ソウルジャッジ-管理される魂ー

アリエッティ

第1話 現(このよ)と冥土(あのよ)

「はんっ!」

夜の公園で、剥き出しの刀を振り人を掻っ捌く男が一人。

ぼさぼさの髪に加えタバコの痩せ型オヤジ。

名を睦月 祥吾むつきしょうご

「これで終いか、面倒くせぇ。」

「ムッキー終わったぁ?」

「あぁ。

ていうかお前今までどこ行ってた?

サボんじゃねぇよ毎回!」

「んな事言われてもさぁ〜、アタシ別に要らんくない?」

死んだ目で棒突きアメを頬張るピンクのパーカーの小柄な少女が冷めた口調で男に言う。

「仕方無ぇだろ俺たちゃペアなんだ、二人一組って決まりなんだよ!」

「それ毎回言うけど普通イヤっしょ。

どこに日本刀振り回す『警察』がいんのさ?」


「全身ピンクのテメェが言うな」

「ファッションは自由っしょ?

ほらこれ見てみ、警視庁魂ソウル一課の種林 ミルカでっせ。」

服装同様ピンク色の装飾の施された独自性溢れる手帳を広げ、祥吾にどやついた顔を向ける。

「...ったく、やってらんねぇぜ。

だいたいいつからこうなった?」

「本気で言ってんの?

忘れてねぇクセに、わざとらし。」

刻は数年前に遡る


「あれは俺がでっけぇヤマを終えて署に帰ろうとしてたときだ。」

「..あ、回想するんだ」

「たりめーだバカ。」

近くの中華屋で拳銃片手に立てこもった奴がいてよ、従業員人質にとって金を要求して来やがった。

「そんな大きなヤマかそれ?」

「当たり前だ、めちゃくちゃでかい」

「自分で言うなや、小さく聞こえる」

そんでどうにかそれを片付けて、いざ署に帰ろうと横断歩道を渡ろうと赤信号を待ってたら..。

「道路挟んで直ぐかよ、近いな」

「だから言っただろ、近くの中華屋だってよ。」


「いちいち茶化すな!」

向こうから小せぇガキがボール追いかけて飛び出して来たんだ。

「ベタだな、恥ずかしいなお前。

…待てよ、お前まさか」

そしたら相手は赤信号だ、トラックが攻めて来るわな。

「待った、嘘だろ、お前まさか?」

俺は事件を終えた後でヘトヘトだったが、轢かれそうなガキを助けようと飛び出した。

「やっちゃったよ、流行らねぇやつだよ。そうするべきだけど」

お陰でガキは助かった。

だけど俺はトラックの餌となりやられちまった。

「やっぱかー!

英雄的な奴だぁ、よく見る奴だぁ。ていうか...トラックの餌って何?」

そこで俺は死んだ筈だった。

だが気が付いたら俺は署の一室で...

「ていうかさー、回想長くね?

まだやんの、飽きてんだけどさ」


「うるせぇな!

静かに聞いてやがれクソガキ!」

「だってなげぇんだもん。でさ、トラックの餌って何?」

「.........放っとけ!」

死んだ筈の俺は、目を覚ますと部屋にいて、そこには知らねぇハゲたオッサンとピンクの女がいた。

「続けんのかよ、耐えられんのかよミスった表現のまま」

そこは確かに署の一室だったが見た事の無い部屋だった。

「つーか最初の事件関係ねぇんだな」


「ここ、ドコだ?」

「目が覚めたか、睦月 祥吾君。」

「俺の名前を..オッサン何もんだ?」

「なに、ただのオッサンだよ。」

これが俺の後の上司、カガリ一平。

「何がくんだよ、そいつ確か36だよ、ジジイじゃんか。」

その奥で踏ん反りかえるクソガキが今のペアだ。

「部屋の内装分かんねぇから伝わんねぇよバカが。」

何故俺は生きている?

何故こんなところで寝てるんだ?

「おい無視かよ、おい」

それは相手から教えてくれた。

「祥吾君、君は生き返ったのだよ」

「生き返った?

なら俺はやっぱり俺は今まで死んでたのか?」

「ああ、私が生き返えらせた。」

「生き返らせた、どうやって?」

「正式には、再び魂を与えただけだ。生きている訳では無い」

どういう事だ?

生き返った訳で無い、でも俺はこうして生きている。...意味が分からない。

「なぁ、まだやんの?」

「黙ってろ、もうすぐ終わる。」

「...待ってらんねぇ、もういいよ。

アタシが軽く説明するわ」

「何言ってんだお前余計な事すん..」

「五月蝿ぇ、黙ってろ。」


要するにアタシらは一度死んで魂をもう一度入れられた。扱いとしては入れ物みたいなもん。形を留めて魂が入ってるだけの状態だな。なんで仮にでも生き返れたかってーと、前に出てきた上司のハゲたオッサンが前々からアタシら二人に目ぇ付けてて、ちょっとした〝手続き〟してたから。

「どうよ?」

「...簡単だな。」 「だろ?」


生活するにゃなんら支障は無い。

買い物できれば人とも話せる、不自由が無い訳でも無いけど。例えばムッキーの場合は仕事に未練があっから警察の仕事するときは周りに見えなくなる、都合良いカラダって事だな。アタシは..まぁいいとして、仕事つっても前みたいに盗っ人追いかける訳じゃないんだわ。

「一度死んだ事でアタシらは、見えないもんが見えるようになっちゃった」

ハゲに言わせりゃ手続き忘れた彷徨う魂らしいけど、コイツらが偶に悪いことすんだよね。

「だからそれを俺達が、叩っ斬る訳だ。この刀はその為に渡された武器」


「入ってくんな不潔アゴヒゲ」

「お前もまぁまぁなげぇんだよ。」

今回もそれで外に出てきたんだか、やっぱり最近おかしいな。

「悪いモンの数が前より増えてねぇか?」

「そーおー?

アタシいつも現場いないからわかんねぇや、誰の仕業だろね。」

「疑わしいとすりゃ〝管理者〟だろうな、最近変わったらしいしよ。」

「管理者?

あの黒いフードの?」

「あの厄介者達だ。」

「厄介者って、魂の管理してんだからアタシらの味方じゃねぇの?」

「味方な事あるか。

アイツらは俺らの〝天敵〟だ」

「ふーん、天敵ねぇ..。」

叩きす者と管理する者。両者似て非なる混ざり合わぬ存在。


現と冥土の狭間に住むと云われ、基本的に二人組で活動を行う。箇所によって担当が割り振られ、区別される。

その中でも特に未羽町は多く魂が行き交うという事で、定期的に管理者が変化する傾向にある。今回もその節目の時期に差し掛かっていたようだ。


「さぁてと、久し振り街にでも降りてみますか」

「街行くの?やったー♪」

「そんなに嬉しい?

変わってるね」

「だって街だよー?

そういえば最近新しい裁行人出来たらしいよ!」

「裁行人が?

面倒くさいな、嫌いなんだよ僕あの人達」

どちらも、魂と共に有る。

人が変わろうと顔を忘れようと、相性が悪かろうと。嫌という程付き合わされる。

「うわ、雨降ってきた」

「わーい!ざぁさぁー」

「ま、濡れないんだけど」

例え雨に嫌われようと。

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