第1話『クイーン』
6人で教室を後にし、部活のある風花、加藤、橋本さんとは昇降口で別れた。
美優先輩と花柳先輩と一緒に校門を出て、ショッピングモールのある
「もうすぐ夏だからか、晴れている日だと結構暑いわね」
「そうだね、瑠衣ちゃん。6月まであと1週間くらいか。そうしたら、制服も夏服に変わって、水泳の授業も始まるね」
「そうね。桐生君は大丈夫かしら?」
ニヤニヤしながら訊いてくる花柳先輩。俺が水泳を苦手なのを知っているからだろう。
「き、きっと大丈夫ですよ。ゴールデンウィーク中の旅行で、風花から泳ぎ方を教えてもらいましたし。それに、旅行に行った後も、定期的に家で手脚の動きを確認したり、イメージトレーニングしたりしていますからね」
だから、去年までよりも水泳の授業でまともに泳げると思いたい。
「あたし達は実際に見られないから、風花ちゃん達に授業風景を訊かないとね」
「ふふっ、そうだね。恋人だし、練習に付き合った身として、由弦君の水泳の様子は気になるな」
花柳先輩ほどではないものの、楽しそうに笑う美優先輩。先輩は水泳の練習の際に俺をサポートしてくれた。授業でちゃんと泳げるかどうか気になるのだろう。
水泳の授業はちょっと不安だけど、美優先輩達の夏服姿は楽しみだ。特に美優先輩は。先行公開してほしいけど、夏のお楽しみにしておこう。
「由弦君、お昼は何を食べたい? 由弦君の意見も聞いてから、行くお店を決めようって話になっていて」
「そうなんですか。う~ん……伯分寺に引っ越してきてからまだ2ヶ月くらいですし、先輩方のオススメのお店に行ってみたいですね」
「伯分寺は色々なお店があるからね。じゃあ、ラーメンはどう? 駅の近くにあるんだけど。家族でたくさん行ったし、1年生のときに美優と何度か行ったことあるよね」
「安くて美味しいお店だよね。確か、学生さんは大盛り無料だった気がする」
「そうなんですか。ラーメンは大好きなので行ってみたいですね」
「じゃあ、そこに決定!」
俺達は先輩方オススメのラーメン屋さんへ。
学生は大盛り無料だからなのか、お店に入ると陽出学院の生徒がちらほらと。今は中間試験シーズンなのか、他の学校の制服を着た人もいる。
俺は味噌ラーメンの大盛り、美優先輩は豚骨ラーメン、花柳先輩は冷やし中華を注文。
中太麺にコクのある味噌味のスープが絡まり、とっても美味しい。茹で野菜もボリュームがあって。中学時代から大盛りがちょうど良くなったけど、今回はかなりの満足感だ。これで550円は安い。大盛り無料だし、風花が喜びそうだ。
また、美優先輩と花柳先輩と一口ずつ交換し合った。豚骨ラーメンも冷やし中華も美味しい。これからも、たまにこのお店に来たいな。
昼食を食べ終わり、俺達はダブルベッドを買うためにショッピングモールへ。
「ラーメン美味しかったね!」
「そうですね。先輩方がオススメするのも納得です。ボリュームもあって、値段もそこそこなのもいいですよね」
「桐生君に気に入ってもらえて良かったわ」
花柳先輩は柔らかな笑みでそう言ってくれる。美優先輩と付き合うようになってから、こういう笑みを俺にも見せることが多くなったな。
ショッピングモールに到着し、中に入っている家具専門店へ向かう。結構な種類のベッドがあるな。お店で見ると、どのベッドもオシャレに見える。
「ダブルベッドは……ここだね」
「そうですね。フレームにも色々なデザインがありますね」
「迷っちゃうね。ただ、収納スペースがあるベッドがいいな」
「今まで美優達が寝ていたベッドには収納スペースがあったわね」
「ですね。では、収納スペースのあるフレームの中から選びましょうか」
「うん!」
俺達は店内にあるダブルベッドを見ていく。美優先輩はもちろんのこと、花柳先輩も楽しそうに見ている。
また、ここはベッドフレームだけでなく、マットレス売り場も兼ねているのか。いくつかのマットレスについては、実際に横になって試せるようだ。睡眠は大切だし、マットレスは大きく関係してくるからな。
収納スペースがあるという明確な判断基準があったので、ベッドのフレームについてはすぐに決まった。
次にマットレス選び。
美優先輩はマットレスを触ったり、少し押したりしながら硬さを確かめていく。今までと同じくらいの硬さのマットレスがいいとのこと。
「あっ、このマットレスなんて良さそう。これは実際に寝ていいマットレスだから、試しに一緒に横になってみようか?」
「いいですね」
ベッドの側にスクールバッグを置き、俺と美優先輩はベッドで横になる。お互いに制服姿だからか、こうしていると変な感覚になるな。それでも、隣で横になっている先輩を見ると凄く安心できて、愛おしい気持ちになる。
「気持ちいいね」
「ええ、いい感じですね。ラーメンを食べた後だからか、眠くなってきますね」
「ふふっ、それ分かる」
「……このマットレス、硬さがちょうどいいわね」
花柳先輩はベッドの端に腰を下ろし、そんなコメントを言う。確かに、このマットレスの硬さはちょうどいいな。それに、硬すぎたり、柔らかすぎたりすると背中や腰に負担がかかってしまうから。
「瑠衣ちゃんの言うとおりだね。由弦君はどうかな?」
「お二人の言う通り、ちょうどいい硬さだと思います。あと、当たり前ですけど、今まで寝ていたベッドよりも広いですね」
「ダブルベッドだからね。……あと、由弦君と一緒に寝ているとドキドキしてくる」
「先輩……」
美優先輩を見つめると、彼女は頬を赤く染めながらニッコリ笑ってくる。俺の体をさすってきた瞬間、俺もドキドキしてきた。
「ベッドの上だからって、キスより先のことをおっぱじめないようにね。ここはお店なんだし」
「し、しないよ! 今はアレを持っていないし……」
真っ赤にした顔を、俺の胸に埋める美優先輩。そんな先輩を見て、花柳先輩は「ふふっ」と上品に笑った。
あと、今の美優先輩の言い方。ここがお店であることよりも、俺が付けるアレを持っていないから、キスより先のことをしないのだと思えてしまう。あと、おっぱじめるって何だかいい響きだな。
美優先輩の頭を優しく撫でると、先輩は胸から顔を離し、俺を見つめてくる。一瞬だったけれど、俺にキスしてくる。
「新しいベッドがお家に届いたら、いっぱいしようね」
俺にだけ聞こえるような小さな声で、美優先輩はそう言った。そんな彼女が可愛すぎて、キスより先のことをおっぱじめたくなる。ただ、ここはお店だし、すぐ近くで花柳先輩がニヤニヤしながらこっちを見ているので、美優先輩のことをぎゅっと抱きしめた。
「今の2人を見ると、新しいベッドが家に届いたらどんなことをするのか簡単に想像できるわ」
「……美優先輩と一緒に気持ちいい時間を過ごすつもりですよ」
俺がそう言うと、見る見るうちに赤くなる花柳先輩。
「そ、想像できるんだから、わざわざ言わなくていいんだよ、桐生君」
「えっ、何を想像していたんですか? 俺は美優先輩と一緒に気持ち良く寝るって意味で言ったんですよ?」
「……桐生君。美優の彼氏になったからか、あなたも言うようになったじゃない」
口元では笑っているけど、花柳先輩は鋭い目つきで俺を見てくる。
出会ってからおよそ2ヶ月間。特に美優先輩と付き合うまでの間は何度もおしおきされたんだ。このくらいの仕返しをしてもいいだろう。
ちなみに、花柳先輩が想像していると思われる『気持ちいい時間』も美優先輩と過ごすつもりだけど。
「ふふっ、由弦君ったら。あんまり瑠衣ちゃんをからかわないの。新しいベッドで気持ちいい時間を過ごしたいね。瑠衣ちゃんも、たまにベッドでゴロゴロしていいからね」
「楽しみにしておくわ。……そういえば、あっちの方に、ダブルベッドよりも大きなサイズのベッドがあるのね」
花柳先輩が指さしてそう言うので、起き上がって指さす方を見てみる。確かに、花柳先輩の言う通り、ダブルベッドよりも大きめのベッドが置いてある。
「本当ですね。そういえば、ダブルベッドよりも大きいサイズって何て言うんですかね?」
「クイーンサイズとかキングサイズって聞いたことがあるよ」
「凄く豪華そうなイメージがありますね、美優先輩。調べてみますか」
俺はワイシャツの胸ポケットからスマホを取り出し、ベッドのサイズについて調べてみる。ダブルベッドとのサイズ比較もしたいので、サイズの一覧が乗っているページがあるといいな。
「……おっ、ありました。ええと、ダブルベッドのワンサイズ上がクイーンサイズですって。ベッドのサイズは基本的に幅20cmごとに名前が変わるんですね。クイーンサイズなら、寝室に置いても大丈夫ですね」
「どれどれ……標準的なクイーンサイズは横幅160cmなんだ。それなら、大丈夫そうだね。じゃあ、クイーンサイズも見てみようか」
俺達はダブルベッドのエリアを後にして、クイーンサイズのベッドが置いてあるエリアに。さっき決めたベッドフレームが、クイーンサイズでもあった。
先ほど横になったマットレスと同じくらいの硬さのものがあったので、俺達は再び横になってみる。
「ダブルベッドよりもゆったりしているね」
「そうですね。クイーンサイズのフレームもありましたし、俺はこっちがいいですね。美優先輩はどうですか?」
「私もクイーンの方がいいと思ってた。ゆったりしているのはもちろんだけど、寸法も大丈夫だからね。瑠衣ちゃん、大きいサイズのことを言ってくれてありがとう」
「いえいえ。役に立てて良かった。家に新しいベッドが届いて、ゴロゴロできるときを楽しみにしているわ」
花柳先輩は微笑みながらそう言った。
それからはマットレス、ベッドパット、ベッドカバー、掛け布団を選んでいく。予算内に収まって一安心。
配送業者の都合で、購入したベッドは日曜日の午前中に届く予定に。日曜日から新しいベッドで先輩と一緒に寝られることに決まり、胸が躍った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます