第46話 8-4
絵里子は男が駆け出した同時に、指が動き、警察への電話が繋がった。
『もしもし。こちらは警察です。事故ですか? 事件ですか?』
通話が繋がった瞬間、絵里子はスマートフォンを耳に当てて走り出す。
「たっ助けてっ!」
『何があったんです?』
「へ、変な男に追われて……!」
「落ち着いてください。男の特徴と、場所を教えてください」
絵里子は男を確認するべく後ろを振り返った。
「ひっ……」
もはや、男はその手が絵里子の背を触れようとするところまで来ていた。
絵里子は、自身の真後ろまで迫った、その男の顔を見てしまった。
男の口から生えたツタは、ぬらぬらと濡れからて細かく震えていた。しかもその表面には、血管のような筋が何本も浮いており、小さく収縮していた。そしてそのグロテスクなツタに見合わない、可憐な紅い花が一輪、その茎の先より咲いていた。
『もしもし、大丈夫ですか?』
「花がっ、口から……!」
『は?』
絵里子は応対した警官の余りの危機感のなさに、怒り、叫ぶ。
「早く助けっ……!?」
その瞬間、男の手が小鳥遊の肩を掴んだ。肩に男の爪が食い込み、小鳥遊は乱暴に道路へと叩きつけられた。
叩きつけられた衝撃で、手に持ったスマートフォンは吹き飛び、道路を転がる。
「あぐっ……」
道路に叩きつけられ、転がったことにより右袖が裂けて、出血する。そして絵里子は口から苦悶の声を漏らしたのであった。
同時に絵里子は頭を撃ち、少しだけ意識が飛ぶ。
次にまぶたを開けたときには、男に両手を押さえられた状態で組み伏せられ、自身の出血した腕を花の部分で舐められていた。
「ひっ!」
絵里子が驚きの余り叫ぼうとした瞬間、血を舐めていた男が鼻の先まで顔を寄せる。
そして、口元を歪ませて、醜く笑うのであった。
男は絵里子の首筋を数回、花先で舐めるような仕草をする。舐められた後には、薄黄色をした粘液が街灯の光を鈍く返した。
「い、いや……!」
そして、次の瞬間、男はその花先を小鳥遊の口に中にねじ込んだ。
「~~~!!!?」
絵里子は、その花の侵入を阻むべく、力の限り歯を食いしばる。しかし、男のねじ込む力は強く、段々と口が開かれる。そして、
「う”ぅう”~!?」
花先が、絵里子の口内に侵入した。絵里子は抵抗すべく、手足をばたつかせようとしたが、男にがっちり掴まれているため無駄に終わる。
絵里子には喉奥に侵入したツタが、花が焼き付いた棒のように感じる。そしてその花先が、喉奥に食い込むと、ツタがポンプのように収縮し始める。
「う”っ!?う”~!?」
絵里子は歯を立てて、ツタを噛みちぎろうとしたが、歯の跡がほんの僅かにツタに付くのみであった。そしてその抵抗をしている間に、絵里子に意識が段々と朦朧としてくる。花が突き刺さっている喉奥は焼けるように熱い。
だが一方で絵里子は同時に、異様な寒気がするのを感じ始めていた。
男のツタの収縮が段々と早くなっていく。
男は、絵里子の血を吸い取っていたのだ。
「あっ……」
絵里子はもはや虚ろな目で男を見る。四肢の先は血液が少なくなった影響で冷たくなり、心臓はゆっくりとその動きを弱める。さらに血液が少なくなったことで脳へ酸素が行かなり、思考にもやが掛かり始めた。
絵里子は回らない頭で、自身に死が忍び寄るのを感じていた。
「こんなところで、何をしているのかしら?」
突如、ジュリが大型チェーンソーの刃を回転させながら、民家の屋根より飛び降りてくる。
そしてそのまま、ジュリは絵里子の喉に突き刺さったツタを切断したのであった。
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