第50話 8-8

ジュリの右腕を掴むは、ドロドロに溶解して下半身は完全に植物と融合していた植野教授であった。

植野はジュリの右腕を握りつぶそうと、さらに力を込めた。


「くっ」

植野が力を込めた瞬間、ジュリは漆黒のドレスグローブを脱ぎ去った。

植野の手に残る、ジュリのグローブ。それが植野の手の中で小さく握りつぶされた。


「こんなところで、何をしているのかしら。植野教授?」


植野教授と呼ばれた異形は、なにやらぶつぶつと早口で喋る。


「コノハナダイスキダレニモキヅツケサセナイコノハナダイスキコノハナダイスキダレニモキヅツケサセナイ……誰にも渡さない」


「話が通じそうもないわね……」

ジュリは大きく一歩だけ下がると、半回転して兄の方にチェーンソーの刃を向ける。


「兄さん!」


ジョンは胸から小瓶を植野の方に投げつける。それは放物線を描きながら、植野の上を飛ぶ。

「ジュリ! お前に頼まれた劇薬の”農薬”だ!」


「兄さん。ありがと」


 ジュリは空中で小瓶を斬ると、中に入っていた農薬が細かな飛沫になって、植野の体に降りかかる。同時にその飛沫は、チェーンソーの刃へと塗りたくられた。

植野の体に農薬が付着すると、その箇所が黒い斑点が残る。痛みからか、大きく身をくねらせる植野。そのスキを見逃さず、ジュリは大きくチェーンソーを振りかぶり、植野の首へと振り下ろした。


「さようなら、教授」

 ジュリの刃は、植野の首にめり込む。そして植野の首筋から、血の代わりに、黄色い液体が噴き出す。その液体からは強い花の香りが漂い、部屋の中を充満する。

ジュリはその香りに意を介さず、そのまま半回転すると今度は植物の先端、花がついている部分を切断する。次は葉、茎と植野と融合していた植物を解体していく。


 「こいつはオマケだ!」

ジョンは植野とその植物に向かって火炎瓶を投げつけると、手に持った散弾銃を乱射する。

その弾丸は植野と植物に当たり、火花が飛ぶ。


 そして、植野と植物は炎に包まれる。部屋に充満していた香りが、髪の毛を焼いたような嫌な臭いに変っていく。

その臭いに、眉をひそめながら、ジュリは植野と植物が灰になっていくのを見つめていたのであった。


「これで、終わりだな!」

ジョンがジュリの肩を叩きながら話しかける。ジョンは仕事が一段落したので、ジュリに家に帰ろうと促したのであった。


「……ええ」

ジュリは植野を見つめながら、1つの疑念を抱いたがまだそれを口には出さなかった。


 階段を昇り資料館から外に出る2人。

ジュリとジョンが資料館を出た直後、大学が火の海に包まれた。

ジュリにより連絡を受けた清水が、大学を”消毒”し始めたのであった。


「ジュリ! 走るぞ!」

火が、熱が2人を襲う。

そしてジュリとジョンは校内を駆け、大学から脱出したのであった。






燃えさかる資料館。その2階より、脱出をするジュリとジョンを見つめる黒い影。

その影は、資料館が火で倒壊すると同時に消え去ったのであった。

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