人狼ゲーム

 パレットは教会について早々に、神父が待つ地下の祈祷室へと向かった。

「早かったなパレットよ。では今日の報告を聞かせてもらおう」

「そのことなのですが……」

 神父に対してパレットは、どうしても確認しなければならないことがあった。

「この世界の正体……それは、戦争が起こらなかった、『平行世界(パラレルワールド)ではないでしょうか」

 それを聞いた途端神父は、この時を待っていたかのような反応を見せた。

「その通りだ。ようやく記憶を取り戻したようだな、パレット」

 神父はパレットに背を向けたまま、羽織っている緋色のローブから、一丁の黒い拳銃を取り出した。そして拳銃をパレットの足元へと滑らせた。

「ベレッタ92……」

 パレットは拳銃を拾い上げる。

(前の世界にいたとき、軍の特殊工作部隊で使っていたものと同じものだわ)

 さらに神父は、黒いアタッシュケースを出し、パレットに見せた。

「その中に、お前がかつて使用していた道具が揃っている。好きに使うがいい」

 パレットはその場でアタッシュケースの中身を確認した。

 スタンガンや手榴弾、火炎瓶、ワイヤー、ピンセットなどの道具が入っている。

「記憶を取り戻したようね、パレット」

 パレットは声の主の方へと向き直ると、片膝をついて頭を下げた。

「はい、スカーレット様」

「そうかしこまらなくてもいいわ。顔を上げて」

 紅緋色のローブの女性は優しい口調で諭した。

(スカーレット様は本当に慈悲の深い方だ。記憶を無くしていた私をこの教会に招き入れ、衣食住も与えてくれた。何もしてくれなかった『神』とは大違いだ)

 紅緋色のローブの女性はパレットに、大切な話があるの、と切り出した。

「『陽光中学校』の地下に潜入して、そこにいる『神の使徒』を倒してきて欲しいの」

(神の使徒……?)

「わかりました。スカーレット様の頼みであれば……」

 パレットは一瞬疑問に思ったが、信頼する彼女の頼みを断る理由もないと思っていた。

「ありがとう。期待しているわ、パレット」

 紅緋色のローブの女性は、それだけ伝えると、地上への階段を昇って行った。

 パレットと神父に聞こえないところで、紅緋色のローブの女性は、ローブのポケットから十三枚のカードを取り出し、呟くように言った。

「さぁ、人狼ゲームの始まりよ」

 パレットは、軍事用ポーチを自身のスカートの後ろに装着し、右足の太ももにレッグホルスターを巻き付け、その中に黒い拳銃『ベレッタ92』を収容した。

(与えられた仕事は必ず遂行する。あたしは冷酷非情な潜入工作員よ)

 パレットは髪を解き直し、黒色のシュシュでサイドテールを纏めた。

 パレットの眼は、凍てつくようなとても冷たい眼をしていた。

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