人狼ゲーム②
「私は愛歌に、人を信じることを教えてもらった。だからパレットさんも、何かあったらいつでも私たちを頼ってね!」
「グスンッ……乃呑ちゃんにそんな過去があったのねッ……」
「うん。当時はとってもツラかったけど、今では笑って話せるようになったから」
乃呑は照れくさそうに舌を小さく出して、エレベーターの地上行きのボタンを押した。
(そっか……戦争の無い世界でも、みんな何かを抱えて生きているんだ……)
乃呑が伝えたかったことは、しっかりとパレットの胸にも響いたようだ。
しばらくして、エレベーターが地上に到着したようだ。外に出てみると、森林に囲まれた場所に出た。パレットが斜め上を見上げると、その先には赤い鳥居があった。
「あれってもしかして、『縁日エリア』の鳥居?」
「……学校の地下が、こんなところに繋がっていたとはな」
パレットは苔の生えたエレベーターのボタンを押した。しかし、こちらからのボタンは反応しない。どうやら一方通行のようだ。
「じゃあアタシたちは帰るわねッ、いくわよ黒城ッ」
「……ヒナコ、そんなに急ぐな。またな」
「ええ、また……」
黒城は青いひな鳥に急かされながら、石段を下りて行った。
「外、真っ暗だったのに、明けてきちゃったね。私も疲れたし、先に帰るね」
「乃呑ちゃん、今日は助けられちゃったわね」
「困ったときはお互いさまだよ!」
乃呑はVサインを指で作り、笑顔でパレットに突き出した。
こうして長かった一日が終わった。教会に戻ったパレットは、よほど疲れていたのか、報告に向かうこともなく自室のベッドに倒れこんでしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、教会の祈祷室では、紅緋色のローブの女性がカードをテーブルに並べていた。十三枚のカードにはそれぞれ、人狼ゲームの役職のイラストが描かれていた。
人狼、能ある人狼、市民、占い師、霊媒師、狩人、女王、狂信者、タフガイ、逃亡者、ささやく狂人、罠師、独裁者である。
「スカーレット様、何をしておられるのですか?」
祈祷室に入ってきた神父は、興味深そうにカードを覗き込みながら尋ねた。
「人狼ゲームよ。聞いたことくらいはあるでしょう?」
「ええ、名前くらいでしたら。ですがルールは全く存じませんので……」
「そう? 説明してあげるわ。基本的なルールはとても簡単よ。市民サイドと人狼サイドに分かれて、人狼だと思う人を毎日一人吊るしていくの。人狼は毎晩一人を噛むことができて、人狼がいなくなれば市民サイドの勝ち、市民と同数になれば人狼サイドの勝ちよ」
紅緋色のローブの女性は、人狼と能ある人狼のカードを手に取って、付け加えた。
「これが、私とパレットよ」
「なるほど、我々は人狼サイドということですな」
「そういうことよ。でもこの盤面だと、人狼サイドは少し不利みたいね」
「っとおっしゃりますと……?」
「市民サイドにとって、とても有利な役職が二人いるの」
そう言って紅緋色のローブの女性は、狩人と罠師のカードを手に取った。
「狩人という役職は、人狼の襲撃から毎晩一人を守ることができるの。そしてさらに厄介なのが、この罠師という役職よ。基本的には狩人と同じだけど、襲撃を防ぐのに成功した時、人狼を殺すことができるの。ただし、狩人と罠師が同じ人を守ると、狩人が死んでしまうという危険性もあるのだけど」
「罠師がいると、人狼サイドは迂闊に手が出せませんな……」
神父がガッカリとしていると、紅緋色のローブの女性は、罠師のカードに赤いペンで、大きくバツじるしを書き込んだ。
「安心して。罠師は、市民たちによって吊るされたみたいだから」
「おおっ、それは安心ですな。にしても、その情報はどこから……?」
「優秀なスパイがいるのよ。これで明日は、確実に噛みにいけそうね」
紅緋色のローブの女性は、悪魔のような悪い顔をローブの下から覗かせていた。
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