第64話 10-7
ジュリは廊下に穴を開け、その先の洞窟へと足を踏み入れる。そこの床は先ほどの堅い廊下とは異なり、柔らかで赤黒く、血管の浮き出たグロテスクな洞穴であった。
「これが本当の”血管 (欠陥)住宅”ってか」
ジュリの後から続いて入ったジョンが口笛を吹きながら、辺りを見渡す。
「下らないことを言ってないで、早く行くわよ」
ジュリはチェーンソーを構えると、洞窟の奥へと進む。ジョンはため息をつくと、散弾銃を構えて後ろを歩いて行く。
そうしてしばらく2人は薄暗い洞窟を歩き続ける。2人の足音が聞こえる以外は、聞こえるのは家鳴りのみ。
ジョンは先ほど、2人を襲った白骨死体群が後ろから来ないかと警戒していたが、その気配は一切しなかった。
「ここが心臓の一番近くみたいね」
ジュリはある地点でピタリと足を止める。そこは、もっとも家鳴りが大きく聞こえる場所。そしてよく見ると、壁が微かに鼓動を刻んでいた。
「壁が動いてるな……に、してもさっきと変って何も出てこないな」
「その言い方だと、出てきてくれることに期待しているみたいよ?」
ジュリは壁にチェーンソーの刃を当てると、エンジンを吹かして刃を回転させる。
その刃はすぐに壁にめり込んでいき、壁からは大量に赤茶けた液体が噴き出し始める。そして家鳴りが、否、家鳴りに似た鼓動が早くなる。
「……あら?」
ジュリが壁に刃を突き立てて、違和感を感じた。その刃の先が空転しており、壁が想像以上に薄かったのだ。
つまりそれは、この壁の先にまた空間があることを示唆していたのだった。
「直接、心臓に当たるかと思ったのに。空間がまたあるなんて」
ジュリは壁をさらに切り開いていく。ジュリたちの目の前に広がるのは、和風の庭と錦鯉が泳ぐ池、その池を望む小さな屋敷。
ジュリが上を見ると、先が見えない闇が広がっていた。ジュリが一歩その庭に足を踏み入れると、足下に敷かれた砂利が小さく音を立てた。
「ここは心臓のはずだろう? なんで家の中にまた家が?」
「さあ? 誰が建てたにせよ、ここを建てたやつは良い趣味してるわね」
ジュリは足下に転がっている小石を1つ取ると池に投げ入れる。池にいる錦鯉たちは、小石に驚き池の中を逃げ回る。池に波紋が広がるが、それもすぐに収まった。
「さて、屋敷に入るわよ」
ジュリはゆっくりと屋敷に近づくと、ジョンに目配せをする。ジョンは無言で頷くとジュリの横に立ち、木製の扉に並ぶ。
「1,2……3!」
2人で同時に木製扉の玄関を蹴り飛ばす。そして木製の扉は2つに割れて屋敷の中を音を立てて、大きく転がる。
屋敷に突入した2人が見たのは、玄関から屋敷の奥まで広がる、長方形の一室。そしてその部屋の中央に鎮座する小さな木造の小祠。そして2人に背を向けた姿勢で、祠の前に立つ、ガリガリに痩せて髪のない男。
ジュリとジョンはその男を見た瞬間、ピタリと動きを止める。2人は今まで怪異を狩り続けた経験と勘から、その男の異様さを肌で感じ取ったのであった。
と同時にジュリはその後ろ姿から、あることに気がついた。
「あの男、植野教授と空港に居た……?」
その声に反応してか、祠の前に立っていた男がジュリたちにゆっくりと振り返る。
その男はガリガリに痩せていて、目の下には大きなクマがあり、顔色が紙の様に白かった。
そして白目がない瞳で2人をゆっくりと見回すと、突然その男の顔の皮膚が裂けて血が滴り落ち始める。
その傷跡に、ジュリとジョンは同時に反応する。それは、手を逆さにした形の紋章、そして紋章の下に読めない字。
「それは”祝福された仔ら”の傷跡……?」
ジョンがそのことを口にした瞬間、その皮膚が裂けた男は動けない2人に向かってゆっくりと歩いて来るのであった。
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