頑張りました
合図は成されました。
ミリアさんの攻撃手段をあまり把握していない私は、彼女が何をしてくるのかを警戒していました。
……と言っても、全ては『完全反応』頼りですけどね。
「…………? どうしたのですか?」
ミリアさんは動きません。
静かに目を閉じ、その場に立ち尽くしています。
「リーフィア。余は悔しかったのだ。今までアカネ以外には負けなしだった。負けたとしてもかなり良い勝負をしていたのだ」
「…………」
「……なのに、お前には手も足も出ない! それが悔しかった!」
「…………」
「だから今日、お前に勝つのだ!」
「…………スゥ……グゥ」
「寝ないでくれる!? 予想はしてたけど!」
「──んにゃ?」
話が長かったので、思わず寝てしまいました。
攻撃が来てもほとんどは通りませんし、ダメージを受ける攻撃が飛んで来ても完全反応で避けられます。防御面では最強だと思っているので、つい油断して戦闘中でも寝てしまうんですよねぇ。
え、いつも寝ているだろうって?
……そうとも言いますね。
「ミリアさんが何を考えて私を拉致したのかは知りませんが……こうなってしまった以上、本気で来てもらわないと困ります」
「…………本音は?」
「さっさと終わらせて眠りたいです」
こんな面倒なことに巻き込まれて、本当にだるいです。
決闘とかどうでも良いので、サクッと終わらせて部屋に戻り、満足するまで眠る。それが私の本音です。
まぁ、どうでも良いです。
大切なのはそこではありません。
すでに巻き込まれているのですから、ああだこうだ言っていても仕方ない。
なので私は──
「こちらも本気で行かせていただきます」
「…………本音は?」
「休日二週間が欲しいです」
緊急時は動く必要があると言っても、二週間の休日は大きいです。
ここで勝利しなかったら、きっと私は今日のことを後悔し続けるでしょう。
だから負けるわけにはいかないのです。
「さぁ、早く来てください。今日も遊んであげます」
私は片手を差し出し、挑発するようにクイックイッと折り曲げました。
「やったらぁ!」
──プツンと、何かが切れる音が聞こえたと思ったら、ミリアさんが激昂しながら突撃して来ました。
挑発に乗りやすいのは相変わらずです。
いつもと違うところは、ミリアさんの両手には紅蓮の炎が巻き起こっているところでしょうか。
二つの球体はとても小さなものですが、あの球体にはかなりの魔力が込められ、それが最小限に凝縮されています。魔法耐性がカンストしている私でも、当たればタダでは済まない。
「ちょっと、あれは反則ではないのですか?」
私は身を翻し、走りながらヴィエラさんに抗議します。
ルールその2。
命の危険があるような攻撃はしないこと。
あれは余裕で人が死にます。というか人が蒸発します。流石に反則でしょう。
「うーん、リーフィアなら死なないだろう?」
いや、そうですけど。
だからって殺傷能力半端ない攻撃を目の前でぶん回されるのは、御免被りたいのですが……。
「むしろこれくらいしないとリーフィアを倒せないからね。我慢してよ」
「この……ああ、もうっ……わかりましたよ……!」
要するに命の危険がある攻撃というのは『私基準』なのですね。
ほとんど何でもありってことじゃないですか。
ルールは二つじゃない。本当は一つだけでしたって……そんなのルールじゃないでしょう。
「あはははっ! ほらリーフィア! 逃げてばかりでは勝てないぞ!」
ミリアさんは高笑いしながら追いかけて来ます。
どうして素早さ特化の私と良い勝負をしているのか気になるところではありますが、それよりも調子に乗っているその姿が気に入りませんね。
「ちょっと黙っていただけます、か……!」
「──アダッ!?」
私は身を屈めながらくるりと反転し、ミリアさんの足元を払います。見事に突っかかったミリアさんは前のめりになって転倒。頭から地面に突き刺さりました。
結構えげつない音がしましたが、大丈夫でしょうか?
「な、何をする!」
あ、大丈夫っぽいですね。
「何をするって……うざいので転んでもらいまし──ぐふっ」
言葉の途中でぶん投げられた火の玉。それが私の顔面にヒットして大爆発を起こしました。
「…………風……」
ちょっと熱い程度ですが、なんか無性に腹が立ちました。
適当に練り上げた魔法で爆風を吹き飛ばし、視界をクリアにします。
「人の話を──」
「残念だが今は戦闘中だ!」
「っ、くっ……」
ミリアさんは座った状態から足を蹴り上げ、私の顔面を狙い打ちました。
間一髪のところで避けましたが、その次──ミリアさんは空中に飛び上がったまま宙で身を捻り、私の横腹を蹴り飛ばしました。
「──ったく、面倒です、ね!」
痛みはありませんが、衝撃は感じました。
壁に叩きつけられる前にどうにか態勢を立て直した私は、完全反応の示すまま壁を蹴って飛び上がります。
「まだまだぁ!」
ミリアさんは先程と同様の火の玉を連続して放出します。
魔法で防ぎ、身を捻ってかわし……最後は面倒になって殴りました。
「おまっ! これでも人は一人殺せる威力なんだぞ!?」
「そんな威力の魔法をばかすか撃たないでもらえますか?」
「これくらいしないとお前に傷を与えられない……っていうか傷すら与えられてなくないか!」
「気のせいなので、そのまま無駄な行動お願いしますねー」
「無駄って言った! 今無駄って言ったよな!?」
「気のせいだと思います。だから無駄な行動でさっさと消耗してください」
「また無駄って言ったなこのやろう!」
お口が悪いですねぇ……。
でも、こうして話をしている間も魔法は絶え間なく飛んで来ます。
…………そろそろ、ウザくなってきました。
「ったく、早く終わってくれませんかねぇ」
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