第35話 6-6

  ジェットコースターは坂を下り始めた。揺れるジェットコースターの上、ジュリは大きく跳躍すると、ニセモノを袈裟切りにする。

しかし、”ニセモノ”はジュリの刃を横に一歩動くことで、その刃を躱す。チェーンソーを振り下ろした状態で、一瞬だけ無防備になったジュリの首に目掛けてニセモノはチェーンソーを横に振るう。


 「くっ……」


ジュリは咄嗟に頭を下げる。そのギリギリ上を刃が通過していく。ジュリの黒髪が少し切られて、闇夜に舞う。ジュリは右手をチェーンソーから離すと、ニセモノの腕を殴りつけた。

だが、ニセモノは腕を殴りつけても微動だにしなかった。ニセモノがチェーンソーを振り回した遠心力を利用してそのまま半回転すると、ジュリにローキックを放った。


 ジュリの右足にローキックが入り、その衝撃でバランスを崩す。ジュリはジェットコースターの揺れもあり、仰向けに倒れ込んでしまった。ニセモノはジュリにとどめを刺そうと、ジュリの顔面を半分に分断するようにチェーンソーの刃を振り下ろした。ジュリもチェーンソーでニセモノの刃を受け止めるが、相手が体重を乗せられる分、少しずつではあるが押されていく。


「このままじゃ……死ぬわね」


 ジュリの目の前にチェーンソーの刃があと少しで触れようかという瞬間、突然ジェットコースターが動きを止めた。その衝撃で、ニセモノは体勢を崩した。

ジュリはその瞬間を見逃さず、ニセモノの下腹部を渾身の力を込めて蹴飛ばす。


 ニセモノの体は大きく吹き飛び、ジェットコースターから落ちる。そして、ジェットコースターの下にある大きな池から、大きな水音が響いた。そして何かが泳ぐ音も。

池に落ちたニセモノに向けて重い音が数発響いたが、ニセモノは意に介さず、池を泳ぎ、岸に上がるとミラーハウスの方へと駆けていった。


 ジュリはジェットコースターの座席に寝転がったまま、息を整える。そこに、ジェットコースターを操作して、運転を止めたジョンが駆け寄ってきた。


「おい、ジュリ! 大丈夫か!」


「ええ。なんとかね…… 私のニセモノはミラーハウスに行ったみたい」


「アイツが池を泳いでるときに、撃ったんだが、当たらなかったみたいだな」


「早くニセモノを追いましょう…… 手を貸してくれる?」


ジュリが差し出す手をジョンは力強く握った。ジュリたちはジェットコースターから降りると、ミラーハウスへとひた走った。ジェットコースターに来るまでに大量にいたムカデの姿は、不思議となかった。



 2人がミラーハウスに着くと、辺りには言いようのない雰囲気が立ち込めていた。それから、強い血の臭いがミラーハウスから風に乗って鼻をついた。


「この臭い…… やっぱりここが当たりみたいね?」


「そうだな……よし、ニセモノを中で挟み撃ちにするぞ」


「分かったわ」


そうしてジュリは入り口から、ジョンは出口の方からミラーハウスに突入した。

ジュリが中に入った瞬間、ムカデを退治しに来たのと同様に、幾万ものジュリが鏡の中に映り込む。

前回と違うのは、ミラーハウス内に照明が点り、まぶしいぐらいの明るさであった。


 ジュリは警戒しながら、ゆっくりとミラーハウス内を探索する。ジュリとジョンは別々の出入り口から侵入したが、ミラーハウスのちょうど中央部辺り、ジュリがムカデを切り倒したところで合流することが出来た。

ニセモノを挟んで向かい合うジュリとジョン。


 ジョンは同士討ちを避けるために散弾銃を投げ捨てると、胸からサバイバルナイフを取り出して右手に握り、もう片手にはM9、所謂9mm拳銃を握る。


「ようやく追い詰めたぞ! このジュリのニセモノが!」


ジョンは左手で握ったM9をニセモノの頭に向けながら、吼える。


「お前はどこから来たんだ? 何でジュリと顔が似てるんだ」


「無駄よ、兄さん。私のニセモノは喋らないわ」


ニセモノは口を開かない。

だがニセモノは無言で鏡に向かって指を差した。その鏡はムカデの血が大量に掛かった鏡。


「お前、まさか……鏡の向こう側から来たのか?」


 ニセモノからの返事は、ない。

返事の代わりなのか、ニセモノはジョンに向かって地面を蹴り、チェーンソーの刃を突き出しながら突進してきたのであった。

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