エピローグ『次も頑張ると意気込んだ。』

 女子100m自由形の決勝のレースが終わってから15分ほど。

 水泳部のTシャツ姿になった風花が戻ってきた。

 関東大会進出を決めたこともあり、水泳部のみんながいるエリアに戻ると、女子中心に部員達とハイタッチしている。100m自由形の予選に出場した女子生徒とは抱き合っていて。風花も水泳部のみんなもいい笑顔になっていて。こういう光景は何度見てもいいなぁ。彼らの青春の1ページを覗いている感覚になる。

 水泳部の部員とのハイタッチやハグが終わった後、風花は荷物を置いて俺達のところにやってくる。そんな風花はとても嬉しそうで。


「試合前に言ったように、1分を切って関東大会に進むことができました!」

「おめでとう! 風花ちゃん!」

「おめでとう! 出場した3種目全てで関東大会に行けるなんて、本当に凄い後輩だわ! 泳ぐ姿も凄くかっこよかったわ!」


 美優先輩と花柳先輩は祝福の言葉を掛けると、観客席から立ち上がって風花のところへ抱きしめに行く。抱きしめられる風花はもちろんのこと、風花を抱きしめる先輩方もとても嬉しそうで。

 この美しい光景を記録したいと思い、俺はスラックスのポケットからスマホを取り出した。3人に写真を撮っていいかと問いかけると、みんな二つ返事で了承してくれ、寄り添いながら、満面の笑みでこちらにピースサインをしてくれた。そんな素敵なスリーショット写真をスマホで撮影した。


「いい写真が撮れました。ありがとうございます」

「いえいえ。LIMEで写真送っておいて、由弦」

「私もほしいな、由弦君」

「私にもちょうだい!」

「じゃあ、4人のグループトークに送っておきますね」


 俺はLIMEのアプリを開いて、4人のグループトークに今撮った写真を送った。


「桐生君。私にもその写真を送ってくれるかしら。アルバムに貼っておきたいの」

「あたしにもちょうだい、桐生君」

「姫宮家のアルバムにも貼っておきたいから、私にも送ってくれるかな。あなたには私から送るから」

「うん、そうしてもらおう」

「分かりました。みなさんにも送りますね」


 霧嶋先生、大宮先生、由樹さんのLIMEの個別トークに同じ写真を送った。3人とも、スマホを確認すると満足そうな笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。

 何年経っても、この写真を見ればきっと今日のことを鮮明に思い出せるんじゃないだろうか。それほどに素敵な写真だ。


「風花、自由形でも関東大会進出おめでとう」

「ありがとう、由弦!」

「泳いでいる姿は本当にかっこよくて素敵だったよ」

「……うん、ありがとう」


 頬をほんのりと赤らめながらも、風花は嬉しそうにそう言った。

 俺が両手を差し出すと、風花は「いぇい!」と元気良くハイタッチしてくれる。自由形決勝の後にも、喜びのハイタッチをできて良かった。

 風花は美優先輩と花柳先輩ともハイタッチした。


「桐生君の言う通り、泳いでいる風花は本当にかっこよかった。本当に凄いな。関東大会進出おめでとう。感動し過ぎて父さんの涙は枯れたよ」

「3位でゴールした直後から号泣していたものね、あなた。風花、100m自由形も関東大会進出おめでとう!」

「ありがとう!」


 風花は健一さん、由樹さんの順番でハイタッチする。

 由樹さんとハイタッチすると、風花は由樹さんに抱きしめられ、後ろから健一さんに頭を撫でられていた。風花の笑みは柔らかく、幼さも感じられて。両親の温もりを感じているからこそ浮かぶ笑顔なのかも。

 姫宮親子の温かな光景を間近で見てか、霧嶋先生は今にも泣きそうになっている。風花の活躍もあって、今は涙もろくなっているのかもしれない。


「……姫宮さん。自由形も関東大会進出おめでとう……」

「おめでとう、風花ちゃん。凄いね!」

「ありがとうございます! ……って、一佳先生、両目に涙が浮かんでいますよ。それに、お父さんに負けないくらいに目元が赤いですし」

「……担任で受け持っている子が頑張って、素晴らしい成績を出したんだもの。この2日間で嬉し涙をたくさん流したわ。自分自身でも、こんなに泣いてしまうとは意外だったわ」

「あははっ、そうだったんですか。一佳先生がそうなるほどにいい結果になって良かったです。先生の声もよく聞こえていましたよ。成実先生の応援も。ありがとうございます!」


 風花が再びお礼を言うと、霧嶋先生と大宮先生は風花とハイタッチした。霧嶋先生は微笑みながら風花の頭を撫でていて。そのことに、風花はニッコリ笑っていた。


「お父さん、お母さん、由弦、美優先輩、瑠衣先輩、一佳先生、成実先生。みなさんが応援してくれたのもあって、3つ全ての種目で関東大会へ進出することができました! 本当にありがとうございます!」


 明るい笑顔を浮かべ、快活な口調でそう言うと、風花は俺達に向かって深めに頭を下げた。俺達の応援が風花の力になったようで良かった。


「風花。関東大会はいつあるのかしら?」

「7月の下旬頃だよ、お母さん。夏休みに入ってすぐ。関東大会の成績次第で、8月の全国大会……インターハイに出場できるの」

「そうなのね」

「関東全体や全国には、きっと速い人がたくさんいると思う。まずは関東大会に出場して、全国大会へ行けるように頑張るよ!」

「それが一番いいわね、風花。頑張りなさい」

「父さんも応援しているよ」

「ありがとう! 頑張るね!」


 そう言う風花の表情はとても勇ましくて。きっと、風花なら次の関東大会でもいい結果を出せるんじゃないだろうか。


「風花。何かあったら遠慮なく言ってね。友人や隣人としてできることがあるだろうし」

「そうだね、由弦君。私にも頼ってくれていいからね」

「私も先輩として何かできるだろうし」

「私にも頼りなさいね。あなたの担任なのだから」

「あたしでもいいからね、風花ちゃん」

「ありがとうございますっ!」


 風花は嬉しそうな様子でお礼を言った。

 風花に続いて、健一さんと由樹さんも安堵の笑みを浮かべてお礼を言う。風花は実家から遠く離れた伯分寺のあけぼの荘に一人暮らししている。ただ、そこには風花を支える人が何人もいると分かって安心したのだろう。

 全ての競技が終わった後、2日目の種目の表彰式が行われる。

 風花は女子400mメドレーリレーと女子100m自由形の賞状を受け取る。そのときの風花の笑顔は輝いており、とても素敵に思えたのであった。




特別編7 おわり

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