彼女が怒る理由です

「ねぇウンディーネ〜……そろそろ機嫌直してくださいよ〜」


 ウンディーネを抱きながら、私はベッドに横になっていました。でも、相変わらず彼女は頬をぷくーっと膨らましたまま、どこか不機嫌そうにしています。


 ちなみに場所は宝物庫から動いていません。

 ということは古谷さんも居ますが、彼は私達のことを気にせず褒美選びに夢中でした。


『別に、怒ってないもん』


 それ、怒っている人が言う台詞ですよねぇ。

 えぇ……? どうして急に怒っちゃったんでしょう?


 私が何かした覚えはありませんし、古谷さんが何かした様子もありませんでした。

 でも、ウンディーネは理不尽に怒るような子ではないと知っています。


 何かこうなった理由があるはずなのですが、鈍感な私はそれに気づけません。元より、他人の心を読むのは苦手だったのに、どうしてこう大切な子に限って面倒なことになってしまうのか……自分が嫌になってしまいます。


 …………うーむ、こういう時はアカネさんに頼りたいのですが、彼女も疲れているでしょうし無理言って相談乗ってもらうのは気が引けます。


 ヴィエラさんは相変わらず馬鹿みたいに忙しいでしょう。


 ディアスさんは女心というものがわからないでしょうし、ミリアさんは最初から論外です。




          ◆◇◆




 ──ガタッ!!!


「なんか今、とてつもなく馬鹿にされた気がする!」


「ミリア様、うるさいですよ」


「だが、確かに馬鹿にされた気がするのだ! 誰かはわからんが、とにかく余のことを馬鹿に──」


「うるさいって言っているでしょう。いい加減にしないとリーフィアを呼んで尻叩かせますよ」


「…………ごめんなさい」




          ◆◇◆




 とにかく、私自身でこの問題を解決するしかなさそうですね。


「ウンディーネ。後で街に出かけましょう。最近は一緒に行けていませんでしたから、久しぶりに二人だけでデートしませんか?」


『……デート?』


「ええ、デートです。邪魔者はいません。私と、ウンディーネだけです」


『…………いく』


 デートという単語に反応したウンディーネは、弾む声を無理矢理抑えた感じで乗ってきました。


 ……でも、どうやら彼女が怒っている原因は、一緒にお出かけに行けていなかったことが原因ではないようです。


「ウンディーネ? 私はあなたが大好きですよ? ウンディーネは私のこと嫌いですか?」


『うちは、リーフィアが大好きだよ……。でも』


「でも?」


『リーフィアを好きで居ていいのは……うち、だけだもん』


「うん?」


 私は首を傾げた状態で止まりました。


 私を好きで居ていいのは、ウンディーネだけ?

 ……んん? どういうことでしょう?


「ウンディーネは私のことを好きなんですよね?」


『…………(こくん)』


「んで、私もウンディーネが大好きです」


『…………』


 言葉には出ていませんが、好きと言われて嬉しいという気持ちはめちゃくちゃ流れ込んできました。

 嫌がっているわけではないとわかり、一安心です。


 でも、それ以上に謎は深まりました。


 私のことを大好きと言ってくれるのだから、私に怒っているわけじゃない?

 だとしたら、この場に居る他の容疑者は────


「古谷さーん。やはりあなたが犯人でしたかー?」


「だから違うって!」


「えぇ? でも、真実はいつも一つだけと言いますし……」


「だったらその一つだけの真実を探してくれないかな!?」


「正直、面倒です」


「あんた本当に酷いな!」


『リーフィアは酷くないもん!』


「ごめんって! 本心で言ったんじゃないから!」


 古谷さんのツッコミに対して、過剰に反応するウンディーネ。

 これはやはり、二人の間に何かあったと考えるのが妥当でしょうか?


 でも、古谷さんも嘘を言っているわけじゃないというのは、話していてよくわかります。それでも疑っているのは、単に彼の反応が面白いからです。




 ──ウンディーネ、まさか古谷さんに嫉妬しているんでしょうか?

 私が何度も古谷さんを気にかけているせいで、ウンディーネが相手されなかったから怒っている。または、私が男性と話しているから、取られちゃうんではないかと心配して不機嫌になってしまっている。


 そう思えばウンディーネの態度に説明がつきますが、流石に自信過剰な考えですね。だって私は古谷さん以上にウンディーネと話していますし、そもそも私が古谷さんに振り返るわけありません。


 でも、もしそうだとしたら……めちゃくちゃ可愛い理由になりますよね。思わず抱きしめたくなるほどですが、今それをやったら考えるのを放棄してしまいそうです。


「うーーーーん?」


 結局私は何もわからず、こうなったらアカネさんに相談しようと、素直にそう決めたのでした。

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