残悔のリベラル -the Amber brain of Avalon-
五色ヶ原たしぎ
──以下に残悔の記録──
【崩落──Introduction】
EP00
私たちの世界は平面的で、完璧な直線によって造られている。
あるいは、
湾曲を知らない柱の数々が、この平面世界を形成している。
嘘偽りのない球体や円形こそが完全で、この平面世界に不必要な彩りを求めることもない。
去りし日に存在したと記録されている日時計という物体。
さらには方位磁針や羅針盤などといった名称の不確かな
それらに代表される不確実性は淘汰され、積み重なる時間の中で歴史の遺物となった。
今や一秒間を92億回切り刻んでも、我らが
心許なさを何よりも嫌う
──人工物?
かつての私であれば、その呼び名に小首を傾げたに違いない。人類さえも淘汰された完璧な世界で、
だけど今の私には、小さな
私は私だけが人間だと識りながら、人類を認識したことのない機器の群れの中を生きていた。偉大なる
──いいえ、正確にはこうね。
私は自分を
きっといつまでも真実に目を伏せたまま、そう思い込もうとしていた。
「ねぇ、アン。聞こえる?」
「ええ、聞こえますとも。私をそのように可愛らしい名で呼ぶのは、貴女以外にない」
抑揚のない合成音が私に答えた。それなのに私は、ここに在るはずもない優しさを、言うなれば救いを、今現在もまだ彼に見出そうとしているのだった。
「アン、聞いて。私はね、あなたを信じた。このまま『老い』という名の
「おっしゃる通りです。だから、貴女は正しい選択をした」
「そうじゃないよ。正しさなんて、きっとどこにもないんだから──」
──ねぇ、アン、あなたには聞こえないの。私の拍動は、こんなに寂しい
「いいえ、正しさは存在します。エリカ、貴女を見守ることだけが、いつだって私の正しさだった」
愚かな私が以下に語るのは、鮮血と螺旋の物語だ。
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