サッカーと書いて異次元です

「よし、攻めるぞウンデ──『ヒュン』──ネ?」


 ミリアさんがウンディーネにボールをパスするのをカットし、一気に相手ゴールまでドリブル。シュートを決めました。


 一瞬の出来事に、二人は呆然としています。


「どうしました? で、と言ったはずですが?」


 お二人はその程度ですか? とわかりやすく挑発します。


「ぐぬぬ……! ウンディーネ!」


『うんっ!』


 再びあちらからの始まりです。


「とりゃ!」


 ミリアさんは先程よりも強く、ボールを蹴り上げました。

 ウンディーネならば取ってくれると信じてのパスなのでしょうけれど、甘いです。


 それよりも早く動き、先程と同じようにボールを奪います。


 そして一気に駆け上がり──


「──っ、くっ!」


 不意に感じた気配。

 咄嗟にボールを後ろに蹴り飛ばし、自らも下がります。


 その判断は間違っていませんでした。

 次の瞬間、私がいた場所には巨大な水球が、ドゴォ! と落下しました。あのまま突き進んでいたら、潰されていました。


 このような水を一瞬で作り出し、正確に私を狙って降り下ろす者は、私の知る限り一人しかいません。


「ウンディーネ」


『こっちも本気なんだからね……!』


「……ははっ、そう、ですね。ああ、そうでした」


 ここは異世界。

 魔法が一般化された世界です。

 それは勿論、遊びにも適用されるわけで…………。


「面白い。せいぜい足掻いてください……!」


 この瞬間からサッカーは、異次元サッカーへと進化を遂げたのでした。


 つまり、なんでもありです。


『ミリアちゃん!』


「任せろ!」


 ゴールへと駆ける私の前に、ミリアさんが立ちはだかります。

 そして、彼女の瞳が怪しく輝き始めました。


「お得意の魔眼ですか? 残念ながら私にそれは……」


「ふっふっふっ、くらえ!」


「っ、なにっ……!」


 大地が一瞬蠢いたかと思いきや、私の足場がつんざくような音を立てて破裂しました。

 急な事態に私は空中で身を捻り、ボールを…………って、無い?


「……そこか」


 見ると、ウンディーネがボールを一生懸命蹴りながら、私のゴールまで走っていました。


「させません!」


「それはこちらの台詞だ!」


「くっ──チィッ!」


 ミリアさんが無詠唱で爆炎を発生させます。それはフィールドを覆い尽くすほど強大なものでした。

 それは私にダメージを与えるのが目的ではありません。ただの目眩しに利用したのでしょう。


 空中にいたせいで十分に対処出来なかった私は、その衝撃にバランスを崩して吹き飛びます。


『いっけぇええええ!』


「っ、しまっ……!」


 ウンディーネの放ったシュートは、真っ直ぐにゴールネットへと突き刺さりました。


『やったよ、ミリアちゃん!』


「よくやったぞ、ウンディーネ!」


 一点を巻き返した二人は喜び、ハイタッチを交わします。


「…………ふっ、ふふっ、うふふっ……」


 私はボールを回収し、薄く笑いました。

 この時、私の中の何かが決壊しました。


 魔法は使わないと決めていましたが、こうなったらやけです。


「どうなっても──しりませんからね」


 私は一人なので、先行は出来ません、

 なので、またミリアさん達のパスから始まります。


「ウンディーネ──ぐぁぁ!」


『うん、任せ──きゃぁ!』


 二人の間に、突如として風の塊が降りました。

 それは両方を吹き飛ばし、ボールは宙を舞い、私はそれを胸で受け止めます。


「…………ダウンバースト。そのお味はいかがです?」


 それは下降気流というものであり、地面に衝突した風は四方へと飛び散り、時には災害級の被害を生み出すほどの『自然の力』です。


 私には『自然の担い手』という技能があります。自然に生きるもの全てを我が物として操れる技能であり、それは『天候』も同じ部類に入ります。勿論、これもレベルカンストです。私くらいになれば天候の全てをを操る程度、造作もありません。


「う、ぐっ……!」


『動け、ない……!』


 二人は、今も続く風の圧力に地面を這いつくばっています。

 いくら世に恐怖を知らしめる魔王でも、遥か昔に誕生した上位精霊でも、偉大なる自然の前には無力。


 先程良いようにやられた仕返しです。

 私はあえてゆっくりとゴールまで歩き、見せつけるようにシュートを放ちました。


「これで、再び一点差です」


 私は自然を操る手を休めません。

 このまま……一方的に嬲って差し上げます。


「このままでは終わらせん!」


 ミリアさんは力づくで風の拘束から抵抗し、何処からともなく黒板のような板を取り出し……って、え? そんなの何処に隠し持っていたのです?


「喰らえ!」


 私は嫌な予感を察して、ミリアさんの暴挙を止めようと動きます。


「──っ、やめ!」


「もう遅いわ!」


 ミリアさんは爪を立て、思いっきりその板を引っ掻きました。

 キィイインという金切り音が辺り一面に響き、私は思わず耳を塞ぎます。


「ぎゃあああああ!?!!?」


 間近でそれを聞いたミリアさんは、大声で叫びながらその場を転がります。


「馬鹿なのですか? 馬鹿なのですね!?」


「ふっふっふっ……だが、これで風は止んだ!」


「なっ……!?」


 耳を塞ぐのに集中しすぎて、天候操作を怠りました。

 ミリアさんはもう十分に動けていますし──っ、ウンディーネは!


『シューーートぉ!』


 我に返った時、もうそれは遅すぎました。


『やったよミリアちゃん!』


「よくやった! いえーい、だ!」


『……いえーーーい……!』


 再び並んだ点数。


 まさかこんな馬鹿みたいな作戦で、私の『自然の担い手』が敗れるとは……。


「こうなったら、とことんやってやります……!」


 異次元サッカーは、まだ始まったばかりです。

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