第20話 4-4

「まあ、こんな話なんですけど、何か分かりますか?」


雅司は目の前でショートケーキをつついているジュリに向けて話す。チョコパフェを食べ終えたジュリは、そのままショートケーキを食べていた。ショートケーキに乗せてあるいちごを脇に寄せると、スポンジと生クリームを少し大きめにフォークで切って頬張っていた。


「つまり、その先輩を助ければ良いの?」


ジュリは脇に寄せたイチゴを、一口で食べきる。


「ええ、そういうことです。何か方法は?」


「方法はない訳じゃないけど、もう時間がないわね」

 

 ショートケーキは、もう半分もない。その切断面は、赤と白と黄色の綺麗なグラデーションを覗かせていた。


「えっ」


「すぐにその取った水を元の場所に戻したら、変わっていたんだろうけど」


「どういうことです?」


雅司は身を乗り出しながらジュリに聞く。ショートケーキはもう4分の1しか残っていない。


「簡単に言えば、その富江っていう人は水そのものじゃなくて、水を通した山の意志に好かれたのよ。言い方を変えれば山の神といったところかしら。そこの水を持ち帰ったことによって、自分から相手に逆マーキングしたようなものよ。それで、水をすぐに元の場所に戻せばなんとかなったんだろうけど……見て」


ジュリが窓を指さすと、窓ガラスを叩きつける激しい雨が見えた。


「そういえば、今日はゲリラ豪雨に注意って……」


 ジュリはショートケーキを食べ終えて、ミルクティーをすすっている。


「それで、そのペットボトルっていうの「僕、先輩を見に行ってきます!」」


ジュリの説明を遮るように雅司は声を上げると、伝票を持って店から消えていった。


「まだ話は終わってないのに」


ジュリは残りのミルクティーを飲み干すと、カフェを後にした。


 店から出た雅司は富江に連絡を入れるが、誰も出なかった。

ずぶ濡れになりながらも、富江の家に着いた雅司が見た物は、無機質な表札と、人の気配を感じない紺のドアだけであった。

その日、雅司は富江に会うことが出来ず、次に急いで向かった大学でも富江を見ることはなかった。

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