第一の封印①

 私立陽光中学校。パレットは閉められていた裏門を華麗に飛び越え、敷地内に潜入した。明かり一つない真っ暗な校舎は不気味な雰囲気を醸し出している。

(校庭の警備員は二人……騒ぎになったら面倒ね)

 警備員が懐中電灯を照らし巡回している。パレットは息を潜め、校庭の探索を始めた。

(地下にいけそうな場所となると、おおよその見当はつく。銅像か何かでカモフラージュして、その下に階段を埋めるか、あるいは校舎の中に地下室があるか……)

 パレットは足音を立てないように慎重に歩く。本校舎と別棟の間にある中庭で、パレットは足を止めた。芝生の下の土を手で叩き、固さを確認する。

(掘り返された形跡はなし……ハズレね)

 パレットは中庭をひとしきり調べたが、何も見つからなかった。警備の眼を避けながら、本校舎へと向かっていく。パレットは本校舎の鍵穴にピンセットを差し込み、器用に鍵を外した。

(この程度の警備なら、簡単に潜り抜けられるわ……)

 パレットは咄嗟にレッグホルスターから拳銃を抜き、いきなり後ろを振り向いた。

(今、どこからか鋭い『殺気』を感じたような……気のせい?)

 パレットは拳銃をレッグホルスターに収容し、周りに誰もいないのを確認し、ゆっくりと本校舎の扉を開けて侵入した。パレットはもう一度後ろを振り向いた。

 別棟の屋上の上空には、漆真っ暗な中に黄色い『満月』が浮かんでいた。

 校舎内には、懐中電灯を持った警備員が眠そうに非常口の前に立っていた。

(校舎内の警備は一人だけみたいね。だったら……)

 パレットは軍事用ポーチからスタンガンを取り出した。懐中電灯で照らされないところまで忍び寄り、そこからは一気に距離を詰めた。

「んっ、なんだね君は……うっ……」

 スタンガンの高電圧の電流を浴びて、警備員のおじさんは気絶した。

 パレットはピッキングで非常口のドアを開けようとしたが、ある違和感に気づいた。

(開いてる……? 誰かが開けたの?)

 パレットは疑問を残しながらも、非常口のドアを開けた。ドアの先は上へと続く階段と下へと続く階段があり、下への階段には立ち入り禁止を示す黄色いテープが巻かれていた。パレットはそれを無視して、地下へと続く階段へと歩み始めた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 永遠に続いているのではないかと思うほど長い階段を、パレットは左手で壁を伝いながら一段ずつ踏みしめていく。先の見えない恐怖に襲われる。

(この階段、いったいどこまで続いているの……?)

 パレットはスカートの後ろの軍事用ポーチの中に手を入れて、探っている。

(一旦引き返すか……いや、ここまで来たからには、もう少し進んでみましょう)

 パレットはポーチの中から、予備の銃弾を取り出した。それを階段の下へと落とす。

 ほんの微かではあるが、パレットは反響音から弾丸が地に着いた音を聞き取った。

(大丈夫、この階段は永遠に続いている訳じゃない……)

 パレットは再び階段を降り始めた。それからしばらく降りると、白い光の筋が見えた。

 白い光の先からは、はっきりと足場を確認することができた。

 パレットは階段を降りきると、小さなフロアへと出た。そこには、壁にもたれるように休憩している、ここの学校の制服を着た黒髪の少年がいた。

(あいつは確か、公園の湖に飛び込んでいた……)

「あらッ、アンタもここの調査に来たのッ?」

 黒髪の少年のズボンのチェーンに付けられた虹色の宝箱から、青いひな鳥がひょこっと顔を出して言った。

「まぁそんなところよ」

(先客がいるなんて、想定外の事態ね……今ここで消しておくべきか……)

「じゃあアンタは味方ねッ! アタシはピーちゃんッ。彼は下っ端の黒城よッ!」

「ピーちゃんと、下っ端の黒城ね。あたしはパレットよ」

「……待て、俺は下っ端じゃ……」

「パレットちゃんねッ、先に進みましょッ!」

 黒城は何か言おうとしたが、青いひな鳥に阻まれ断念した。

 こうしてパレット、青いひな鳥、そして下っ端の黒城は、さらに奥へと進んでいった。

 ここは陽光中学校地下。『第一の封印』へと続く道。

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