第11話『シスターズ』

 俺達は霧嶋先生のご自宅を後にし、マンションの近くにあるスーパーに向かう。ここでセールをやっているとチラシが入っていたからだ。

 事前に美優先輩がチェックしていたものは全て買えた。

 買い物を終えた頃にはお昼近くになっていたこともあり、美優先輩の誘いで風花と3人でお昼ご飯を食べることに。

 帰宅し、俺達は美優先輩の作るひやむぎを食べる。最近は昼間中心に温かい日が増えてきたから、冷たいものがいいなって思えるようになってきたなぁ。


「ごちそうさまでした! ひやむぎ美味しかったです!」

「良かった。今日みたいな日は冷たいものをツルッと食べるのがいいと思ってね」

「そうですね。……旅行楽しみだなぁ」

「ふふっ。その言葉を言うのはこれで何度目かな、風花ちゃん」

「だって楽しみなんですもんっ! プールもありますし!」


 風花は目を輝かせる。この10連休の間に2泊3日で旅行に行くことが決まり、泊まる予定のホテルに大好きなプールがあると分かれば、テンションが上がったままなのも納得できる。

 2人の楽しげな会話を聞きながら、俺は昼食の後片付けをする。今日は3人分の後片付けだけど、実家では5人分の食器と調理器具を片付けていたので、これでも楽な方だ。


「実家……か」


 旅先が茨城なので、旅行の帰りに美優先輩のご実家に行くことになった。先輩の御両親とは一度、テレビ電話で話したことがあるとはいえ、実際に会うのは初めてなので今から緊張してしまう。

 このゴールデンウィークに美優先輩のご実家に行くから、夏休みの帰省は俺の実家になるかな。実家の近くに海があるので、そのときは先輩だけじゃなくて風花や花柳先輩もついてくるかもしれない。


「それはそれで楽しそうだな」


 雫姉さんと心愛もいるし。美優先輩と風花と花柳先輩なら俺の姉妹ともすぐに仲良くなれそうだ。

 ――プルルッ。

 あれ? リビングからスマホのバイブ音が聞こえてくる。


「あっ、朱莉あかりから電話だ。……もしもし」


 美優先輩のスマホが鳴っていたのか。電話をかけてきたのは妹の朱莉ちゃんか。姉妹から電話がかかってくるなんて……ちょっと羨ましい。

 そんなことを考えながら、昼食の後片付けを終えてリビングへ戻る。連休に入ったし、平成もまもなく終わるので自分から電話をかけてみようかな。


「お姉ちゃんはいいけど……ちょっと待ってて。由弦君に訊いてみるから」

「俺に何かあるんですか?」

「うん。今、朱莉から電話がかかってきて。朱莉とあおいが、明後日の29日から2泊3日でここに泊まりたいって言っているの。私と付き合うことになった由弦君や、隣に住んでいる風花ちゃんに会いたいらしくて」

「俺はかまわないですよ。29日から2泊3日ということは……5月1日までですか。旅行の帰りに会う予定にはなっていますけど、3日間ここでゆっくり過ごすのもいいかと思います」

「ありがとう、由弦君! それを朱莉に伝えるね」


 美優先輩は嬉しそうな様子で朱莉ちゃんに話している。明後日から先輩の妹の朱莉ちゃんと葵ちゃんがここに遊びに来るのか。楽しみだけど、失礼がないように気を付けないと。

 ――プルルッ。

 うん? 今度は俺のスマホが鳴っているな。確認してみると、心愛から電話がかかってきていた。


「妹の心愛ここあから電話だ」

「2人とも、妹から電話がかかってきて羨ましいわ」


 はあっ、と風花は軽くため息をついている。そういえば、彼女には大学生のお兄さんと中学生の妹さんがいるんだっけ。

 美優先輩の迷惑にならないように、俺は玄関の近くまで行って心愛からの電話に出る。


「もしもし、心愛」

『もしもし、お兄ちゃん。……何だか嬉しそうな声だったけれど』

「久しぶりに心愛の声が聞くことができて嬉しいんだよ」

『そっか。あたしもお兄ちゃんの声を聞くことができて嬉しい』

「ははっ、そう言ってくれると兄ちゃんはより嬉しいよ」


 やっぱり、俺の妹はとても可愛いなぁ。美優先輩のことが羨ましいと思っていたタイミングで電話をかけてきたからより嬉しいのだ。


『えへへっ。ところで、お兄ちゃんってゴールデンウィーク中の予定ってどうなっているの?』

「ええと、5月3日から5日まで、美優先輩達と一緒に茨城の方へ旅行に行くんだ」

『いいなぁ! ちゃんとうちにもお土産買ってきてよ!』

「もちろんさ。宅配で送るよ。その旅行以外はデートに行くとか、元号が変わったら近所にある神社にお参りするとかその程度かな」

『そうなんだ。実は……お姉ちゃんと一緒に、明後日の29日から2泊3日でお兄ちゃんの家に泊まりたいなって思っていて。もちろん、お邪魔だったらいいんだよ! ただ、お兄ちゃんがどんな部屋に住んでいて、あけぼの荘のある地域がどんな雰囲気なのか知りたくて。美優さんとお話もしたいかな。元号が変わるときにお兄ちゃんと一緒にいたいし。あと、早めだけど誕生日プレゼントも渡したいから』

「たくさんやりたいことがあるんだね。俺はいいけれど、美優先輩にも訊いてみないと……って、あれ?」


 29日から2泊3日って。朱莉ちゃんと葵ちゃんが泊まりに来る日と丸被りじゃないか。


「……心愛。もし、あけぼの荘に来て、そこで美優先輩の妹さん達に会えることになったらどうかな。中学1年生と小学5年生なんだけど」

『嬉しいよ! お姉ちゃんもそう思うよね』

『ええ。可愛い女の子は大歓迎よ。それに、将来、義理の妹になるかもしれない子達に会ってみたいわ』

「そう言ってくれて助かるよ。ちょっと美優先輩に今のことを話したいから待っててくれるかな」

『うん』


 通話を保留の状態にして、リビングの方に戻る。

 すると、美優先輩は朱莉ちゃんとの電話を終え、風花と一緒に食後の紅茶を飲んでいた。


「あっ、由弦君。心愛ちゃんから電話がかかってきたんだって?」

「ええ。実は偶然に、心愛としずく姉さんも29日から2泊3日でここに来たいと言っているんです」

「えっ! そうなの?」

「凄い偶然ね」


 美優先輩と風花は驚いた様子を見せる。ほぼ同じタイミングで妹から電話がかかってきて、しかも、どちらも29日から2泊3日で泊まりたいって言われたら驚くか。風花の言う通りだと思う。


「心愛と雫姉さんに、美優先輩の妹さん達に会えたらどうかって聞いたら、嬉しいとか大歓迎とか言っていました」

「そうなんだ。私はいいけれど、朱莉や葵に訊いてみるよ。あと、6人だと眠る場所が足りるかな……」

「もし、スペース的にダメそうだったら、あたしの家で寝ていいですよ。ふとんも1組ありますから2、3人くらいまでなら大丈夫です」

「いいのか? 風花」

「うん。あたしも2人の姉妹に会いたいから。それに困ったときはお互い様だよ」

「そう言ってくれて有り難いよ」

「ありがとう、風花ちゃん。じゃあ、もしそうなったらお言葉に甘えさせてもらうね。あとは、朱莉や葵がOKかどうか訊いてみるね」


 美優先輩はそう言ってスマートフォンを手に取る。朱莉ちゃんや葵ちゃんがOKをしてくれると嬉しいな。


「分かった。じゃあ、由弦君にそう伝えておくね。……由弦君、朱莉も葵もお姉様や妹さんに会ってみたいって。だから、お二人が泊まりに来てOKだよ」

「分かりました。その旨を姉と妹に伝えますね」


 保留を解除して、再び心愛と通話状態にする。


「ごめんね、待たせちゃって。実は美優先輩の妹さん達も、29日から2泊3日でうちに来ることになっていてさ」

『そうなんだ。だから、お兄ちゃんはさっきあんなことを訊いたんだね』

「ああ。それで、向こうも会ってみたいって言ってくれてる。だから、明後日から雫姉さんと一緒に泊まりにおいで」

『やったー! ありがとう、お兄ちゃん!』

『ありがとう、ゆーくん。ただ、私達まで来て大丈夫なの? アパートだし、寝るスペースとか……』

「それも先輩と話した。もし、スペース的に無理そうってときには、隣の部屋に住んでいるクラスメイトの女の子が泊まっていいって言ってくれてる」

『それなら安心ね。じゃあ、明後日はここちゃんと一緒に行くから』

「ああ、分かった。待ってるよ。じゃあ、またね」


 そう言って、俺の方から通話を切った。

 まさか、29日から2泊3日でそれぞれの姉妹が遊びに来ることになるとは。

 雫姉さんや心愛が、朱莉ちゃんや葵ちゃんと会ったらどうなるか。心愛は明るいし2人ともすぐに仲良くなりそう。雫姉さんは……デレデレして2人のことを愛でそう。


「雫姉さんと心愛が29日から来ることになりました」

「分かった。まさか、旅行だけじゃなくて、私の妹達と由弦君のお姉様と妹さんが同じ日に泊まりに来ることが決まるなんて。予想外のことって続くものなんだね」

「ですね。あたし、2人から楽しみをお裾分けしてもらった感じがします。今年のゴールデンウィークは忘れられないものになりそうです」

「そうだね。何だか、今日で一気にゴールデンウィークの予定が決まったね。楽しい連休になりそうだよ」

「盛りだくさんな連休になりそうですね。連休を謳歌するためにも、連休明けに提出する課題をこれから片付けちゃおうかなと思います」

「あたしもやるっ!」

「私も課題があるから、みんなで勉強会しようか」


 それから、リビングで美優先輩や風花と一緒に宿題を片付けていく。また、美優先輩が花柳先輩を誘い、途中からは彼女も参加した。

 美優先輩や俺の姉妹が来ることや旅行という楽しみがあるからなのか、風花の集中力が凄い。普段に比べて俺に質問したり、助けを求めたりすることが少ないし。

 有意義な時間となり、4人とも課題を全て終わらせたのであった。

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