第十一話 険しい道のり
「ったく何なのでしょうか、あの受付の人は!」
ニナは怒り心頭といったご様子で俺の横を歩いている。
「命は粗末にしてはいけません、って余計なお世話ですよ!」
「親切で言ってくれてたんだからそんなに怒るなよ」
「ラグ……ロクスは悔しくないんですか! あんな言われ方をして」
今、ラグナスと言いかけて慌てて気付いたな。まぁセーフとするか。
俺はニナに、これからはロクス、アールヴで呼び合うことを強制している。
不意に俺たちの会話を聞かれて身バレするのがやはり一番怖いからだ。
「悔しいも悔しくないも、FランクとGランクのペアが推奨Cランクのクエストに挑むほうが無謀だって話なんだよ。普通はな」
「確かに、無謀と思われるのは仕方ないのかもしれません」
くっ、とニナは唇を噛む。
「だろ? でも、とりあえずクエストは受けれたんだし、それだけでもまずは良しとしようぜ」
推奨ランクとは飽くまで推奨。Cランク以下でもクエスト自体は受けれる。
ただ、やはり達成率は格段に下がるので、受付の人に止められることは非常に多いが。
ちなみに今回のクエストを受けるために受付で俺たちは1時間粘った。正確にはニナが絶対に引き下がらないと言った表情に根負けした受付の人が、渋々承諾してくれただけなのだけれど。
「――、そうですね。ロクスの言う通りかもしれません。結果私たちはクエストを受けれたのですから、文句を言っていても時間の無駄でしたね」
それにと彼女は続ける。
「自分たちよりも上の推奨ランクのクエストをこなすとランクが上がるんでしたよね? そうやってランクを上げていって、次は文句を言わせなければいいだけの話なんです。頑張りましょうね、ロクス!」
そうやって、彼女は俺に笑って見せた。ポジティブなのは結構なことだが、受付の人は文句を言っていた訳じゃなくて、単に俺たちの身の心配をしていただけだと思うぞ。
「そうだな。アールヴ」
ただ、そんな彼女の奮い立った決意を折るのも悪いので、俺はとりあえず適当に返事だけしておいた。
俺たちの目的のアルニ村は、ここから馬車で2時間ほどかかる。
自前の馬車を持っているわけではないので、必然的にそう言った運送をやっている商人を頼らなくてはいけない。
ここは交易都市ともあって、そういった人は歩いていればちらほら見かける。試しに近くに居た商人に声をかけてみた。
「すまない、ちょっと尋ねたいんだが」
「なんだい」
「アルニ村まで馬車でお願いしたいんだが、2人でいくらだ?」
「そうだねえ」
商人は計算器具を取り出し、パチパチと計算をし始める。
「片道1人6万エール、2人で12万エールだね」
「徒歩で行きましょう、ロクス」
アールヴの即断の結果、徒歩になった。往復したら赤字だもんな。仕方ない。
ちなみに俺の天下無双で行こうかと提案したら、全力で拒否された。理由は……、まぁ分かる。
アルニ村は、村と名は付いているものの、そこまで辺鄙な場所にある訳でもないし、街道沿いに歩いていけばいいので、モンスターとかにも出会わないだろう。俺とアールヴは、最低限のものだけ適当なアイテムショップで揃え、ヨーゲンを後にした。
「ロクス、ワイルドラビットです」
街を出てすぐエンカウントした。レベル1は運勢の値も低いから困るんだよな。これは俺の所為かもしれない。
でもワイルドラビットは初心者でも余裕で倒せるぐらいの弱いモンスターだ。すばしっこいが、そのスピードはついていけないほどではない。レベル1じゃなければ。
「ロクス! そっちに行きました!」
「キキッ!」
「ゴフォァァッ」
俺は、鳩尾あたりに突進され1メートルぐらい吹っ飛んだ。
ふっ、と過去の思い出が走馬灯のように流れる。
「ファイアーボール!」
俺に体当たりして、一瞬動きが止まったワイルドラビットを、アールヴの火球が捉える。
ワイルドラビットは奇声を上げながら、炎に包まれて灰になって消えた。
「大丈夫ですかロクス?」
「いや、平気。ぶつかられた時は死んだと思ったけど、今は何ともない」
吹っ飛ばされ、何とか立ち上がった瞬間に痛みがすっと引いていった。衝撃だけで威力はそうでも無かったのかもしれない。あの走馬灯は何だったんだろうか。
「良かったです。骨が二、三本折れそうなほどの音がしたのでもう駄目かと思いました」
「そんなにエグイ音してたのか」
飛ばされた時は一瞬気絶しかけたので気が付かなかった。
もう一度おなかの辺りを触ってみるが、やはり何ともなかった。
「もしかしたら、ワイルドラビットがダメージを受けた音だったのかもしれないな」
「そうですね。今のロクスを見ているとそうなのかもしれません」
ワイルドラビットはニナの魔法で消えてしまったので確かめる術はないけれど、現状俺がピンピンしているのでそういうことなんだろう。
その後、俺たちは何度もモンスターとエンカウントしてしまい、結局今日中にアルニ村に辿り着くのは不可能だということで途中の宿場町で一泊した。
そして翌日も朝一番で出立したのは良いものの、引き続きエンカウントを続けた結果、アルニ村に到着したのはお昼過ぎになってしまった。
「ここがアルニ村ですね」
「何というか、閑散としているな」
入口の立て看板からアルニ村だと言うのは分かるのだが、人の気配を感じない。
もしかしたら手遅れだったか?
「とりあえず誰か居ないか探してみよう」
「そうですね」
俺たちは、アルニ村へと入り村人が居ないか散策する。
すると、奥に入った辺りで、一人の老婆を発見した。
とりあえず全滅はしていないみたいでホッとする。
「お婆さんこんにちは」
アールヴが笑顔で話しかける。
「おや、旅の人かい? こんなところに何の御用で?」
お婆さんもニコやかな笑顔で返してくれた。
そこで俺とアールヴはここに来た経緯を説明した。
「ま、まさか本当に来てくれるとはねえ。ちょっと村長さんを呼んでくるから待ってておくれ」
そう言うと、老婆はゆっくりとした足取りでどこかへ行ってしまった。
数分後、老婆に連れられ、一人の白髪の男性が姿を現す。
「私が依頼させていただいたアルニ村の村長の、ケールといいます。詳しい話は私の家でお話しさせてください。どうぞ、こちらへ」
村長と名乗る男、ケールさんにそう促され、俺とアールヴはその人の後に付いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます