思わぬ伏兵でした



 結論から言います。



 ──普通に捕まりました。



 アカネさんだけではなく、ウンディーネまで私の逃走劇の邪魔をしてきて、流石の私も二人が相手ではジリ貧になってしまい、呆気なく束縛。


 そしてなぜか私は、執務室に運ばれました。




「なぜ逃げた?」


 私の前には、アカネさんが腕を組んで仁王立ちを…………その横ではウンディーネも同じように腕を組み、ふわふわと浮いていました。


 彼女達の表情は、少しばかり怒っているように見えます。



「いや、あれは逃げますって」


「妾との婚約が嫌じゃということか!?」


「いや、そうではなく……」


『リーフィア。流石に、逃げるのは酷いと思う』


「ウンディーネまで……」



 私としては、どうしてウンディーネがあっちサイドなのかを問いたいのですが、今はちょっと言えるような雰囲気ではありませんよね。




「なぁ、どうしてウンディーネはアカネの味方をしているのだ?」


 と、空気の読めないモブA……ではなく、一部始終を見ていたミリアさんが疑問を口にしました。


 どうして彼女がここに居るのか。

 …………まぁ、執務室だから当然なのですが。


 というか、まだお昼にもなっていない時間なので、執務室にはミリアさんだけではなく、ヴィエラさんとディアスさんも居ます。



 まさかの主要メンバー全員集合の場所で、私は簀巻きにされているのです。酷いと思いません?



「てっきり、ウンディーネはリーフィアの味方で、結婚に反対すると思っていたのだが……」


 その疑問は、私と同じようなものでした。


 ウンディーネは私のことを『大好きだ』と言ってくれています。私がついうっかり「結婚しよう」と言っても、驚きはしますが満更でもなさそうでした。


 なのに、どうしてアカネさん側に付いているのでしょうか。



『うちだって、リーフィアが誰かと結婚するのは、嫌だ…………でも、アカネが意味もなく結婚をお願いするとは、思えなくて……』



 タイミングは本当に急でしたが、アカネさんが一時の感情で『婚約』という、明後日な方向に暴走するとは思えません。


 だったら何か意味がある。

 そう思っていても、やはり『婚約』という言葉に動揺してしまうのです。


 だから、面倒事に巻き込まれる前に逃げたのですが……ウンディーネは私にこう言いたいのでしょう。



 ──アカネさんを助けてあげて、と。




「…………わかりました。アカネさんの話は聞きましょう」


「ではっ──!」


「返事は、全てを聞いたその後です」


「……う、うむ。わかっておる」



 アカネさんには悪いですが、私だって無闇矢鱈むやみやたらに『婚約』をするわけにはいかないのです。


 しかも、私達は女同士。この世界で『同性婚』が有りなのか無しなのかは知りませんが、何にしても心の準備というものが必要です。




 …………本当は、最初はウンディーネとしたか……って、この話はまた後にしましょう。



「でも、まず最初に話を聞く前に、一つだけ聞いておきましょう」


「何じゃ? この際じゃ。何でも話そう」


「では遠慮なく。……アカネさんの目的は、婚約する以外の道では解決できないのですか?」


「ああ、不可能じゃ。どうにかしようと考えたが、婚約以外では無理じゃとわかった」


「…………そうですか」


 魔王幹部の頭脳であるアカネさんが必死に考えても、婚約という解決策以外は思い浮かばなかった。……であれば、今更別の答えを導き出そうとしても無駄なのでしょう。



 一先ず、手っ取り早く目的を達成しようと暴走しているわけではないと、それだけは理解しました。


 ならば私は、ちゃんと向き合って彼女の話を聞きましょう。



「あ、あと、すいません」


「なんじゃ? 他にもあるのか?」


「…………拘束を解いていただけますか? 私を絶対に逃がさないとキツく締めたのはわかりますが、あの……そろそろ……絞め殺されそうです」


「すまぬ。それは本当にすまぬ」



 アカネさんは謝りながら、縄を丁寧に解いてくれました。


 婚約者になる相手に、逃げられないようにと拘束される人って、私くらいじゃないですかね。

 ……うむ、貴重な体験をしたとポジティブに考える事にしましょう。



「ふぅ……ようやく自由になりました。ウンディーネ、紅茶を淹れてくれますか?」


『わかった!』



 私は、執務室では定位置となったソファーに腰掛け、その反対側にアカネさんも座ります。



「では、婚約に至った経緯を話していただきましょうか」


 アカネさんは頷き、ゆっくりと、口を開きました。


「…………事の始まりは、一昨日の朝じゃ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る