第11話 3-2
6人の男女を乗せたウィッシュが山道をガタゴトと揺らしながら真夜中をひた走る。運転手は|佐藤 剛さとう たけし》だ。もちろん、飲酒運転なのだが、剛はまったく気にしない。
ジュリは雅司と最後尾に座っていた。ジュリは雅司が話したいような素振りを見せているのに気がついていたが、面倒くさかったのであえて気がつかない振りをした。
助手席に座っていた篤が口を開く。
「先輩、肝試ししに行く場所って、どんなところなんですか?」
「ああ、何でも怪物が出るって言う廃病院だ」
後ろから紫苑と奈緒が『ええ~?』と声を出す。
「いやいや、これ結構マジ話なんだよ。これは俺の兄貴から聞いたんだけどな」
――兄貴が中学二年生の頃だから、もう10年ぐらい前の話なんだけどな。兄貴の同級生に”ガンプ”ってあだ名の男子が居たんだ。ちなみにあだ名の由来はウスノロっていう意味らしいんだけど、まあ、やっぱりというかその”ガンプ”といあだ名の通り、普段から注意不足からかミスを毎日していたんだ。そんな悪目立ちをするヤツは大概、お笑い役かまたはいじられ役に回るよな? ”ガンプ”は当然、後者だった。今、考えると軽い発達障害だったのかもしれない。
見た目も小太りだったからか、いつの間にかいじりがいじめに変わってった。その頃だろうか、”ガンプ”はある超能力に目覚めたらしい。
いじめられっ子がいきなり超能力者に? 確かにうさんくさい話だ。まあまあ、そんな顔で俺を見ないでくれ。俺もこれは兄貴に聞いただけなんだからさ。
その超能力が『面白いことをしたら、どこからか大人数の笑い声が響く』っていうもんだった。一時期かなり有名になったんだぜ?
”ガンプ”がその超能力に目覚めてからは、一躍人気者になったんだ。だって、あまり受けないことを言ったとしても、どこからか笑い声が響いて、それにつられてみんなが笑っちまうんだから。
だが、段々とその超能力もおかしくなっていったらしい。
”ガンプ”が高校に入った頃だ。その超能力の範囲が広がっていったんだ。最初はヤツが心で面白いと思っていることに笑い声が反応するようになった。
それはそれで、ヤツは人気者だった。誰もが、面白い話をして、相手が笑ってくれたら嬉しいだろう?ここまでは良かったんだ。ここまでは。
次第にその超能力が、”ガンプ”に関係の無い誰かが面白いことをしたり、話したりすることにも反応するようになった。その頃から、段々と、周囲から不気味がられる様になっていったんだ。
次にその笑い声が、他人がミスをしたら、笑い声が響くようになったんだ。その頃には、”ガンプ”はひどいいじめに遭うようになっていたんだ。
最後には自分がミスしても笑い声が響くようになっていったらしい。兄貴が最後に”ガンプ”を見たのが、誰も居ない教室に1人でじっと笑い声に耐えている姿だった。
ここからは又聞きになるんだけど、”ガンプ”は高卒で就職したらしい。だが、そこでも”ガンプ”はその超能力に苦しめられたんだと。
職場でもミスを連発し、怒られ、その度にどこからか笑い声が響くんだから。
まあ、実際そんな超能力につきまとわれたら地獄だよな。3年はそこで頑張っていたらしいが、もう力尽きたんだろうな。
程なくして、悩んだ”ガンプ”は自殺を図ったんだ。
”ガンプ”は人気のない場所へと車を走らせた。トランクにはたっぷりのガソリンを乗せてだ。
そうして”ガンプ”は焼身自殺をしたんだ。だが、そこでもミスったんだ。何をミスったかって? 死ぬことをだよ。
”ガンプ”の焼け焦げた車は見つかったが、ヤツ自身はどこかに消えたんだ。
それからだ。焼け焦げた車の近くの廃病院で焼け焦げた怪人が現れるようになったのは。噂だと誰かを探しているだとか。
――「なんで、そんなに自殺したとか細かいことを知っているんですか?」
篤は得意気に語る剛に聞く。
「地元のネットワークと兄貴の友達が警官らしくてな。その焼け焦げた車を検証したのが、その友達なんだってさ」
途端に車内は静かになる。
「あっ」
紫苑が小さく声を漏らす。
道ばたに、焼け焦げた車がヘッドランプに照らされる。
「おっ、もうそろそろだな」
剛はその焼け焦げた車を尻目に、陽気な声を出す。
20分後、大きな建物が姿を現す。ジュリは廃病院から微かに流れてくる血の臭いに気がつくと、肝試しに来たことに嫌な気配を感じるのであった。
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