王様と話しました

 ボルゴース王国。


 国王ミスロウト・ボルゴースの治める国は、周辺国家の中では最も政治力の強い国です。

 それは勇者を囲っているからという理由もありますが、元々の軍事力も誇るべき点でしょう。

 魔王軍に対して、帝国と一二を争う軍事力でらしく、警戒するに値する国です。


 しかし、それは今の国王が何かをした訳ではありません。


 誇られるべきなのは、前国王ベイル・ボルゴース。

 その人の知恵と戦略によって、魔王軍は苦しい経験をしたと、ヴィエラさんが言っていた気がします。眠すぎて半分以上聞き逃していたので、あまり覚えていませんが……まぁ、そんな感じでした。


 ですが、その人はもうこの世にいません。

 貴族界にある、毒殺や陰謀による謎の死を遂げたのではなく、普通に寿命で死んでいるとか。




 とまぁ、私が知っている情報はこんな感じです。

 全て魔王軍側と古谷さんから聞いた程度の情報ですが、逆に森の引きこもりであるエルフが博識というのも、人によってはおかしいと思われるかもしれません。

 なら、この程度の知識量に抑えておいて問題ないですね。


 そして、私はようやく王様との謁見を叶えようとしていました。


 目の前にあるのは、身長の何倍あるんだと思うほどの大きな扉。謁見の間に通じる扉です。


「……緊張しているかい?」


「いえ、別に」


「そうか、リフィさんは強いんだな。俺は何度もここに来ているけど、やっぱり慣れないよ」


「そうですか」


 普通の人間がこの光景を見ると、そりゃあ緊張するでしょうね。

 私は基本的に無関心なので、どうでもいいとしか思いません。


「っと、開くようだよ」


 見ると、大きな扉が重々しく開き始めていました。


 徐々に中が顕になり、そこには少数の騎士が並んでいました。

 奥で無駄に豪華な椅子に座っているのが、国王ミスロウト・ボルゴースでしょう。

 そのすぐ横には、馬鹿みたいに重装甲な鎧を着ている騎士のような人が立っていました。夏場になると暑そうですね。日差しで熱されれば、焼肉が出来そうです。……じゅるり。


 古谷さんは一瞬息を飲み、しかしすぐに歩き出しました。

 私はその後ろに付いていきます。怪しまれないよう、静かに……。


「よくぞ帰還した、剣の勇者よ。……そちらが、報告にあった協力者か」


「お初にお目にかかります、人の王よ。リフィと申します」


「うむ、よく来てくれた。……ふむ、可憐なエルフだ。我の愛人にならぬか?」


 この瞬間、弓を生成して矢を射らなかった私を褒めてください。

 なんで完全反射が発動しかけるのですか。


 笑顔を崩さず、私は平常心を保ちます。


「お戯れを。私はエルフ。外界のことなど知らぬ田舎者です。陛下の愛人に相応しくないでしょう。嬉しいお誘いですが、お断りさせて頂きます」


「……そうか。残念だ」


 なんで本気で残念がっているのですか。

 全身に悪寒が……やばいです。気持ち悪いです。このエロ親父が。


 これもミリアさんに報告しておきましょう。

 優先して殲滅するべき国であることを。


「して、全ては報告にあった通りで違いないか?」


「はい、王様。俺が調べたところ、エルフの里は滅びていました。ただ一人、この人を除いて。秘術に関する書類どころか、全てが焼き尽くされていました」


「……ふむ。それで協力者リフィよ」


「はい、何でしょうか?」


「協力するにあたって、お前の願いを一つ叶えてやろう。それくらいの褒美は必要であろう?」


 これは嬉しい。無理して友好関係を築かなくても、こうして協力する代わりに何かを叶えてくれる。

 では、当初の予定だったことを願いましょう。

 すぐに言ってしまっては、最初から企んでいたと思われてしまうかもしれません。なので、わざと考え込む素振りを見せます。


「……うーん、そうですね…………本ですかね」


「ほう? 本とな?」


「ええ、私は本を読むのが好きなので、この王城にある本の、観覧許可を頂きたいと思います」


「ふむ……この王城にある本、か……」


 その問いは流石に難色を示す王様。


「この国にある図書館ではダメなのか? それなりに大きいが?」


「確かに、そこでも十分な知識を得られるでしょう。ですが、私はエルフの秘術に関する知識が欲しいのです。情報は沢山あった方がいい。更に深い知識を得るには、それこそ誰もが見れるような場所では足りないです」


 それらしいことを言っていますが、要するにいいからお前の国の情報全てを見せろ。ということです。


「王様、俺は許可していいと思います」


 そこで予想外の助っ人が現れました。

 古谷さんです。


「彼女は協力者です。そして、唯一秘術に近い存在。情報を提示することを躊躇っていては、それについての理解が遅くなるかもしれません。それに、どんな情報から秘術に繋がるかもわかりません」


「だが、我が国の機密事項を開示するのは危険だ。それが例え協力者だとしてもだ」


「彼女は大丈夫です。裏切るような人ではないと思います。それでも信じられないのであれば、閲覧可能な区間を制限してはどうですか?」


 古谷さんと王様の視線が交差します。

 どちらも真剣そのものです。


「…………わかった」


 長い沈黙の末、折れたのは王様の方だった。


「ただし、条件がある」


「はい、何でしょう」


「勇者が言ったように閲覧可能な区間を制限させてもらう。それと、夜間の閲覧は遠慮してもらう」


「……わかりました。無理な願いを聞いてくださり、感謝します」


 私は深々と頭を下げます。

 その口元の両端が吊り上りそうなのを見られないよう、深く礼をします。


 王様はすでに、大きな過ちを一つだけ犯してしまいました。


 中に入ってしまえさえすれば、やり様はいくらでもあります。

 夜間の閲覧に関しては、どうでもいいです。どうせ夜になる前に寝ます。


 ですが、私の側に見張りを付けなかったのは、後々後悔することになるでしょう。

 ……いや、後悔もしないでしょう。だってそれに気付けないのであれば、後悔も何もないのですから。


 私、ちゃんとスパイしていますね。偉いです。

 これが終わったら、一生働かなくても許されますね、これ。


 こうして、謁見は終了しました。

 明日から……は面倒なので、一週間後から動き始めましょう。


 世間では一週間後から本気出すという言葉がありますからね。

 やってやりますよ。本気で寝てやります。

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