エルフの里に行きます

 出会いというのは突然です。


 何かに導かれるようにそれらは引かれ合い、そして出会う。


 これは運命とも呼べるのでしょうか。


 ……ならば、そんな運命はただの迷惑です。

 だって、私はこんな出会いを求めていないのですから。


「…………それで、何の用でしょうか?」


 私は不機嫌なのを隠さずに、目の前に立つ人物に問いかけました。

 その人物はエルフでした。


 ……そして、見覚えもあります。


 少し前に私のことを魔女と言った、エルフ達の一人です。


「まずは謝罪をしよう。先日は我らの誤解により、迷惑をかけて申し訳なかった」


「用件はそれだけですか? ……では、おやすみなさい」


「──ちょ、待ってくれ!」


「…………なんです」


 正直、私はこの人と話したくありません。

 話を聞いてやれ?


 そんなの、どうでもいいです。


 だって、先に話を聞かなかったのは、あっち側ですから。


「謝罪は聞きました。帰ってください」


 私は魔力を込め、風を作り出します。

 先日の魔法と同じです。

 どこでもいいから、この人に遠くへと行ってほしい。


「どうか頼む。話を聞いてくれ」


「嫌です。帰ってください」


「私はウォルフと──」


「聞いていないですし、どうでもいいです。帰ってください。……三回目ですよ? あなたも私の話を聞いていますか?」


 彼はどうにかして私を刺激しないように、と考えているのでしょう。

 ならば、その答えを教えて上げます。


 ──一刻も早く、この場を立ち去るべきです。


『……えっと、リーフィア? あの、話くらいは、聞いてもいいと、思う……』


「…………はぁ、仕方ないですね」


 練り上げていた魔力を霧散させます。


 ウォルフでしたっけ? 彼はウンディーネに感謝した方がいいですね。

 彼女の言葉があったから、私はこの魔法を下げたのですから。

 もし、ウンディーネがいなければ、数秒後に彼は宙を舞っていたことでしょう。


「……感謝する」


「しなくていいです。それと、簡潔に話してください」


 突き放すような言葉に、ウンディーネはオロオロとその場で心配そうに私と男を見ます。

 彼自身も私に文句を言いたいのでしょう。

 ですが、それを言ったら、もれなく私の手から魔法が放たれることを理解している。

 そしてどうやって簡潔に話そうかと考え、彼は口を開きます。


「族長がお呼びだ。我らが里に招待する」


「お断りします」


 なんですか招待って。

 招待されるようなことをした覚えはないですし、もし迷惑をかけた謝罪としてならば、それこそ迷惑ってものです。


 なので、私は丁重にお断りしました。

 しかし、男はなんとかしようと粘ります。

 諦めの悪い人ですね。私の嫌いなタイプです。


『……あ、あのね、うちは……行ってあげてもいいんじゃないかって、思う』


「ふむ、何故です? 私にメリットがあると、そう思っての発言でしょうか?」


 その問いかけに、ウンディーネは首を横に振りました。

 どうやら彼女も、私にメリットがあるとは思っていないようです。

 ならば何故、この男について行こうと進言したのでしょう。

 私はその理由を尋ねます。


『…………この人は、何か理由があって、リーフィアを呼び出したんだと思う』


「まぁ、そうでしょうね。ですが、その理由が何なのか、それがわかりません」


 様子を見た感じ、彼も話す気はないようですしね。


『……うちも、何でここまでしつこいのか、わからない。でも、行かなきゃ、何も始まらない……気がする』


「何も始まらない、ですか……」


 むしろ私はそれを望んでいるのですけど。

 私はよくある物語の主人公になるつもりはありません。派手に動くつもりもありません。

 そんな面倒な役は他の人に任せます。


 なので、私は停滞を望みます。

 私が動き始めるのは、神様から貰った食料が底を尽きた時です。


「それに、いいのですか? あの人について行くと、私はここを離れることになります。もう、戻ってこないかもしれません」


 くだらないことだったら、即行で戻る気はありますけどね。

 そういう時のために素早さ特化のステータスにしてもらったのですから。


『……確かに、リーフィアが遠くに行くのは……寂しい』


 ウンディーネは思い悩んだように俯き、手を心臓部分に当てます。

 きっと私が離れてしまうことを、彼女は恐れているのでしょう。


『でも、外の世界は楽しいって、聞いた。……うちはリーフィアに楽しそうにしてもらいたい……!』


 え、私ってそんなに楽しそうじゃないです?


 ……そういえば、私はここ近くで笑った覚えがありません。


 地球で働いていた時もそうです。

 失敗してはいけない責任感と、過度な疲労。

 毎日が仕事で始まり、仕事で終わる。

 そんな退屈な日々を続けていたせいで、いつしか私は笑わなくなっていました。


「……まさか、ここまではっきり言われるとは思っていませんでした」


 でも、こうやって指摘されることもなかった。


 ……そんなこと、自分で気づけと笑われることですが、それでも私は自分のことすらどうでもいいと、どこかで思っていたのかもしれません。


『……ごめんなさい。……でも、うちは────』


「謝らないでください。むしろ、気づかせてくれてありがとうございます」


 私は男に向き直ります。

 ……そういえば、この人を正面から見るのは、初めてな気がします。


「その招待とやらを受けましょう」


 こうして私はエルフの里へと案内されました。


 そこは本やアニメで見た通りの場所でした。

 建物は全て木材で造られており、特徴的なのはその建物も地面に建っていない。というところでしょうか。


 それぞれの家を自由に行き来できるようにしているのか、橋が繋がれています。それは中央の一際大きな大樹から、蜘蛛の巣のように架けられていました。

 所々に崩れないようにと支柱は刺さっていますが、一目見て対策とわかるのはそれだけです。

 台風が来たならば、すぐに壊れてしまうのではないか。そんな心配が頭をよぎりますが、そういう自然災害の類はそもそも起きない。とエルフは言います。


 ……そうでした。自然は精霊が見守っている。

 ここは精霊が多く集う場所のようです。

 一体一体が微弱でも、集まれば十分な力を発揮するのでしょう。

 塵も積もれば山となる。ということわざがあるくらいですからね。


「こっちだ」


 私は大樹へと案内されました。

 よく見ると、根っこの辺りに人が入れそうな隙間がありました。

 私達はそこを潜り、中に入ります。


「ようこそ、おいでくださいました」

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