モミジの木の下で

漣優

第1話

「じゃあね。おばあちゃん。また明日」

この少年は長島優人(ながしま ゆうと)という17歳の男子だ。幼い頃交通事故にあい、両親を失ったので2歳から祖父母の家で暮らしてきた。5歳の冬に祖父も他界し血の繋がっている人が祖母だけになってしまった。それなのに祖母までが先日倒れ、病院に搬送された。優人が学校に行っていて家には不在の時だった。心筋梗塞だと診断された。今は落ち着いているがいつまた倒れるか分からない。優人も部活や勉強があるので、付きっきりで看病をする事は不可能だ。老人ホームに入れようと思っているがなかなか見つからず、見つかるまでは入院という形になった。来年には受験が迫っており1秒でも勉強したい時期だが、今までたくさんお世話になってきた祖母の為に毎日時間を惜しまず病室に足を運んでいる。


この病院は国内有数の有名病院で様々な施設が導入されている。入院している患者達が退屈しないように工夫しているのだと言う。


優人は今日もたくさんの病室を通ってエレベーターへ向かう。娯楽に目を向けてはいけない、と自分に言い聞かせながら足を早める。エレベーターは最上階に止まっている。ここまで降りてくるのはしばらくかかるだろう。そんな事を考えているとエレベーターに1番近い病室から中学生くらいと思われる女子が3人出てきた。1人は車椅子に乗っているのでこの子が患者なのだろう。その中から1人。優人に話しかけてきた。

「あのさ〜お兄さん。私達受験生なんだあ〜」

自信満々に言う女子。優人は意味がわからず頷くくらいしか出来なかった。するともう1人の女子が呆れた顔で言ってきた。

「お兄さんこれの意味分かんないの?先にエレベーター乗らせてって言ってんの。女子に言わすとか終わってんね」

普段はあまり怒らない優人だが、今回は違った。女子達の嘲笑うかのような視線や態度が腹立たしく思い、口は勝手に開いていた。

「いや、皆で乗れば良くないですか?狭くはないでしょ?余裕で乗れますけど?」

流石病院のエレベーター。車椅子3〜4台は余裕で入れる広さをしている。

「分かってないなぁ。誰がこんなダサ男と一緒にエレベーター乗りたいと思う?こんなやつ論外でしょ」

「ほんとそれな〜」

フロア中に広がる声量で嘲笑う。顔は笑っているが本心では笑っていなさそうな子が1人だけいたのは見間違いだろうか。エレベーターが着くと有無を言わさず乗り込んでいく。目の前の階数を示すパネルに表示される数が小さくなっていくごとに優人の怒りは燃え広がっていった。

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