誕生日会②

「あかり、トランプ飽きてきちゃった」

「そうですね。パレットさん、別の遊びにしませんか?」

たくみは押し入れの中から、段ボールにしまってあったボードゲームを取り出した。

「たっくんなにそれ?」

「『まごころ人生ゲーム』って書いてあるぜ」

「パレットさんが射的屋で当てた景品です。パレットさん、開けてもいいですか?」

「ええ、別に構わないわよ」

「ありがとうございます。では開けますね!」

 たくみがパッケージを開けて中身を取り出すと、真ん中にルーレットがある大きなスゴロクゲームのようなボードと、自動車の形をしたユニット、人に見立てた棒のユニット、紙幣や証券カードなどが入っていた。

 さっそくボードゲームを部屋の真ん中に置き、それを囲うようにして四人が座った。たくみは、付属されていた説明書を読み上げた。

「『まごころ人生ゲームの世界へようこそ。まず初めに、各プレイヤーは百万円を所持した状態でスタート地点に着きます』」

「百万円、百万円~♪」

 パレットはご機嫌な様子で、たくみからおもちゃの紙幣を受け取った。

「そのテンションうぜぇ……」

「あはは……続けますね。『全プレイヤーがゴールに着いた時点で、一番多くのお金を所持していた人が優勝です。ゴールに着くと、一着から順に多くの配当金が貰えます』」

「ふーん……要するに、一番早くゴールに着けば有利ってことね」

「あかりも一番目指す!」

「おれもだぜ!」

「『なおこのゲームでは、あなたのまごころが試されます。より多くの人を助けながら、優勝を目指しましょう』だそうです。さっそくやってみましょう! みなさん何色の車が良いですか?」

 たくみは、自動車のユニットを四つ、両手に乗せながら言った。

「あかりはピンク!」

「おれは赤だぜ!」

「あたしは黄色にするわ」

「じゃあぼくは緑色にしますね」

 各自、自動車のユニットをボードのスタート地点に並べた。ゆうき、あかり、パレットの手が、一斉にルーレットへと伸び、三人は同時に言い放った。

「あかりから回す!」

「おれから回す!」

「あたしから回す!」

「あはは……」

 自己主張の激しいやつらであった。



「パレット、おれにもくれよ!」

「あかりも食べたい!」

「駄目よ、これはあたしが手に入れたものなんだから」

「ケチ」

 パレットはチョコレートスティックのお菓子を独り占めしていた。

パレットが射的屋で当てていた景品だ。

たくみは気を利かせて、みんなで食べられるようにお菓子の袋を開けた。

「おっ、さすがたくみだぜ!」

「たっくんありがとう!」

「えへへ、飲み物も色々ありますよ!」

 パレットは自分で手に入れた物以外には、手を付けようとはしなかった。

「パレットさん、みんなで食べるともっとおいしいですよ?」

「いやよ。それより次誰の番?」

「おれだぜ、よっしゃあ十来い!」

 ゆうきは、ルーレットを勢いよく回した。ルーレットの針は八を指して止まった。ゆうきは自動車のユニットを八マス進めていく。そしてマスに書かれた文字を読み上げる。

「なになに、『道端に落ちていた百万円を拾った……』」

「いいわね。あたしも拾いたいわ、百万円」

「『そのお金を交番に届けますか?』そりゃ届けるだろ、普通」

「はぁ!?」

 パレットはガタッとその場を立ち上がった。たくみはルールブックの説明を読む。

「『交番にお金を届けた場合、貰える金額は二十万円になる』みたいです。でもその代わり、『交番の人を車に乗せることができる』そうですよ!」

「やったぜ!」

「……それどんなシチュエーションよ」

 ゆうきの自動車ユニットの後ろの穴に、五人目の人型のユニットがさし込まれた。

「次はパレットの番だぜ!」

「見てなさいよ、絶対一番にゴールしてやるんだから!」

 パレットは勢いよくルーレットを回した。グルグルと回転した針は一を指して止まる。

 パレットは俯いたまま、自動車のユニットを一マス進めた。その自動車ユニットは、誰よりもゴールから離れた位置にあった。

「これで三回連続で一だぜ……」

「お姉ちゃん、なんか可哀想……」

 子どもたちから、同情の眼差しがパレットへと向けられる。

「こ、これも作戦なのよ!」

「いや、流石にルーレットに作戦はないと思うぜ……」

「いいのよ! 要はどっさりお金を集めてからゴールすればいいんだから! 『ホームレスの人が路上で倒れている。助けますか?』助けない!」

「えー、せっかく人を乗せられるマスなのにー」

「勿体ないぜ……」

「パレットさん、助けてあげましょう?」

 三人のあどけない子どもたちから、可哀想な人を見る目がパレットに注がれる。

「なによ、みんなしてそんな目であたしを見るな! あたしのいたところではね、他人に構っている余裕なんて……」

 パレットの心臓がドクンと激しく疼いた。

「他人に……構ってる余裕なんて……」

(なによこれ……すごく気持ち悪い……)

 パレットは前屈みになって胸を押さえたまま、放心状態に陥った。

「パレットさん? 大丈夫ですか? ……パレットさん?」

 たくみの呼びかけにも、パレットは一切反応を示さなかった……。

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