エピローグ『ベッドが届いた。』

 5月26日、日曜日。

 目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。もう朝になっていたのか。昨日の夜は、遅くまで美優先輩と一緒に体をたくさん動かしたからなぁ。それもあって、スッキリとした目覚めだ。

 壁に掛かっている時計を見ると……今は午前7時過ぎか。


「すぅ……」


 美優先輩は俺の左腕を抱きしめながら、ぐっすりと寝ていた。寝顔が可愛い。あと、一定の間隔で寝息が俺の胸にかかってきて気持ちいい。あと、胸が当たっているから、左腕がとても柔らかい感触が。

 そういえば、あけぼの荘で初めて朝を迎えたときも、美優先輩が俺のふとんに入っていたっけ。そうなったのは、先輩が夜中にお手洗いから帰ってきたとき、寝ぼけて俺のふとんに入ってきたからだけど。あのときの先輩、起きたらとても恥ずかしがっていて可愛かった。それももう2ヶ月近く前のことなんだよな。

 俺は美優先輩の頭を優しく撫でて、額にキスをする。


「うんっ……」


 可愛らしい声を漏らすと、美優先輩はゆっくりと目を開ける。俺と目が合うと、先輩は柔らかな笑みを浮かべた。


「おはよう、由弦君」

「おはようございます。起こしてしまいましたか?」


 俺がそう問いかけると、美優先輩は笑顔のまま首を横に振った。


「そんなことないよ。とても気持ち良く起きられたから。由弦君と一緒に寝たからかな。あと、目を覚ますと由弦君がいるのが幸せだよ」

「……俺も幸せですよ、美優先輩」


 そう言って、俺の方からキスする。美優先輩の温もりを肌で直接感じながら唇を重ねると、昨日の夜のことを思い出す。あのときの先輩もとても可愛くて、綺麗で、艶やかだった。ドキドキして、体が段々と熱くなってきた。

 唇を離すと、そこにはほんのりと赤くした顔に笑みを浮かべる美優先輩がいた。


「うん、今日もいい朝だ」

「そうですね。ところで、美優先輩、体調は大丈夫ですか? 昨日はたくさんしましたし、たまに激しく体を動かしたので」

「大丈夫だよ。むしろ、いつも以上に元気かも。……そういえば、昨日はいつも以上に、私の胸に色々なことをしていたね」

「おままごと中に、花柳先輩が吸いたいと駄々をこねましたからね。ですから、いつもよりも欲が出てしまいました。その……胸は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。ちなみに、吸うのを含めて私の胸に色々としていいのは、今のところは由弦君だけだからね。ずっと由弦君だけの可能性もあるけど」

「……ありがとうございます」


 美優先輩と目が合うと、今度は先輩からキスしてきた。

 その後、美優先輩の胸に顔を埋めさせられる。そのことで、顔から先輩の優しい柔らかさと、確かな温もりと、甘い匂いが凄く伝わってきて。とても幸せな気持ちに満たされていくのであった。




 午前10時過ぎ。

 業者さんによって、金曜日に購入したクイーンベッドが寝室に搬入される。その様子を美優先輩と俺だけではなく、風花と花柳先輩と一緒に見守った。2人は寝かせてとかゴロゴロさせてとか言っていたからな。

 お店で見るとそこまで大きく感じなかったけど、こうして寝室に置かれると、クイーンベッドだけあって結構立派だな。

 事前に寸法を測り、クイーンサイズのベッドを置いても大丈夫だと分かっていたけど、新しいベッドが置かれても、寝室にはまだまだ余裕がある。ただ、考えてみれば、セミダブルベッドの横にふとんを1枚敷いても大丈夫だったんだから、余裕があるのは当たり前なんだよな。


「では、これでベッドの設置は終わりですね」

「ありがとうございました。運転中や休憩の際に缶コーヒーを飲んでください」

「ありがとうございます。いただきます。では、失礼いたします」


 缶コーヒーの入った袋を受け取った業者のおじさんは、俺達に一礼すると、あけぼの荘を後にした。


「ついに新しいベッドが来ましたね、美優先輩」

「そうだね、由弦君。ワクワクした気持ちになるね。よし、今夜からこのベッドで寝られるように準備しようか」

「分かりました」

「瑠衣ちゃんと風花ちゃんも手伝ってくれるかな?」

「もちろんよ!」

「何でも言ってください!」


 そして、美優先輩の指揮の下、俺達は4人でマットレスを敷いたり、シーツを付けたりするなどのベッドの準備と、今までのベッドの収納スペースに入っていた服の整理などを行なった。


「こ、これは……」

「おおっ、さすがは美優。大きな赤い下着」

「Eカップですって! 水泳部の先輩もEカップの人はあまりいないですよ! さすがは美優先輩です!」

「今は確実にFカップあると思うけどね。金曜日、授業用の水着を買う際に採寸したの。いやぁ、あのときは凄かった」

「じゃあ、今はこれよりも大きな下着を身につけているんですね!」

「もう、2人とも! 人の下着を話題にして盛り上がらないでよ! 恋人とはいえ、由弦君っていう男の子もいるんだし。その下着は気に入っているデザインだし、今後、ダイエットとかして縮むかもしれないから保管してあるの。恥ずかしい……」


 服の整理をするときを中心に、風花と花柳先輩が手よりも口を動かしてしまう場面があったけれど。美優先輩はもちろん、俺も注意して2人を手伝わせた。

 それでも、風花と花柳先輩のおかげで、お昼になる前に準備や整理が終了した。


「よし、これで終わり! 由弦君、お疲れ様。風花ちゃんと瑠衣ちゃんも手伝ってくれてありがとう」


 美優先輩が笑顔でそう言うと、風花と花柳先輩が「お疲れ様ー」と拍手。なので、それにつられて美優先輩と俺も拍手をする。何だか、こうしていると作業が終わったんだとより実感できるな。


「こうして見てみると、素敵なベッドを買ったんですね! ベッドが置いてある寝室の雰囲気もいいですね」

「今までよりも、普段、美優と桐生君が寝ている寝室って感じがするよね」

「瑠衣ちゃんの言うこと分かるな。今までは私の実家から持ってきたベッドで寝ていたからね。クイーンベッドが寝室にあると、由弦君と生活しているんだってより実感するよ」

「俺もです。また、今日から新しい生活が始まる感じがします」


 その新しい生活を美優先輩と一緒にできることがとても嬉しい。美優先輩の方を見ると、先輩と目が合い、彼女は「えへへっ」と嬉しそうに笑った。


「ほら、美優、桐生君。2人のベッドなんだし、さっそく寝てみなよ。記念にスマホで写真撮ってあげる」

「おっ、いいじゃないですか。その後にあたし達も寝てみましょうよ」


 自分達が寝たいのが一番の理由に思えるが。

 ただ、せっかく新しいベッドが届いたんだ。まずは美優先輩と一緒に横になりたい。


「横になりましょうか、美優先輩」

「そうだね」


 そう言うと、美優先輩が俺の手を握ってくる。その流れで手を引かれ、俺は先輩と一緒にクイーンベッドの中に入った。


「あぁ、気持ちいい!」

「ふかふかで気持ちいいですね! ゆったりもしていますし、クイーンサイズで正解でしたね」

「うん! これからは、このベッドで気持ちいい時間を過ごそうね!」


 美優先輩は俺の方を向き、ちゅっ、とキスをしてくる。風花と花柳先輩がすぐ側にいるから、いつもよりドキドキしてしまうな。

 美優先輩が言ったように、これからはこのベッドで気持ちいい時間を過ごすことになるだろう。このベッドでたくさん思い出を作りたい。


「新しいベッドに初めて横になって、1分も経たないうちにキスするとは。美優と桐生君らしいわね」

「そうですね。由弦、美優先輩、写真撮りますよー」


 風花と花柳先輩に写真を撮ってもらい、さっそく送ってもらう。美優先輩、とっても嬉しそうな表情をしているな。大切に保存しよう。近いうちに現像してアルバムにも貼りたい。そうすれば、何年経っても今日のことを思い出し、美優先輩達と楽しく話せると思うから。

 それから、風花と花柳先輩がベッドに入る。ふかふかで気持ちいいからか、2人ともまったりとした表情になっていた。特に風花はウトウトしてしまうほど。

 初めての中間試験明けの週末は、芽衣ちゃんの面倒を見たり、クイーンベッドを買ったりして非常に盛りだくさんな内容になったのであった。




特別編3 おわり

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