第5話
今日は夏生にレッスンを受ける日だ。それで、思い切ってこのTシャツにしたのだが、思わぬ反応があってうれしかった。
弾む心で例のキャンパスの片隅の芝生に行った。
夏生は先に来て待っていた。そして、これまでにない服装をしたあずみをしげしげと眺めた。普通の男子でないから、こんなに女子を眺めまわすことができるのだと、このときあずみは初めて感じた。
「…似合ってる」
ポツリと夏生は言った。それは品物の点検をしたような口調だったが、冷たいものではなかった。ただ、すぐに続けて、
「似合ってるけど、何を表現したの?」
と続けた。あずみは面食らってしまった。
「え?」
「すごくよく似合って、素敵だけど、自分の何を表したかったの?」
自分の何を表したいか…。あずみは急に苦しくなってきた。自分の弱点を突かれたような気持ちになった。すると、期待が大きかったぶんだけ、急に悔しさと自己嫌悪が込み上げて、涙がにじんだ。それを必死にこらえながら、
「そ、それを、藤井君にお願いしてるんだけど」
ややつっけんどんに言ってしまった。夏生は微笑した。優しい笑顔だった。
「うん、そうだったね」
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