第32話『元号初詣』
天気予報によると、今日の天気は曇り。晴れる可能性は低いそうだけど、雨が降る心配はないので安心した。今日はみんなで元号初詣に行くから。
今日の朝食は洋風。昨日、ショッピングセンターからの帰りに、近所のスーパーで元号越しそばに乗せる天ぷらを買う際、朝食用の食パンやレーズン入りのバターロールも一緒に買っておいたのだ。
また、美優先輩がサラダを作り、俺がスクランブルエッグを作った。みんな美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
午前11時過ぎ。
昨日の約束通り、霧嶋先生と大宮先生が家にやってきた。
「成実先生、お久しぶりです。姉がいつもお世話になっています」
「お久しぶりです! 成実先生!」
「朱莉ちゃん! 葵ちゃん! 久しぶり! 大きくなったねー!」
久しぶりの再会を喜んでいるのか、大宮先生は嬉しそうな様子で朱莉ちゃんと葵ちゃんを抱きしめている。確か、去年の夏休みにここへ遊びに来たときに2人と会ったんだっけ。子供の10ヶ月って大きいからなぁ。
「朱莉ちゃんは背がグンと伸びたし、葵ちゃんも大きくなったね」
「姉さんにも同じようなことを言われました」
「えへへっ。成実先生の胸も大きくなったような気がする。気持ちいい」
「ふふっ、気に入ってくれているんだね。そういえば、去年はあたしの胸の中でお昼寝していたよね」
「そうだね。気持ち良かったな」
そんなことがあったのか。美優先輩の胸に顔を埋めたときは気持ち良かったので、葵ちゃんの言うことも分かるかな。
「ねえ、ゆーくん、美優ちゃん。こちらのとても優しくて、全てが柔らかそうな女性は?」
「私と瑠衣ちゃんのクラス担任の大宮成実先生です。由弦君も一緒に入部している料理部の顧問も務めているんです。一佳先生とも仲が良くて」
「そうなの」
「あら、見たことのない女の子が2人いるね」
成実先生は雫姉さんと心愛の前に立つ。興味津々な様子で2人のことを見ている。
「俺の姉妹です。姉の雫と、妹の心愛です」
「ああ、彼女達が桐生君の姉妹なのね。一佳ちゃんから聞いているよ。2人とも美人で可愛いね。初めまして、陽出学院高校で家庭科を教えている大宮成実といいます」
「初めまして、桐生雫です。大学2年で、国文学を専攻しています。弟がお世話になっています」
「桐生心愛です、初めまして。朱莉ちゃんと同じ中学1年生です。よろしくお願いします」
「雫ちゃんに心愛ちゃんね。2人ともよろしくね。じゃあ、美優ちゃんの妹さん達も抱きしめたから、2人にもぎゅーってするね!」
そう言うと、大宮先生は雫姉さんと心愛のことをぎゅっと抱きしめる。そのことに心愛は嬉しそうな表情をして、雫姉さんは……とても幸せそう。たぶん、令和最初にいい出会いができたと思っているのだろう。
「美優先輩。一佳先生と成実先生も来て全員集合しましたし、そろそろ元号初詣に行きましょうか」
「そうだね、風花ちゃん。はーい、それでは全員が集まりましたので、これから元号初詣に行きまーす」
『はーい!』
美優先輩、ツアーのガイドさんみたいだな。実際にやったらとても人気が出そうだ。
俺達は元号初詣へ向かう。参拝する神社は、あけぼの荘から徒歩10分くらいのところにある伯分寺神社だ。
「どんな感じなのか楽しみです!」
「それなりに大きな神社だよ。瑠衣ちゃんの話だと、初詣になると伯分寺の人だけじゃなくて、近隣の市に住む人も参拝しに来るんだって」
「覚えててくれて嬉しいな、美優。伯分寺神社は東京郊外にある有名な神社の1つだからね。電車通いの友達も、今年の初詣は伯分寺神社に行ったって言ってた」
結構人気の神社なんだな。
そういえば、俺の地元にあった神社も初詣になると多くの人が参拝してたな。地元の場合は近くに立派な神社が全然ないっていうのもあるけど。
「ふああっ……」
「眠たそうですね、霧嶋先生」
「……ええ。昨日、家に帰ってからゆっくりと入浴して。カクテルを1缶呑んで寝たら、成実さんがインターホンを押すまでぐっすり寝ちゃって」
「そうだったんですか。昨日の夜は寒かったですから、ふとんの中が気持ち良かったですし、お酒など深く眠れる条件が重なったんでしょうね」
「そうね」
霧嶋先生は目を擦って眠気を覚ましている。
学校ではキリッとしていてしっかりしていることが多いから、今の霧嶋先生は新鮮でいいな。連休も半ばだし、完全にオフモードなのだろう。
そんな霧嶋先生を誘った大宮先生は、雫姉さんや心愛、朱莉ちゃん、葵ちゃんと楽しそうに喋っている。4人は今日帰るし、大宮先生とこういう時間を過ごすことができて良かった。
徒歩10分ほどということもあってか、あっという間に伯分寺神社に到着した。
立派な赤い鳥居が、神社独特の雰囲気を醸し出している。正面に見える建物は拝殿だろうか。立派な作りだ。
「あけぼの荘から歩けるところに、こういう立派な神社があるんですね。凄いなぁ」
「私も今年の初詣で初めてここに来たときに、同じようなことを思ったよ。さあ、みなさん。神社の中に入りましょう」
俺達は鳥居をくぐり、伯分寺神社の敷地に足を踏み入れる。
令和初日で、俺達と同じようなことを考えているのか、参拝客がちらほらといる。家族連れ、老夫婦、大学生くらいのカップルなど。ただ、俺達のように大人数で来ているグループはさすがになかった。
手水舎で手と口を清め、俺達は拝殿へと向かう。年末年始ではないからか、参拝を待つ列はできていなかった。
10人同時に拝むことはさすがにできないので、5人ずつ拝むことに。
まずは雫姉さん、心愛、朱莉ちゃん、葵ちゃん、大宮先生。大宮先生の教えもあって、みんな二礼、二拍手、一礼をして拝んでいた。ただ、雫姉さんは願い事が多いのか、何やらブツブツと言っているのが聞こえた。
5人の参拝が終わった後、今度は美優先輩、風花、花柳先輩、霧嶋先生、俺の番。俺は「令和の時代も終始のご縁」という縁起の良さで、45円賽銭箱に入れた。
二礼、二拍手、一礼をして俺は両手を合わせる。
この令和という時代がいい時代でありますように。健康に暮らすことができ、愛おしい美優先輩と一緒に笑顔のあふれる時代になりますように。もちろん、昨日の夜に美優先輩と言ったように彼女と結婚できますように。
「よろしくお願いします」
そう呟いて拝殿から離れると、既に4人は拝み終えて近くで喋っていた。俺、そんなに多く拝んでいたのかな。
「由弦君。みんながおみくじを買って、令和の運勢を試すんだって。私達も買おうよ」
「いいですね。やってみましょう」
おみくじの販売所に行き、100円でおみくじを購入する。巫女服姿の若い女性がおみくじを渡してくれたけれど、アルバイトの学生さんなのかな。美優先輩は黒髪でお淑やかな雰囲気だから、巫女服も結構似合いそうだな。
「桐生君も、美優が巫女服姿も似合いそうだって思うよね」
「……どうしてそう思うことを前提で話すんですか、花柳先輩。実際に思いましたけど」
「2人も思った? あたしも巫女服姿の美優先輩って良さそうだなって思ったの。朱莉ちゃんや葵ちゃんもそうだし、一佳先生も似合いそう」
風花がそう言うので、思わず朱莉ちゃんや葵ちゃん、霧嶋先生のことを見てそれぞれの巫女服姿を想像してしまう。みんな実際に巫女さんになったら人気出そうだな。
「もう、みんな好きなことを言って。ただ、ここの神社は年末年始に巫女さんのアルバイトがあるらいいし、やってみてもいいかも。でも、年末年始は由弦君達とゆっくりと過ごしたいし、実家に帰省するかもしれないし……」
「まあ、バイトは近くになったら考えればいいんじゃない? ただ、今年の美優のハロウィンのコスプレ候補が一つできたな」
うんうん、と花柳先輩は楽しげに頷いている。料理部でコスプレしたり、友達でハロウィンパーティーをしたりするって言っていたっけ。半年後が楽しみだ。
「じゃあ、私達も買ったおみくじを開けてみようか」
「そうですね」
既に霧嶋先生、大宮先生、雫姉さん、心愛、朱莉ちゃん、葵ちゃんはおみくじを開けている。表情を見る限り、運勢が良かった人もいれば、悪かった人もいるようだ。
俺達もおみくじを開いてみる。ええと、運勢は――。
「俺は『吉』ですね」
「そうなんだ。私は『大吉』だったよ! 恋愛も『順調でしょう』。今度は旅行だけど『よし。楽しい時間となるでしょう』だって!」
「おっ、さすがは美優先輩ですね」
きっと、平成の間の行いが良かったからだろう。俺も恋愛や旅行を中心に運勢を見てみるか。
「俺の方の恋愛は『相手のことをしっかり考えよ。そうすれば良し』だそうです。それで、旅行は『準備をしっかりせよ。そうすれば良し』ですって。あとは学生なので学問は『努力すべし。そうすれば自ずと結果は出る』とのことです」
「吉だと、それぞれやるべきことがちゃんと書いてあるんだね。私の方の学問は『順調。ただし、日々の努力は怠らないように』って書いてある」
「勉強はコツコツやるのが一番ってことでしょうか。令和の時代は気を引き締めて過ごせと言われた感じがします。頑張ります」
「ふふっ、由弦君ならきっと大丈夫だと思うよ」
一緒に住んでいる美優先輩の『大吉』の恩恵にあずかりたいときも出てきそうだけど。基本的には色々なことを頑張っていこう。
「瑠衣ちゃんや風花ちゃんは運勢どうだった?」
「あたしは『中吉』だったわ。まあまあかな」
「あたしは『小吉』です。どうやら、色々頑張らなきゃいけないみたいです。勉強も部活も頑張ります。今後、定期試験や大会がありますから」
俺もゴールデンウィークが明けたら、高校生になってから初めての中間試験がある。まずはそれを頑張っていかないと。
今後、何か悩んだときの助けになるかもしれないので、おみくじの内容をスマートフォンで撮影した。
俺達はおみくじを結び、伯分寺神社を後にする。
元号初詣をしたことで時代は令和になったと実感してきた。新しい時代もしっかり過ごそうと心に決めるのであった。
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