やり過ぎちゃいました

「はぁ、はぁ……」


「はぁ……はぁ、げほっ……!」


『もう……だめぇ……』


 空が赤く染まった夕刻時。

 私達は、フィールドに横たわっていました。


 もう身体中が疲れてしまい、動くことすらままなりません。


 試合の勝敗は、9対7で私の勝ち。

 でも、ここまで接戦になるとは予想していませんでした。

 途中から勝ちにこだわりすぎて容赦無く動き回ってしまい、もう疲労困憊です。


「まさか、ここまで疲れるとは……思いませんでした……」


「……余もだ。くそっ……明日は筋肉痛だ……」


「あははっ……ざまぁ、ないですねぇ……」


 と言いつつ、私も明日は危ないかもしれません。

 丈夫な体に生まれ変わったとしても、ここまで動いたことはありませんでした。


 休みはあと一週間残っています。

 明日からは本当に何があっても動かないと、ここに誓いましょう。


「……にしても……」


 私は首だけを動かし、フィールドを眺めます。

 庭園だったその場所は各所が穴だらけになり、植物は全てが焼け焦げ、とにかく酷い有様でした。


 サッカーの試合は思った以上に白熱し、気が付いた時にはこうなっていました。

 これはやっちまったなと思いますが、これをやったのはほぼミリアさんです。私の妨害に夢中になり、魔眼でドッカンドッカンやるもんですから、私も対処に困りました。

 改めて魔王に相応しい能力を持っているのだなと、私は再度ミリアさんのことを認めました。


 ……って、そういう試合が終わった後、対戦相手を褒める感じの『あれ』はどうでも良いのですよ。


 今考えなければいけないのは、この悲惨な現場をどうするか。です。


 元に戻す術がないわけではありません。

 ただちょっとだけ面倒で、大きく魔力を消費することになるので疲れますが……自分のやらかしてしまったことには責任を持たないとですよね。


「ウンディーネ……少し、力を貸してください」


 私は周囲の魔力を集め、練り上げます。

 私の持つ技能『森の守護者』『自然の担い手』の二つを組み合わせ、僅かに残っている植物の生命反応を活性化させました。そして『回復魔法』でそれを最大まで引き上げ、ウンディーネが持つ水の力を『精霊の加護』で増長させ、大自然に助力を求めます。


「はぁ……『治ってください』」


 練り上げた魔力は形を成し、私はそれを天高く打ち上げます。

 それが十分な高度に到達した時、自然と弾け飛び、いくつもの雨となって大地に降り注ぎました。


 その雨に打たれた大地は息づき、植物が芽吹きました。

 それは元あった庭園よりも自然が芽生え、庭園という枠組みを逸脱した場所となりました。


「ちょっと……やり過ぎましたかね」


 四つの技能を組み合わせるのは初めてのことだったので、力加減をミスってしまいました。

 庭師の方には苦労を掛けますが、次に来た時、庭の全てが焦土に変わっていたよりかは遥かにマシでしょう。


「よい、しょっ……と……」


 私は重い体をどうにか動かし、立ち上がります。


「そろそろ夕食です。帰りますよ」


『……はぁい……』


 ウンディーネはふらふらと浮遊しながら、私の元まで寄って来ました。この子もミリアさんと頑張って試合をしていたので、そのお礼にご褒美を与えなければですね。


「ウンディーネ、手を……」


 私は残り僅かとなった魔力を、ウンディーネに流し込みます。

 精霊は魔力を糧とします。私の魔力は特に美味しいらしいですから、ご褒美には十分でしょう。


『リーフィア悪いよ……! ただでさえ疲れているのに……』


 ウンディーネは私のことを気遣い、本当は欲しいであろう私の魔力を拒絶します。


「……いいのです。ミリアさんの遊び相手は疲れたでしょう? だから、そのお礼として受け取ってください」


『でも……』


「それに、まだ私の抱き枕となる罰は、まだ一週間残っています。……正直、もう体を維持させるのは厳しいでしょう? 勝手に帰るのは許しませんよ」


 ウンディーネは私の迷惑をかけないようにと、ミリアさんと違ってあまり魔法を使用していませんでした。

 ……しかし、それでも白熱した戦いが続けば、その制御は甘くなるものです。最後の方には容赦無く魔法を使い、私を苦しめました。


『……ありがとう、リーフィア』


「それは私のセリフですよ。久々に楽しい思いをしました。ありがとうございます」


 ウンディーネは私の手をぎゅっと強く握り返し、微笑みます。繋がっている彼女の思考からは、嬉しいという気持ちが溢れ出ていました。


 ……なんか、こっちが恥ずかしくなりますね。


「…………おい、余を無視してイチャイチャしているんじゃない」


「……あ、居たんですね」


「本当に忘れられてた!? もう、知らぬ!」


 ミリアさんは頬をぷくーっと膨らませ、そっぽを向いてしまいました。

 ……あらら、拗ねてしまいましたか。


「冗談ですって。……ほら、拗ねていないで早く中に戻りましょう?」


「ふんっ……!」


「おぶってあげますから」


「乗る!」


 ちょろいですね。


「……何か言ったか?」


 ジトッと見つめてくるミリアさんから、私は視線を逸らします。


「危ない危ない。ちょろいと思っていただなんて言ったら、ミリアさんがうるさくなりますからね」


「聞こえてるのだが!?」


 おっと、つい本音が……。


「お前は余をいじめるのが趣味か! そうなのだな!?」


「いえ、別にそういうわけではありませんよ? ミリアさんの反応が可愛いので、いじめたくなってしまうだけです」


 好きな子をいじめちゃうのと同じ感覚でしょうか。


「ふ、ふんっ! そう言って余の機嫌を取ろうとしても無駄だぞ! 余は本当に怒ったからな! もう遊んでやらん!」


「あら、それは残念です。折角今日は楽しかったのに、もうミリアさんと遊べないだなんて……。ウンディーネも悲しいですよね?」


『え……? ……う、うん。もう遊べないのは悲しいよ……』


「ぐ、ぬ……知らぬ!」


 ウンディーネが悲しそうにそう言い、もう遊べないと想像したのか泣きそうな顔になりました。

 それが効果あったのでしょう。ミリアさんが少したじろぎました。


「これなら、定期的に遊んでも良いと思ったのですが……ミリアさんがそう言うのであれば、残念ですがウンディーネと二人だけで遊ぶことにしましょう」


「なっ!?」


「ウンディーネ。次は何をして遊びます?」


『えっと……またボールで遊びたいな、って……』


「そうですかそうですか。では、次はボールを使った他の遊びをしましょう。きっと楽しめますよ」


『ほんとう……?』


「ええ、本当です。私は、嘘だけは言いませんから(チラッ)」


『やった……! 嬉しい、リーフィア!(チラッ)』


 横目に見ると、ミリアさんが目に大量の涙を溜めながら、私達の会話を聞いていました。


「ミリアさんも、ほら……おいで?」


「──っ、うむ!」


 私は両手を広げ、ミリアさんを歓迎します。

 すると、ミリアさんはパァッと表情を明るくさせ、私の胸に飛び込んで来ました。


 はい、確保〜。

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