勇者も騒々しかったです

 こんにちは、リーフィアです。


 ひょんなことからスパイの真似事をすることになり、特別怪しまれることなく、数日が経過しました。

 ミリアさん達への報告は全て、ウンディーネに任せています。


 と言っても、今のところ役に立つ情報は入手していません。強いて言うならば、今の王様は女好きだということくらいでしょうか。


 何でその程度の情報量なのかって?

 だって、あの謁見の日以降、貸し出された部屋から一歩も外に出ていませんからね。

 情報収集も何もありません。


 ウンディーネの報告によると、ミリアさんはとても文句を言いたげにしていたそうです。

 ですが、それは出来ません。人の国に逃げ込んだ者勝ちってことです。ざまぁ。


 ……と言いつつ、この生活に飽きてきました。


 出される料理は美味しいです。

 朝昼晩お昼寝が出来ます。

 ですが、ベッドがダメです。

 魔王城のベッドと比べると、雲泥の差があります。

 あのふかふかに慣れてしまった私は、もうあれ無しでは生きられない体になっていました。


 眠れはしますが、満足は出来ません。


 なので、そろそろ動き出そうかと思っていた時、部屋の扉が叩かれました。


「リフィさん? 起きてるかい?」


 この声は……古谷さんですね。剣の勇者です。

 こんな朝から何の用でしょうか?


「もうお昼だよ。そろそろ起きた方がいい」


 おっと、朝ではないようですね。

 気分は朝ですけど、そうですか。もうお昼ですか。


 お休みなさい。


「って、二度目しようとしているでしょ!? ダメだよ、エルフの秘術を探すんでしょう?」


 ドンドンッ、と扉を叩かれました。

 うーん、デジャヴを感じます。


「扉は壊さないでくださいねー」


「いや、壊さないよ!? というか、起きていたなら返事してくれ!」


 めんどくさい。

 とは流石に言えず、私はのそのそとベッドの上を移動しました。

 鍵を開けると、困り顔の古谷さんが立っていました。


「ああ、良かった。起きてくれ────な、ななっ!」


 古谷さんは徐々に視線を下げて行き、顔を真っ赤にして狼狽しました。


 ──あ、そういえば下着のままでした。


「……いやー、えっちー」


「そんな棒読みで言われても困るよ! ほ、ほら! 早く着替えてくれ!」


 バンッ! と勢いよく扉を閉められてしまいました。

 反応が遅れていたら髪を挟んでしまうところでしたよ。危ないですね。


 言われた通り適当な服を掴み、それに着替えます。

 堅っ苦しいのは嫌いなので、首元が空いている動きやすいドレスが好みです。


「はい、お待たせしました」


 私は部屋の外に出ます。

 すると、古谷さんは私を見て呆けたような顔をしました。

 貴族とか王族とかのマナーは知らないので、何かおかしなところでもあるのでしょうか?


 それを聞いてみると、慌てて首を振られました。


「い、いや! その、やっぱりリフィさんって……綺麗だな、って」


「そうですか。ありがとうございます」


 子供に何を言われても、やはりトキメキませんね。

 これならヴィエラさんに褒められた方がいいかもしれません。

 あの人は女性の中でも、イケメンです。……後でお礼としてイケメンキャラを演じて貰いましょうかね。


「では、行きましょうか」


「え、行くって何処に?」


「何処って……決まっているでしょう? ここの本を読みに行きます」




          ◆◇◆




 王城の図書館は、それはそれは壮大でした。

 何冊あるんだと呆れるほどの本の数。これの中から有益な情報を探せと? ……いやいや、面倒くさ。


 つい着いた瞬間に、回れ右をしてしまいそうになりました。

 いえ、実際にやりました。

 古谷さんに連れ戻されましたが、私のやる気はごっそりと削られました。


 そして現在、私は沢山の本に囲まれていました。

 適当なテーブルを探し、古谷さんに適当な本を何冊か持って来て貰ったら、いつの間にか山のように本が積まれていました。

 もうすでに三時間が経過していますが、全く減る気配がしません。

 ……私、結構速読な方だと思ったんですけどね。自信をなくします。


 それでも古谷さんの三倍の速度で読み進めています。

 彼は難しい単語に頭を抱え、必死に理解しようとしていました。

 根は真面目なのでしょうね。でも、効率は良くありません。


「ふぅ……」


 これで50冊目。

 私は分厚い本を閉じ、一呼吸つきます。


「一度、休憩しましょうか。古谷さんもパンクしてしまう前に、落ち着いた方がいいですよ」


「……あ、ああ……そうだね。助かるよ」


 古谷さんは、紅茶を貰ってくると言って、図書館から出て行きました。

 周りには誰も居ません。


『…………ウンディーネ。居るのでしょう?』


 私は念話を使い、暇そうに待機していたであろうウンディーネに話しかけます。


『……うん、どうしたの?』


を調べて来てください。この位置、ここは見張りから死角になります。本を見るのなら、ここが安全でしょう』


 私は見取り図を取り出し、とある場所に赤丸を付けました。

 見張りは私に勇者がついているから安全だと、入口から動きません。

 閲覧を制限されている場所に行き放題です。私ではなく、ウンディーネが。


『何かあった時は、念話のみでお願いします。重要な情報があった場合は、メモをお願いします』


『わかった。すぐに始めるね……!』


 ウンディーネは元気よく、奥の方へと飛んで行きました。

 すぐに私の目から見えないところに行きましたが、あの子ならば下手なことはしないでしょう。


「お待たせ──って、どうかしたかい?」


 ちょうどいいタイミングで、古谷さんが帰ってきました。

 どうやらボーッとしていた私が気になったようです。怪しまれないよう、適当に誤魔化します。


「……いえ、少し疲れたなーって思っていただけです」


「仕方ないよ……こんな量だからね。この短時間でここまで読み進めているリフィさんが凄いよ」


「そうですか?」


「そうだよ。正直、凄いと思うよ」


「はぁ……」


 それはあなたが、この世界を理解していなさすぎるだけなのでは?

 そう思いましたが、口には出しませんでした。

 むしろ、ここまで順応している私の方がおかしいのでしょう。


 私は地球での生活に疲れ果てていたので、異世界に来れて喜びました。だからすぐに対応出来ました。

 ですが、古谷さん達は召喚されました。何の事前情報もなく、いきなり異世界です。

 普通は混乱します。


「あなたは、頑張っている方だと思いますよ」


 だから、私は素直な感想を述べました。

 古谷さんは数秒呆けた顔を晒し、嬉しそうに笑いました。


「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ」

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