼らからの預かり物」
ジュリはその言葉を聞いて、少しだけ顔色を変える。
「ある物って?」
「それは言えませんの。ただ先日、”それ”を保管していた岩手の支部が襲撃されましてね。なんとか奪われずに済みましたが、もう岩手には置いておけませんので、別の支部に移す予定でして……。 その護衛をお願いしたいのです」
ジョンは腕を組んで悩んでいたが、鈴に視線を向けて口を開いた。
「報酬は幾ら位払ってもらえるんだ? ……あと、祝福されし仔らの情報をあるだけ欲しい」
「前金でこの額を……。 情報はこの依頼を受けてくだされば、すぐにお話し致します」
鈴は胸から小切手を取り出すと、ペンで額を書き記す。その額は7桁後半の数字が記されていた。
ジュリとジョンは無言で目を合わせると、言葉を交わさなくてもお互いの言いたいことを理解する。
「分かったわ……すぐに準備をするから、少し時間をちょうだい」
そうしてジュリとジョンは同時に立ち上がると、遠出に備えて荷物を準備し始めたのであった。
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