決着は遥か遠く

 私とミリアさんの決闘は、すでに30分が経過していました。


 どちらも疲れていませんが、精神面での疲労は私の方が大きいです。


 本当にミリアさんは厄介な相手だと、嫌でも理解してしまいます。私はまだ自分の力を思うように制御出来ないのです。


 ──下手したら彼女を傷つけてしまう。

 そんな不安があるせいで、大きな攻撃を繰り出すようなことはしていません。


 そのせいでミリアさんはピンピンしています。


 対して彼女は、大きな魔法をバンバン撃ってきます。

 いい加減にしろとぶん殴ってしまいたいくらい、それはもう容赦無く。


 繰り出される魔法のどれもが、容易に大地を変形させてしまうほどの威力で、流石の私も魔法で防御力を強化しないとダメージを食らってしまいます。


 というか、わざわざ攻撃を受けるのも嫌なので、私は自身の速さをフル活用して逃げ続けているのですが……不思議と息は上がりません。


「うはははは! あははははっ!」


 …………息が上がっていないのは、ミリアさんも同じでしたね。


 絶え間なく魔力を消費しているというのに、全く疲れた様子はありません。

 あの人って魔力消費ないんです? それとも保持している魔力が無尽蔵だったり?


 真相がどうであれ、厄介なのには変わりありません。


 流石は『魔王』と言ったところでしょうか?

 言動は相変わらずとしても、戦闘力だけで言えば十分な驚異となり得ます。


「……はぁ……」


 これは、二週間でも安すぎましたかね……。


「ほらどうした! 逃げてばかりでは余に勝てないぞ!」


 ミリアさんは真正面からの対決を望んでいるのか、そのような挑発まで掛けてくる始末。私は再び、盛大な溜め息を吐くのでした。


「ミリアさんが嫌いなので、近寄りたくないのです」


「んなっ……!?」


 絶え間なく続いていた魔法が、ピタリと止まりました。

 『ガーン』というエフェクトが見えそうなほど驚愕しているミリアさんは、火球を振りかぶった体勢のまま動かなくなってしまいました。


 ……え、まさかの効果ありですか?


「勿論、嘘ですからね? そんな今すぐ泣き出しそうな顔をしないでください」


「そ、そうだよな! リーフィアが余のことを嫌いになるわけないもんな! ……はぁ、焦った……」


 ミリアさんは心の底から安堵したのか、戦闘中だというのに胸に手を抑えて大きく深呼吸をしていました。


 今後、不用意に「嫌い」と言わない方が良さそうですね。

 この程度でいちいち動揺されてしまうと、お子様の精神状態が不安です。


「ほら、いつまで呆けているつもりですか」


「わぷっ! この……やったな!」


 私が適当な風の弾丸を放つと、ミリアさんは再び動き出しました。そして私は背を向けて走ります。

 ──追いかけっこの再開です。


「本当に、どうしましょうかねぇ……」


 私にはあまり火力がありません。

 どちらかといえば、防御面にほとんどポイント? というものを振ってしまいました。なので攻撃手段としては『マジックウェポン』で武器生成し、斬りかかる。ミリアさんに通じる攻撃手段はそのくらいしかありません。


 魔法は必要最低限使えればいいかなぁ……と中途半端に振り分けたのが、こんなところで足を引っ張るとは思いませんでした。


 と、今更後悔しても遅いですね。


 今はこの状態をどう処理するか。それを考えなければいけません。


「……はぁ、荒事はやはり嫌いです」


 色々なことを考えなければいけません。

 それがとても面倒で……もう二度と決闘をしたくないです。


 ──そう言っていると近い未来に決闘が起こりそうなので口には出しません。

 なんでしたっけ? 口に出してしまうと『フラグ』というものが立ってしまうのですよね? 世の中には口に出した瞬間にフラグを回収する『フラグ建築士』という人もいるみたいで……いやぁ大変ですねぇ。


「仕方ありませんね」


「ん? 何か言ったか──っ!」


 逃げ続けるのも飽きました。

 なので──攻撃に転じます。


「怪我しても文句は言わないでくださいね」


 マジックウェポンで創り出したのは、弓。

 私は振り向きざまに矢をつがえて放ちます。


 狙いを定める必要はありません。

 私の矢は『必中』です。標的を思い浮かべて放てば絶対に当たる。


 ビュンッ、という風を切る音を立てながら、放たれた矢はミリアさんの足を確実に貫──



「きくかぁあああああ!!」



 ミリアさんは避けることをせず、むしろ私の矢を蹴って弾きました。

 予想していなかった対処方法に私も「えぇ……?」と呆れた声を発します。


「フハハハハハハハッ! 甘い、甘いぞリーフィア!」


 当の魔王様は高笑いしながら、火球を両手に猛スピードで接近して来ました。


「もうやだこのイノシシ……」


 本気で矢を引き絞ったわけではありませんが、それでも人を殺せる程度の威力ではありました。それを避けるどころか蹴り飛ばすって……これぞ『猪突猛進』って感じですね。


 ミリアさんは私が攻撃に転じたことで舞い上がったのが、魔法の威力がさらに上昇しました。

 一発一発が大きくて、着弾するたびに地面が揺れてバランスを崩しそうです。走って逃げるのも困難になり、真正面からぶつかる以外に選択肢は無くなりました。


「ああ、やばい。寝たい。今すぐ眠りたい……」


 体は疲れていません。

 ですが、イノシシの相手は精神的な面での消耗が激しいです。


 ミリアさんが変なミスをして勝手に自爆してくれないかなぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る