あなたが嫌いです
魔女の家で生活を始めて、二週間が経ちました。
その間私がやることは変わらず、寝て起きてご飯食べて眠り、目が覚めてしまったら適当にゴロゴロして過ごす生活を繰り返していました。
この際、魔女に関する何かの情報を集めようかと思ったのですが、本棚にあるのは魔女が所望したと思われる絵本のみ。
魔女らしくどこかに隠し扉や謎の暗号とか無いかな〜と探したのですが、それらしき物はあの時発見した『日記帳』以外に見当たらず、一応魔力の反応を見て探してみても無駄だったので、早々に諦めました。
無駄なことで時間を潰しても意味はないですからね、時に人は諦めというのも大切なのですよ。
そんなわけでめちゃくちゃ暇な私なのですが、だからって外に出ることはありませんでした。
……面倒なので。
「……はぁ、そろそろですかねぇ」
私は部屋の時計を眺め、ベッドから起き上がって玄関へと向かいます。
静かに扉を開けるとそこには──
「こんにちは、一週間ぶりですね……ダインさん」
相変わらずの仏頂面でダインさんが立っていました。
その後ろには一週間分の食料が山ほど。
「一週間分の食料を持ってきた。では──なんだ?」
さっさと用件だけを済ませて帰ろうとするダインさんの腕を掴むと、彼はめちゃくちゃ不機嫌そうな顔で振り向きました。
その瞳は「忙しいから帰りたいのだが?」と語っています。
普通の人なら卒倒してしまいそうな眼光ですが、そんなもの私には意味がありません。
「折角来たのですから、お茶くらい飲みませんか?」
「俺は──」
「まぁまぁ、そんなことを言わずに」
「待て、まだ何も言っていな──ぐっ! なんだこの腕力は!」
私は力づくでダインさんを家に招き入れ、ソファに座らせます。
適当に冷やしておいたお茶を出し、私は彼とは反対側のソファに腰掛けました。
「……何が目的だ」
ダインさんはいつもの仏頂面に不機嫌をプラスして、私を力一杯睨みつけます。
「さて? お茶を飲みましょうと誘っただけですが?」
「そうか……」
ダインさんはそれを聞くと、ぐいっと容器の中身を飲み干し、ダンッ! とテーブルに叩きつけるようにそれを置きました。
「ごちそうになった。また一週間後──今度は何だ」
「まぁまぁ、折角中に入ってゆっくりしているのですからお話ししましょうよ」
「ゆ──」
「まぁまぁ、そんなことを言わずに、ほら座って?」
「まだ何も言っていないと……くそっ!」
強引に立ち上がろうとするダインさんの肩を、高速で後ろに回り込んだ私が抑えて再度座らせました。
彼は悪態をつきながら座り直し、次は殺意むき出しの視線をこちらに向けて来ます。
「あらら、そんなに睨まれると怖いですねぇ」
「欠片ほどにも思っていないくせに、よく言う」
「はい、思っていませんよ? だって怖くないですもん」
「…………貴様は、やはり気に食わない。エルフなのに生意気だ」
「あら、奇遇ですね。私もあなたが嫌いです。それも最高潮に」
私はニコニコと目を細め、ダインさんを見据えます。
対して、彼はもうこれ以上はないと言わんばかりの鋭い視線で、私を目の敵のように睨みつけていました。
そんな睨み合いが数分続いたところで、私は肩の力を抜いて息を吐き出します。
「……やめです。これ以上無意味な時間を消費するのは、あまり好きではありません」
「それに関しては、誠に遺憾だが同意見だ」
「なので単刀直入に聞きます。あなた方は──」
私はそこで言葉を区切り、深呼吸。
「何を企んでいるのです?」
ダインさんは私を睨んだまま、視線を逸らしません。
「…………話さないと言ったら」
「捕えて拷問します」
我ながら容赦のない一言だと思いました。
ですが、ここまで連れて来て何も話さないエルフが悪いのです。
「おそらく、あなた方が望んでいるのは私の──命。そして、それによって引き起こされるのが、エルフの秘術なのでしょう。私を必死に取り込もうと行動していたのは、そのエルフの秘術──森を覆っている結界が弱まってきたから。……だから、魔女の命と引き換えに、再び結界を構築し直そうとしている。──という見解ですが、何かありますか?」
「…………そこまでわかっているのなら、話す必要はないだろう」
「否定しないのですね」
「間違っていないことを、否定はしない」
「では、私は魔女を辞退します」
私はまだ死にたくありません。
死ぬとしても、こんなしょうもない人達のために死にたくありません。
なので私は魔女になれない。
ですが────
「魔女は決定した。もう変えられぬ」
「…………はぁ、そう言うと思っていました」
強情なところも相変わらずです。
だからこそ、彼の発言は予想するのが容易なのですよね。
「俺は忙しいんだ。また一週間後、食料を持ってくる」
「待ってください」
「まだ何か──」
「次はフルーツを沢山持って来てください。めちゃくちゃ美味しいやつです。お肉は飽きました」
「俺はお前の召使いではない」
「別に良いではありませんか。もう死ぬ命なのですから、わがままくらい言わせてください」
「…………わかった。希望通りにしてやろう」
ダインさんはそれ以上何も言わず、空間を渡って行ってしまいました。
私の命は──残り二週間。
「はぁ……ったく、面倒なことになりましたね」
私は重い足取りでベッドへ向かい、ダイブします。
何度かのバウンドの後、私の体はふかふかのベッドに沈みました。
いつもなら癒しであるこの行動ですが、今は全く癒されません。
むしろ、どこか虚しくなります。
それはもう少しでこれを感じられなくなるからなのでしょうか?
それとも、他に理由があるのでしょうか?
「──チッ」
私は舌打ちを一回、その後、盛大な溜め息を吐き出しました。
ああ、本当に…………面倒ですね。
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