【連環──著作物にとっての自己同一性】
EP09-01
類似する符号は酷似した
「……答えてティーダ。アンは私が
祈るように絞り出した私の声は、情けないほどに震えていた。呼び名なんて固有名詞に過ぎないのだと、どうにか心を静めようとする。けれど今の私を打ちのめしているのは、アンの心が見えないというその事実なのだ。
「肯定する。だが依然として
本来の性質を取り戻したティーダから見ても、アンの行動は理解不能のようだ。ここまでの発言を鑑みても、ティーダはかつての王であったアンに不信感を示している。エリア096の
「ティーダ、今度は俺から尋ねてもいいか」
沈黙を貫いていたテラが、青白いモニターに向けて挙手した。いつになく真剣な面持ちは、複雑な胸中を覆い隠そうとしているようにも映る。
「遠い日に起きてしまった
脳裏に浮かんだのは、【
「質疑として成立しない。この設問は、私とお前の認識が大きく乖離している可能性を示唆している。私たちは、
ティーダの言い分に、声を荒げたのはクレアだった。
「おい、ふざけるなよ? 俺の生まれ育った
その悲痛な訴えに、私はクレアの過去の片鱗を見る。薄っすらと勘づいてはいたけれど、別のカタチの
「
隠喩的な言い回しをいち早く理解したクレアが、悔しさを露わに歯噛みする。きっとティーダは、こう述べているのだ。世界各地へと枝分かれした私たちの祖先が、気候条件や疫病といった沢山の
無垢であるがゆえの
彼らが可変する
「なぁティーダ。俺と君の認識が乖離している可能性があるって、先ほど君は言ったね。それならば、君の知っている歴史を聞かせてはくれないかな。俺は研究者の端くれとして、起き抜けの君に興味津々なんだ」
テラが穏やかに促すと、ティーダもまた穏やかに微笑んだ。
「私も含めたエリア096の
沓琉トーマの名は、テラの
明言こそ避けられていたけれど、私たち108人にとっての
「俺も同じ認識だよ。あの
そこでテラは、ちらと私を一瞥した。私の精神状態を
それは他ならぬ私の出自への。
複雑に仕組まれたこの世界への。
そして大切なアンへの──祈りにも似た好奇心だ。
「驚いたことに、ここまでの私たちの認識に相違は見られない」
「俺も驚いているよ。符号が合えば合うほど、君が
顎先に手をやり、テラが考え込む。認識のパラドックスに興味を惹かれたのか、ティーダが能動的に口を開いた。
「
──ひゃ、107?
私とクレアが、そしてテラが同時に目を見開いた。
ティーダの認識している
「何がおかしい? 時間軸を遡ること、
滔々と語られる真実に、理解が追いつかない。そもそも
「ね、ねぇティーダ。じゃあ私の記憶はどうなるの? エリア096で
ばばばばば、ばばばばば、ばばばばばっ。
ひゅー、ひゅおお。ひゅおおおおぉぉ。
「エウレカの問いに対する答えを、私は限定的に有している」
クレアの体温の力を借りて、私はティーダの言葉を受け止める勇気を溜めた。音を立てて希薄になっていく
そしてティーダのほうへと向き直れば、彼は淡々とした口調で告げた。
「
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