第8話『夏のスタートイチャイチャ』
美優先輩と俺、風花、花柳先輩は霧嶋先生の家を後にし、タイムセールが行なわれている近所のスーパーに向かった。
事前にチェックしていた食料品をちゃんと買えたので、美優先輩はとても満足そうにしていた。
あと、家に帰ってきてすぐに二葉さんから、LIMEのグループトークに複数のメッセージと、彼女と霧嶋先生、大宮先生のスリーショット写真が届いた。その写真を見ると、先生方は酔っ払っているようだ。赤くなった顔に、とても柔らかい笑みが浮かんでいる。
実はお昼ご飯を食べた後に、俺達は二葉さんと連絡先を交換していたのだ。
『今日はお姉ちゃんのためにありがとうございました。みなさんが帰ってから、お姉ちゃんと成実さんがお酒を呑み始めまして。成実さんって、お酒を呑んでも笑顔が絶えないのですね。可愛い方です』
『あと、お姉ちゃんは酔っ払ったら、あたしに『胸がまた大きくなったねぇ』と褒めて、『二葉も成実さんもだいしゅき~!』と言いながら、成実さんやあたしの胸を揉んできたり、顔を埋めてスリスリしたりしてきました。先日の旅行でもお酒を呑んだそうですが、美優さん達に迷惑をかけてしまいましたか?』
大宮先生についてのメッセージは微笑ましい気持ちになるけど、霧嶋先生は……まったく、何をやっているんですか。二葉さんが好きなのはもちろんのこと、大宮先生とも親しいから胸に色々したくなる気持ちも理解できるけどさ。
高校生4人で『旅行中もお酒を呑んだけど、特に変なことはされなかった』という旨のメッセージを送った。
すると、二葉さんはほっとした猫のスタンプを送り、
『それを聞いて一安心です。もし迷惑を掛けていたなら、また叱るところでした』
というメッセージを送ってくれた。霧嶋先生がまた叱られることにならずに済んで、美優先輩と俺はほっと胸を撫で下ろした。
「その様子、見てみたかったね」
楽しげに笑いながらそう言う美優先輩。
酔っ払った霧嶋先生は何度も見ているから想像できるけど、俺も見てみたいと思うのであった。
タイムセールで豚肉と野菜を買えたので、夕ご飯は美優先輩特製の肉野菜炒め。普段とは違う中華風の味付けでとても美味しかった。
美味しい夕ご飯に元気をもらい、俺が夕ご飯の後片付けをすることに。その間に美優先輩が2人分のアイスコーヒーを作り、お風呂の準備をする。
「水が気持ちいいな」
あけぼの荘に引っ越して来た頃は、昼間でも水の冷たさがちょっと辛かったのに。今は夜でも快適に感じる。それだけ、季節が進んだんだな。
「にゃおーん」
「にゃ~」
サブロウの可愛らしい鳴き声も聞こえるけど、それとは別にとても綺麗な鳴き声が聞こえる。喧嘩にしては、鳴き声がとても穏やかだな。
サブロウというのは、あけぼの荘にたまに来るノラ猫のこと。黒白のハチ割れ模様が特徴的だ。そんなサブロウは、あけぼの荘の住人を中心に癒してくれるアイドル的な存在である。
「サブちゃんが来たのかな」
「そうだと思います。ただ、サブロウ以外にもう一匹猫がいると思います。聞き覚えのない綺麗な鳴き声が聞こえるので」
「そうなんだ。さっそく確認してみよう」
俺も気になるので、後片付けを中断して、リビングへ戻る。
美優先輩がベランダの窓を開けると、そこにはサブロウと茶トラの猫がおり、お互いの体を舐め合っていた。
「うわあっ! 可愛い!」
目を輝かせながら、普段よりも高い声を上げる美優先輩。2匹の猫も可愛いけど、先輩が一番可愛いと思う。
「可愛いですね。この茶トラ猫……柄が違うので、サブロウの家族の可能性は低そうです。オスなら友人、メスなら恋人って感じでしょうか」
「そうだね。茶トラ猫はオスが多いって聞いたことがあるけど、君の性別はどっちなのかなぁ?」
美優先輩は茶トラ猫の頭を撫でていく。
すると、気持ち良かったのか、茶トラ猫は撫でられてからすぐにゴロゴロし始める。
「この茶トラ猫……男の子の象徴とも言えるアレがついていないよ」
「ということはメスですか」
「そうだね。ということは、あけぼの荘のアイドルに熱愛発覚になるよ!」
「2匹の穏やかな鳴き声が何度も聞こえましたし、さっきは互いの体を舐め合っていますから、恋愛的な繋がりはありそうですね」
アイドルはアイドルでも、サブロウは人間ではなく猫だ。熱愛が発覚しても、彼を知る人は祝福するだろう。ただ、人間は祝福しても、猫の中にはこの茶トラ猫を嫉妬する奴がいるかもしれないな。
「まさか、私達よりも先に、サブロウと茶トラちゃんが、夏のスタートイチャイチャをしていたなんて」
「仲が良さそうですから、イチャイチャしていた可能性は高そうですね」
猫の恋の季節は春と言われている。けれど、繁殖期は夏を含めて年に2、3回あると言われている。2匹次第では、この夏の間に、あけぼの荘にたくさんの子猫がやってくる可能性がありそうだ。
「今日は2匹分のエサとお水を出そうか」
「それがいいですね」
その後、美優先輩と俺で、サブロウと茶トラ猫にエサと水を出す。
2匹の邪魔をしたらまずいという美優先輩の考えで、2匹ともエサを食べたり、水を飲んだりするのを確認したところで、ゆっくりと窓を閉めた。
残りの夕食の後片付けを済ませ、俺は美優先輩が待っているソファーへと向かい、美優先輩の隣に腰を下ろす。
ソファーの前にあるテーブルには、アイスコーヒーの入ったマグカップが置かれていた。俺はアイスコーヒーを一口飲む。
「美味しいです」
「良かった。夕食の後片付けお疲れ様でした。お風呂もあと10分くらいしたら入れると思うよ」
「分かりました。今日は夏の初日でしたけど、霧嶋先生の家に行って、二葉さんと会ったからか盛りだくさんだった気がします」
「そうだね。掃除や後片付けもしたし。タイムセールに合わせて買い物をして、まさかのサブちゃんの熱愛発覚もあって。今までよりも凄い夏になりそうな気がしてきた」
「ははっ、なりそうですね」
恋人ができて、同棲しながら迎える夏は今年が初めてだ。それだけでも、今までより凄い夏になると思う。美優先輩達と一緒に夏の時間を楽しく過ごしたいな。
これから始まる夏のことを考えながらコーヒーを飲んでいると、左脚に何か温かいものが。視線をそちらに向けると、そこには美優先輩の右手が。そのまま視線を美優先輩の顔に動かすと、先輩は頬を赤くしながら俺のことを見ていた。
「ねえ、由弦君。私達の夏のスタートイチャイチャはいつする? お風呂に入ってから? それとも、もうしちゃう? 昨日、冬服納めをしたとき、汗と制汗剤の混ざった匂いも好きだって言ってくれたし……」
「そうでしたね。俺はいつでもOKです。美優先輩の好きなときでいいですよ。お互いにしたいと思えるときにした方が、より気持ち良くなれるでしょうから」
「……じゃあ、お風呂に入ってからがいいな。今日は晴れている中で、一佳先生の家に行ったし。先生の洗濯物を干したし。昨日よりも汗を掻いたからね。家に帰ってきたときに制汗剤を使ったけど、昨日より匂いも強いと思う。お風呂に入って体を綺麗にしてから、由弦君とたっぷりとしたいな」
「分かりました。では、お風呂に入った後にスタートイチャイチャしましょうか」
「うん!」
美優先輩は笑顔で頷くと、俺を抱きしめてキスをしてきた。そのときに感じた匂いは、冬服納めをしたときと同じく、汗と制汗剤の混ざったもので。ただ、本人が言うとおり、昨日よりも強く感じた。その匂いは鼻腔をくすぐり、これも好きだなぁと思うのであった。
美優先輩の要望通り、入浴後にベッドの中で夏のスタートイチャイチャをした。
2日連続で名称が付けられたイチャイチャだけど、することは普段と変わらず体を介して愛し合うこと。もちろん、今夜もとても気持ち良くて、幸せな気持ちになれた。季節は夏になったけれど、肌から直接感じる美優先輩の温もりはとても心地良い。
あと、夏のスタートイチャイチャだからか、途中、美優先輩がポニーテールの髪型になるときがあった。体の動きに合わせてポニーテールが揺れることに凄くドキドキした。
美優先輩も同じような気持ちなのか、彼女は笑顔を見せてくれて、数え切れないほどに「好き」だと言ってくれた。自分から誘ったので、先輩のそんな反応がとても嬉しかったのであった。
「今夜も凄く良かったよ、由弦君」
「そうですか。スタートイチャイチャしようって誘って良かったです」
「ふふっ、誘ってくれてありがとうございました。由弦君のおかげで、今年の夏はとてもいいスタートを切ることができたよ。過去最高かもしれない」
「そう言ってくれて嬉しいです。俺も美優先輩のおかげで、今までの中で一番いい夏の始まりになりました。イチャイチャもそうですけど、今日は初めて美優先輩のポニーテールを見られましたし」
「ポニーテールを気に入ってくれて良かったよ。これからも、たまに髪を結ぶね」
嬉しそうに笑いながらそう言う美優先輩。
ポニーテールが似合っていたので、ワンサイドアップや、二葉さんのようなおさげなど色々な髪型を見たくなってくる。今度、美優先輩にお願いしてみよう。
「由弦君。昨日、言い忘れたけれど、由弦君達のおかげで、今年の春はとても素敵な春になったよ。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。美優先輩達のおかげで最高の春になりました。夏も宜しくお願いします。美優先輩と一緒なら、とても素敵な夏になると思います」
きっと、最高の夏になるに違いない。高校最初の夏休みが待っているし。その時間を美優先輩と一緒に過ごせると思うと、今から幸せな気持ちでいっぱいになる。
美優先輩は恍惚な表情になり、俺を見つめてくる。
「私も同じ気持ちだよ。由弦君と一緒なら最高の夏になると思う。それに、風花ちゃんや二葉さん達とお友達になれたし、去年に比べると一佳先生とも親しくなったから。素敵な夏の時間を過ごせそうだって思ってるよ」
「嬉しいです。そう言ってくれて」
「ふふっ。夏には色々なことをしたいね。七夕祭りとか花火大会とかのイベントに行ったり、みんなでまたプールで遊んだり、風花ちゃんの大会の応援をしたり。あとは、由弦君の故郷やご実家に行ってみたり……とか」
「故郷に行って、食べ物や実家の近くにある海とかを楽しんでほしいです。夏にやりたいこと……たくさん見つかりますね」
「うん!」
美優先輩は嬉しそうな様子で俺を抱きしめ、胸元のあたりで頭をスリスリしてくる。
今年の夏は東京で過ごす初めての夏でもある。だから、美優先輩達と一緒に東京での夏の生活を堪能したい。でも、先輩を地元に連れて行ったことがないので、夏休みの間に先輩と一緒に帰省できればいいなと思う。
「学校生活にも慣れてきたので、バイトも考えたいです。夏休みに短期のバイトをしてみるのもいいかなと思っていて」
「いいと思うよ。あと、由弦君は背も高くて色々なことができるから、あけぼの荘関連でお仕事を頼むかもしれない。今までに何度か伯父さんから頼まれたことがあって。もちろん、報酬としてお金をもらえます」
「そうなんですか。遠慮なく言ってください」
「うん! じゃあ、今日はそろそろ寝よっか」
「そうですね。今日は霧嶋先生の家で掃除をして、スタートイチャイチャもしたので、いい眠気がきてます」
「たくさん体を動かしたもんね。じゃあ、おやすみと夏もよろしくのキスをお願いします」
「はい。分かりました」
俺の方から、おやすみと夏もよろしくのキスをした。今夜のキスは特別なので、普段よりも長めに美優先輩と唇を重ねた。
そっと唇を離すと、そこには俺を見つめながらうっとりとしている美優先輩の顔があった。
「おやすみ、由弦君」
「おやすみなさい、美優先輩」
ベッドライトを消し、ベッドの中で美優先輩と抱きしめ合う。
夏になっても、美優先輩の温もりと匂いはとても心地いい。いつまでも感じていたいほどだ。だから、抱きしめ合ってからすぐに眠りに落ちるのであった。
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