第3.2話 経費で落ちません

「そういえばお前、依頼料は良かったのか?」

「うん?」

「『初めてのお客さんだから依頼料は無しでいいわ。交通費とか調査にかかった費用だけ実費でもらうから』って言い切りやがって」

「あーあれ」

 紫明は全く悪びれることなく、澄ました顔で遥の方を見る。


「最初は赤字覚悟で依頼を引き受けて、それで宣伝してもらうの。ネットで話題になればお客さんが一気にくるはず。それでバズったらこっちのものよ」

「そう、なのか」

 遥はネットに詳しくない。

 そういった宣伝活動の類は彼女に任せているので、紫明がそういうのならそうなのだろう、と納得するしかなかった。


「損して得取れとはよく言ったものだな。一理ある」

「でっしょーう?」

 そのしたり顔を見て、彼女が満足しているならそれでいいという表情。

 我が子の成長を喜ぶ親の気分だった。


「だからインスタ映えするお店も必要経費ということで」

「それは経費で落ちません!」

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