私には関係ありません
「…………魔女に選ばれた、ですか?」
「そうだ」
今私の脳内は、ただ一つの言葉が思い浮かんでいました。
──意味がわからない。
私が魔女に選ばれたのもそうですし、エルフが敵視するような魔女を集落に連れて行こうとするダインさんの思惑が読み取れません。
行くのは義務とも言っていました。魔女に選ばれた者は集落に行く義務がある?
何ですか、それ。
『リーフィア……』
それまで静かにこちらを見守っていたウンディーネが、私の側まで寄ってきて腕に抱きつきました。
ぎゅっと閉められる左腕からは、行かないでという意思が感じられます。
……私だって行きたくないです。
ですが、行かないと彼らは再びここに来るでしょう。
そして再び、ここを荒らすことを厭わないでしょう。
「選ばれたと、言いましたね? どうして私なのでしょうか?」
「それは知らない。ただ、次はこの人だと言われたのだ」
──誰に? とは問いません。
私はそれが『誰』を示すのか、すでに予想がついていました。
「……魔女が、私を選んだのですか?」
「そうだ」
「どうやって?」
「お前の知ることではない」
話したくないのか、それとも知らないのか。
ダインさんはこちらになんの情報も提示しないつもりなのでしょう。
その代わり、早くこちらに来いという思惑がひしひしと伝わってきます。
「さぁ、里に来てもらおう」
ダインさんは手を差し出し、私を勧誘しました。
「もし行かないと断ったら?」
「我々は手段を選ばない」
それは明らかな敵意でした。
「では、決まりです」
私は立ち上がり、ダインさんの手を──払いました。
「帰ってください」
「…………なぜ、断る」
「なぜ断る。ですって?」
それすらも理解出来ないなんて……呆れてものも言えませんね。
ですが、このまま何も言わずに突っぱねても、変に反感を買ってしまう恐れがあります。
「あなたは言いました。我々は手段を選ばない、と……そんな危険な思考を持つ人に従うと思っているのなら、一度出直して来てくださ────あ、やっぱり二度と来ないでください」
こうして何度もエルフと顔を合わせると思うと、軽い頭痛がしてきました。
私の精神衛生上かなり危険なので、エルフの方々には切にお願いしたいところです。
…………なのですが。
「そういう訳にはいかない」
デスヨネー。
まぁ、わかっていたことです。
その程度のことで引き下がってくれるのであれば、もっと早くから帰っていたでしょうから。
「私はエルフですが、この世界のエルフに興味はありません。魔女の座は降りますから、どうぞご自由に次の魔女を探してください」
「それは不可能だ」
「──あ?」
「魔女は一度決まってしまえば、それを覆すことは出来ない。選ばれた魔女が死ぬまで、それは出来ないのだ」
魔女って面倒くさいですね。
だからって「じゃあ仕方ないですね」とはなりませんが、魔女が死ぬまで魔女の交代は出来ない、ですか……。
どうしてとは聞きません。エルフにも何か決まりのようなものがあるのでしょう。
彼らは言っていることが理解不能ですが、一応何かを目的として動いているというのはわかります。
でも、私の考えは変わりません。
「おとなしく、さっさと、早急に、この場から去りなさい」
「魔女を連れ帰らなければ、エルフは──」
「私には関係のないことです。お帰りください」
これ以上の話は無駄だと、私は口調をきつくさせてピシャリと言い放ちました。
そこで初めてダインさんの表情が変わりました。
気配だけではなく、表情や目つきまで厳しいものとなり、他のエルフが出しているのと同じ雰囲気を纏い始めました。
「魔女は連れ帰らなければならない。何としてでも、だ」
「あ、そう……」
エルフは魔女である私を連れ帰りたい。
私は行きたくない。
このままでは平行線です。
だからってこちらが折れるわけにはいきません。
私にはウンディーネが居ます。ミリアさんが居ます。ヴィエラさんが居ます。アカネさんが居ます。ついでにディアスさんも居ます。
ダインさんの手を取って里に行くということは、私の仲間を見捨てるということになります。
このままダインさんに連れられ、エルフのことについて調べるのも良いでしょう。
私とヴィエラさんは共同で『エルフの秘術』を調査していました。ですが、エルフは秘匿情報が多すぎて、あまり良い結果は出ていません。
ダインさんが住むのはエルフの総本山。
そこで様々な資料を漁れば、良い情報は手に入ると思います。
でもそれをしてしまったら、ウンディーネとミリアさんが泣きます。
再び帰ると決めていても、一度彼女達から離れるのは『裏切り』となる。
それは出来ません。
仲間は私のことを信用してくれています。
当然、私だって同じこと……。
彼女達のために情報を探ろうと里に行ってしまうと、逆に彼女達を悲しませてしまう。
それは避けるべきです。
「……どうしても、我らと共に来ないと言うのだな?」
「ええ、何度もそう言っているはずです」
「…………」
ダインさんは俯き、静かに「そう、か……」と呟きました。
急激に変化していく彼の雰囲気に、私やウンディーネだけではなく、彼の味方であるはずのエルフ達ですら警戒したように体を強張らせました。
「我らの意思に背く魔女は、必要ない」
ダインさんから感じられる魔力量が、異常なほど膨れ上がりました。
ゆっくりと彼の腕は上げられ────
「ここで死んでもらう」
次の瞬間、私に鋭利な狂刃が襲い掛かったのでした。
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