人質です

 エルフの用件は『魔王城に囚われている人質の解放』でした。

 しかし、彼らの用件はそれだけではないと判断します。


 本当に人質だけを解放して欲しいのなら、私にではなく直接ミリアさんに訴えた方が良いでしょう。


 ……でもそれをしなかった。

 それはなぜか? 単に私に用があるからです。


 私が捕らえたエルフ達も、どうやら私に用があって来たようですし、ヴィエラさんの様子を見てもそれは明白。未だに檻の中で彼らは、私に会わせろと訴えているのでしょう。


 でもまぁ、とりあえず解放だけはしてあげましょうかね。

 魔王城でずっと面倒を見るのも迷惑でしょうし、解放してあげないと目の前のエルフ達が話をしようとしないでしょうから。


「ウンディーネ。ミリアさん達にエルフの解放を伝えてください」


『……でも、良いの? その人達の仲間なんでしょう? またリーフィアに何かするんじゃ……』


「大丈夫でしょう。彼らは用件があって私の元へやって来た。ならば、あまり強引な手を使うことはしないと思います。…………ですよね?」


 私がエルフ達に問いかけると、彼らは「ふんっ!」とだけ言ってそっぽを向きました。

 肯定はしなかったけれど、否定もしなかった。曖昧な回答ですが、まぁ今はこれで良いとしましょう。


『私は……この人達も魔王城に連れて行った方が良いと思う。だって、リーフィアに迷惑をかけたんだよ? ……許せないよ』


「ウンディーネ……」


 ウンディーネからは確かな『怒り』を感じました。

 ことごとく私の邪魔をしてくるエルフに、彼女も自分のことのように怒ってくれているのでしょう。


 私も彼らを許せない気持ちはあります。

 ですが、今は彼女の気持ちがあるだけで十分です。


「怒ってくれてありがとうございます。ですが私は大丈夫です。……さ、行ってください」


『…………わかった。気を付けてね、リーフィア』


「ええ、勿論です」


 ウンディーネが泉から姿を消しました。

 彼女の魔力は魔王城の方へと飛んでいきます。

 言伝は任せて問題ないでしょう。


「さて……」


 私は気持ちを切り替え、再びエルフに視線を向けました。


「これで解放は叶えて差し上げました。……そろそろ本当の目的を話していただけますか?」


「これで終わりだと言ったら、どうするのだ」


「私に迷惑を掛けた代償として、もう一本頂きます」


 その『もう一本』の意味を理解したエルフは、苦渋に顔を歪めます。

 そして、悔しげに一言だけを発します。


「魔女が……!」


 ……それは、久しぶりに聞く単語でした。


「魔女、ですか。やはりエルフは私を魔女と、そう言うのですね」


 私は再び魔女と罵られた(?)ことに怒るのではなく、やはりこうなってしまったかと内心そう思うだけでした。

 これを言われることは若干予想していました。そして、それと同時に面倒なことになるという予想が当たってしまったと、深い溜め息を吐くのでした。


「ちなみに言っておきますが、私は魔女ではありません。身に覚えのないことで憎まれても、私はどうにも出来ませんよ?」


「魔女は嘘つきだ。我々を謀ろうとしても無駄だ!」


 …………埒が明かないとはこのことですね。

 仕方ないと、私はウンディーネに念話を飛ばします。


『ウンディーネ。手間を掛けますが、解放したエルフをこちらに持って来てください。彼らも人質にします』


『わかった。こっちは今話を付けたところだから、すぐに持っていくね』


 流石はウンディーネ。仕事が早いです。

 私はそのことに感謝しつつ『頼みました』と伝えて念話を切ります。


「さて、もうすぐであなた方のお仲間もここに来るはずです」


 それを言うと、エルフは面白い反応をしてくれました。


「話が違うぞ!」

「やはり騙したのか!」

「卑怯者め!」


 と、それは様々です。


 よくも、ここまで馬鹿に育ったなと私は呆れました。

 やはり引き篭もるのは良くないですね。性格が捻じ曲がってしまいます。

 ……いや、別にニートの方々をバカにしているわけではありませんよ?


「話が違うは、こちらのセリフです。人質を解放するという条件で私は話の場を作ってあげました。ですが、それを放棄したのは他ならぬあなた方です。そんな人にとやかく言われる筋合いはありません」


 エルフは「まず」と言いました。

 それはそれだけが目的ではなく、他にも用件があることを指しています。


 だから私は温情を掛けてあげた。

 それなのに裏切られたのです。

 解放した者をどうしようが、私の勝手でしょう?


 それを言うと、エルフは黙ってしまいました。

 しかし、私を敵視する視線は相変わらず続いたままです。


 いちいちそれに構っている暇はありません。

 私はそれを無視して、ウンディーネの帰りを待ちました。

 そして数十秒経った後、仲良く気絶したエルフ達を連れて、ウンディーネが帰って来ました。


『ごめんリーフィア……待った?』


「いいえ。正直もっと時間が掛かるかと思っていました。仕事が早くて助かります」


 私は感謝の印に頭をそっと撫でてあげます。

 ふにゃりと嬉しそうに顔を崩し、ウンディーネは『えへへ……』と笑いました。


 うむ、可愛い。


『それでリーフィア……これからどうするの?』


「別に、どうもしませんよ」


 私はウンディーネが運んで来たエルフを縄で縛り、全て纏めてしまいました。


『えっ……?』


 ウンディーネは、それじゃあこの人達はどうするの? と言いたげでした。


「こちらが何をしても、彼らは何も話すつもりがないようです。だったら、話したくなるまで待つだけ。そうでしょう?」


『そう、だけど……』


 ウンディーネは顔に出しませんが、嫌そうでした。

 おそらく、私がずっと睨まれていることが気に食わないのでしょう。

 そんな彼女に私は「問題ありませんよ」と微笑みます。


「彼らの視線は気になりません」


『そうなの?』


「ええ、だって……」


 私はとある場所を指差します。

 そこには愛しの布団ちゃんがポツリとありました。


「寝てしまえば視線なんて気にならないでしょう?」


『ああ、うん……そうだね』


「…………?」


 なぜかウンディーネから向けられる視線が優しいものとなりました。

 私はその意味がわからず、首を傾げるのでした。

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