惑星クロートのお話箱

みにゃも

第1話「いねむり姫の話」

あるところに、悪い魔女と通りすがりの善い魔女の戦いの末

「16歳の誕生日に糸車の針に指をさして100年の眠りにつく」

という呪いをかけられた王女がいました。


 ところがこの王女、呪いに関わらず兎にも角にも眠たがり。朝でも昼でもどこにいても、気づけば居眠りをして侍女たちを困らせていました。

 王も王妃もこれには悩まされましたが、それでも可愛い娘のため、王国で糸車は全て焼き払い、王女にも呪いについては幼い頃から打ち明けていました。

 結局、王女は運命からは逃れられず、16歳の誕生日に悪い魔女が隠していた糸車の針で呪いの眠りに落ちましたが。

それから3日後。

 王女は「よく寝た」と目を覚ましました。

 寝すぎて眠れなかったのか、呪いが効かなかったからなのか、とにかく王女はこのことをみんなに知らせようと思いました。

 ところが城の中では王女の代わりに、兵士も、侍女も、王や王妃までもがみんな、眠っていたのです。

「私がいつもみんなの言いつけを聞かず寝てばかりだから、神様が怒ったんだわ。」

 王女はそう、思いました。

 王女は王と王妃のあいだで泣きました。

 そうしていても、誰の一人もその肩を撫でてはくれません。慰めてくれる侍女も温かいミルクココアを持ってきてくれる料理長も、今はみんな眠っているのです。

 城下町に住む人々も、港で魚を獲る漁師も、市場で宝石を売る商人も、王女が声をかけたって誰も返事をくれません。

 王女は初めて、今までたくさんの人に囲まれていたことに気付きました。


 王女は魔女が住んでいる森へ行きました。王女に呪いをかけた悪い魔女なら、きっと国中の人を眠りから覚ます方法だって知っているはず。


 ところが、魔女も魔女の家で眠っていました。

 今度こそ王女は大声で泣きそうになりましたが、魔女のテーブルに一冊の本が置いてあるのに気づくと一心不乱でそれを読み、何かを呟いて眠っている魔女の手の甲にキスをしました。

 それが、人々を眠りから目覚めさせる方法だったのです。

 魔女が目を覚ますと王女は喜び、急いで城へと戻りました。


 まず初めに王と王妃にキスをしました。それから、仲良しの侍女や料理長に、口うるさい教育係の大臣に、訓練中で剣を持ったままだった兵士に。

 城下町で花を売る女性に、子猫に魚を与えていた漁師の青年に、酒樽を抱えて眠る前からすでに眠っていたお爺さんに。

 王女が優しくキスをするたびに、眠っていた人々が目を覚まします。

 そうして最後に、国のはずれにある不治の病にかかった子どもの家にたどり着きました。

 王は王女がその子どもにキスをするのを止めました。でも、王女は聞きません。

 王女はこの子どもに、魔女や自分と同じ悲しみを味わってほしくなかったのです。


「さぁ、起きる時間よ。朝は毎日お日様の光を浴びて、夜はお月様と眠ってね。」


 王女は子どもの額に優しくキスをすると、ゆっくりとその場に倒れました。

 呪いの効果が表れたのか、こうして王女は、100年の眠りについたのです。


 国の人々は王女に深く感謝し、次に目覚めるその時まで、このことを語り継ぐと誓いました。

 100年経てば、王も王妃も死んでしまっています。

 侍女も料理長も兵士も、みんな。

 けれど、どんなに王国に住む人々が変わっていても、この王女のことは誰もが知っていて、目を覚ました王女は生涯二度と、寂しい思いはしなかったそうです。


おわり

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