昼飯を作ったんだが地球はもう駄目かもしんない

天蛍のえる

大怪獣カレーピカタドン


『ギャォオオオオ!!』



『緊急速報です!町に巨大チャーハンが現れました!付近の住民は速やかに避難してください!繰り返します……』



テレビの向こうではビルより高く盛られた大盛チャーハンが手足を振り回して暴れていた。一撃でビルを砕く力は無いが振り回した腕?が当たれば、人体はひとたまりも無いだろう。

レポーターはヘリに乗っているとはいえチャーハンのすぐ近くまで近づいている様だ、プロ根性だか記者魂だか知らないが逞しい事である。



「んー、やっぱチャーハンにはギョウザだよね」



画面に映る巨大チャーハンを尻目に暫し冷蔵庫を漁り、取り出したのは豚ロースの薄切りだった。まな板の上に並べたそこに塩、胡椒、そして小麦粉を振り掛けると、棚からボウルを取り出し卵を溶きはじめた。



「まさか挽き肉もネギも無いとは……皮だけならどうとでもなったんだけどなー」



手早く卵をかき混ぜると棚から粉チーズを取り出し



「あっ、カレー粉あんじゃん。こうなったら炎のインド料理だね、実質」



溶き卵に粉チーズとカレー粉が降り注ぐ。黄色、白、茶色、三色入り交じったそこに先程の豚ロースを一枚一枚てきとーに放り込んだところでテレビを見ると、現地中継からスタジオに戻り現在の政府の動向を報じていた



『政府はこの非常事態にお料理研究家のレミ氏、フードファイターのソネ氏を招聘しての対策協議を行う模様です』



「あー、中継しててよ……まったく」



フライパンにバターを溶かし、たっぷり卵の絡んだ豚肉を投入、ジュウジュウと美味しい音とカレーの芳しい薫りが広がって行く。片面が焼けたらひっくり返し、しっかり焼けたら器によそって……



「よーし、完成完成。あとは最後の隠し味、愛情!しかし材料が足りない!!」



人差し指と中指を立てて剣印とする。宙に描いた五芒を器に向け、愛情代わりの隠し味。



「巨大チャーハンを倒せ、急急如律令!!」



閃光が疾った



光を放つお皿に溶け込む様に、カレーピカタは姿を消した。

空に輝く巨大な円盤が現れ、黄色い肉の塊を産み落とした。



『あ、あれは一体何でしょうか!鶏肉でしょうか!新型の戦闘機でしょうか!?』



「豚肉だよ……や、判ったら凄いけど」



中継に戻ったテレビの向こうで、カレーピカタがチャーハンに襲い掛かった。



『ギャォオオオオ!!』

『ピャァァァァア!!』



空から降ってきたカレーピカタのフライングプレスをチャーハンはアッパーで迎え撃った。巨体と巨体がぶつかり合い、大地が地響きを立てて揺れ動き、打ち負けたのはチャーハンの側であった。カレーピカタの重量を打ち返すにはパラパラ感の強いチャーハンでは力不足であったという事だ。

力比べではカレーピカタに利がある、そう悟ったチャーハンはパラパラ感が生み出すスピードと具材の多様性で反撃に撃って出た。



『なんと!肉塊に腕を潰されたチャーハンが人型を保てない様子!これは肉塊の勝利かー!?』

「いけない!」



チャーハンの強みは多様性にある。細かく刻まれたすべてはチャーハンの具材として取り込まれる。そして、これは具材を微塵にして、同化するチャーハンの必殺技



『な、な、なんという事でしょう!チャーハンが渦を巻いて!人型から、竜巻に変化しています!チャーハントルネードです!!』



ピカタの材料である豚肉もまたチャーハンの具材としてはメジャーなもの、卵の衣で幾らか防御力は高いとはいえただのポークピカタではチャーハントルネードに砕かれてしまう……



「だが、カレーはチャーハンすら取り込む究極の一。見せてやれカレーピカタ、インドの力を!!」



『ピャァァァアア!!』



「カレーブレスファイヤー!」



『なっ……なんと!肉塊が、肉塊が火を吐きました!これは、……チャーハントルネード、炎に包まれてみるみる勢いを失くして行きます!!』



チャーハンは米を熱した油でコーティングする料理、それは即ちよく燃えるという事に他ならない。



『チャーハンにお焦げが!いえ、もう炭です!炭化して……崩れていきます!我々を苦しめたあのチャーハンが崩れていきます!我々の勝利です!人類はチャーハンに勝利しました!!』



「いや、勝ったのは私のカレーピカタだってば。ま、いいけどね。帰っておいでカレーピカタ」



『ピャ、ピャァァァイ』



『あぁ!肉塊が!謎の肉塊が飛んで行きます!どうやって飛んでいるんだ!何だったんだ!どこから火を吐いたんだ!疑問は尽きませんが今はただこの言葉を贈りましょう!ありがとう!貴方のお陰で地球は救われました!ありがとう!』



「地球って……おーげさだなぁ」



光の円盤を通ってカレーピカタが帰って来る。画面の向こうとは縮尺の違う、普通の皿に収まるサイズのままだ。チャーハントルネードで負った傷も、地面に触れた汚れもない、多少冷めた以外先程と代わりのないカレーピカタがそこにあった。



「でも親に行かされた陰陽道教室の食神作りがこんな風に役立つ日が来るなんて、人生わかんないよね」



チャーハンを打ち倒したカレーピカタは実体ではない。古の陰陽師達が紙から式神を産み出した様に、料理から産み出される食べ物の化身、それが食神である。



「おっ、あっちも出来たか」



チンッという音が響きレンジから取り出されたのは先程焼き付けされたのと同じチャーハンだった。



「見てたら食べたくなっちゃうよね、昨日の残りがあってよかったぁ」



丼に盛られたチャーハンにカレーピカタを載せていく。これだけでは野菜が足りない気がするが、構うまい。



「では、大怪獣カレーピカタ丼の勝利を祝して……いただきます」



こうして、地球を救った肉塊は無事胃の中に収まったのであった。









『あぁ!肉塊が!謎の肉塊が飛んで行きます!どうやって飛んでいるんだ!何だったんだ!どこから火を吐いたんだ!疑問は尽きませんが今はただこの言葉を贈りましょう!ありがとう!貴方のお陰で地球は救われました!ありがとう!』



「ほぅ、俺のランチを倒す奴が居るとはな……なかなか美味そうなピカタじゃないか」



テレビを見る男の前には一枚の皿、そこには黒焦げになったチャーハンの残骸が積み上げられていた。



「今日のところは俺の負けだが、この恨みはいずれ晴れさせて貰う……だが先ずは!」



男は立ち上がると踵を返して台所へと歩を進めた。



「昼飯の、作り直しだ」



言葉とは裏腹に男の目は豚ロースを求めるのであった。

《つづかない》

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昼飯を作ったんだが地球はもう駄目かもしんない 天蛍のえる @tenkei

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