雨のち晴れ

白露

第1話

今日も雨。俺はつくづく雨男だな。あの時もそうだった。ただ、あの時と違うのは、あいつが隣にいない。

「『止まない雨ない』そう言ったのはお前だたよな。お前は俺の太陽だった。今度は、俺がお前の太陽になる番だ」

そうして俺は目的地に向かった。


 時は高2の春に戻る

その日は、教師に呼び出されて学校を出るのが遅かった日だった。校門に一人の女の子が立っていた。そいつは空を見上げていた。

「雨かぁ、傘持ってきてないや」

俺は事前に天気予報を見て降水確率20%だったので傘を準備していた。俺はご愁傷様と思いながらそいつを横目に帰宅し…

「ほら!こいつ使えよ」

俺は傘をその女の子に傘を差しだしてた。どうしてこんな事したのか分からない。多分彼女のあの悲しげな瞳が俺の何かを刺激したんだろう。

「そんな….悪いよ。君だって傘ないと困るでしょ」

「いいんだ雨は慣れてるし、このくらいなら濡れても風邪ひかないだろ」

「でも…」

「あまり時間取らせないでくれ。ただでさえいつもより帰宅時間遅くなってるんだ、早くそれ使ってお前も帰れ」

俺はそう言ってその子と傘を置いて駆け足で帰った。

案の定、家に帰ったら母親の罵倒のフルコースが待っていた。俺は、野球の練習して壊したと言って自室に向かった。その日の記憶はそこで途切れてる。

―次の日―

「37℃熱あるじゃないの。今日は学校休みなさい」

「馬鹿言うな、ここまで無欠席なんだから休めるわけないだろ。支度するから部屋から出てけお節介が」

母親を部屋から出して俺は支度した。

俺みたいなのは無欠席と勉強くらいしか取り柄ないからここで休むわけにはいかないんだ。

とりあえず、教室までのデイリーミッションはコンプリートした。あとは、一日耐えるだけだ。

「ハル、なんか顔赤いよ?大丈夫?」

「カイか。なんでもねーよ、ただのリンゴ病だよ」

「それ、ダメなやつだよ」

こいつは、南海(みなみ かい)中学の頃からの友達だ。

「それより一限なんだっけ?」

「体育だよ。ほら更衣室行くよ」

「嘘だろ…こんな時に限って…しかもサッカーじゃねーか」

休むわけにはいかないのでとりあえず着替えて校庭に行きサッカーすることにした。

とりあえず、ボールを蹴ってるか。でも、なんか起きた時よりふらふらするなぁ…

「おい!桜戸(さくらと)ボールいったぞ!」

「え?」

俺の視界が一転したと同時に目の前がブラックアウトした。

 気が付いたときはすでに昼だった。俺どんだけ寝てたんだ。

「あら、起きたのね。体調はどう?」

「はい。朝より良くなりました。」

「それは良かったわ。あーそうだ、あなたの見舞いって上月のえるさんがこの手紙と飲み物置いてってたわよ。彼女さん?」

「彼女なんていませんよ!ってか上月さんは別のクラスなのになんで」

上月のえる。隣のクラスの女子。学園でも屈指の顔立ちで数多の男子をとっかえひっかえしてるやつで俺の嫌いなタイプだ。ちなみに俺は一度も顔を見たことない。そんな奴がなんで俺に手紙?も、もしかして、果たし状か?

『昨日は傘ありがとうございました。おかげさまで濡れずに帰れました。でも!あなた、風邪ひかないとか言っときながら風邪ひいてるじゃないですか!そのせいで体育の時間にケガさせてしまって…私のせいですよね…ごめんなさい。お詫びと直接お礼がしたいです放課後私の教室で待ってます。上月のえる』

なんだ、普通の手紙じゃんか。…ん?なんであいつ俺が保健室にいることが分かったんだ?あ、手紙に続きがある

『P.S.クラスの方に聞いて保健室に来ました。クラスは学ランのクラス章を見て覚えました』

…エスパーか。とりあえず、傘を返してもらわないと困るから放課後行くか。

 放課後俺はとりあえず言われた通りクラスに向かったのは良かったが教室の前に来て俺が待ってたのは男と女の言い合いだった。案の定女の方は昨日ぶりに見た顔だった。そう上月のえるだ。ってことは男の方は彼氏なのかな?まぁ、俺なんか忘れられて当たり前だよな。帰るか…

「おい!別れるってどーゆーことだよ!」

「だから、あなたに興味ないし、時間の無駄だし、これ以上あなたと一緒にいる必要がないから」

「ふざけんなよ!こうなったら力で俺の女にするしかないな」

男の手が彼女に伸びてた。

「い、いや…やめて…」

「おい。嫌がってんだろ離せよ」

気が付いたら俺は男の手首をつかんでいた

「誰だお前?関係ない奴が引っ込んでろ」

「か、彼は…」

「俺はこの女に呼ばれて来た。それだけで十分だろ」

「は?何言ってんだお前。そうかお前こいつの彼氏か、ふざけやがって人の女に手だしやがって」

そう言って男は俺に右フックを決めて俺を殴りまくった。

「もうやめて!」

彼女は俺と男の間に入り叫んだ

「彼は悪くない。全部私が悪いからもう、彼をいじめるのはやめて」

「ふんっお前って女はクズ以外なんでもねーよ。もうお前なんか知らないし関わるな」

そう言って男は去っていった。

「ごめんなさい。私のせいでまたケガさせてしまって…」

「お前が謝らないといけない理由がどこにある。俺はじいちゃんの言葉を守っただけだ」

「おじいちゃんの言葉?」

「『力は女と大切なものを守るときに使え。間違っても私欲のために使うな』って。でも、結局なんも守れなかった。お前に守られた」

「そんなことないよ、ハレ君は、私とおじいちゃんの約束を守ってくれた。十分カッコいいよ」

「俺は、はるだ。晴ではるだ。」

「え、あ、ご、ごめんんさい…わたしったら…恥ずかしぃ…」

彼女は頬を赤く染めて、うつむいてしまった。

「それは、そうと傘返して」

「え、あ、そ、そうだった。こほん。傘は返すけどその前に聞いてほしいことがあるの」

「なんだよ。早く簡潔に頼む」

「私と付き合ってほしい」

今日は一日曇りだったのに雲に隙間ができ日光が差し込んだ。俺と彼女。桜戸晴と上月のえるの世界に始まりを告げるように、まぶしくて暖かい光が。

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