第3話


 最初のレッスンは、人気の少ないキャンパスの隅にある芝地のベンチ。

 彼の方が先に来て待っていた。あずみは今さらながらに気がひけて、おずおずと近づいた。

 「最初に自己紹介、名前くらいでいいけど」

 彼は快活に言った。

 「あの…私、伊藤あずみです。山形です」

 「ぼくは藤井夏生(なつお)。山梨」

 あずみは内心ほっとした。彼も地方出身者だったのか。

 「で、まずそこに立ってみて」

 夏生はベンチの前方の芝生を指さした。ためらいながらもあずみはそこに立つ。

 「ちょっと猫背じゃないの?」

 やはり、女友達とは違った。いきなりこんなことを指摘する女友達は、いくらこちらから頼んだとしても、いないように思われた。

 「うん。隔世遺伝、かな。おじいちゃんが猫背で、歩き方そっくりっていわれる」

 「肩を回して、…上げて、すとんと落として」

 言われたとおりにやってみる。

 「少し上体を反らし気味に、ほら、姿勢がいいだけでずいぶん印象が変わる。明るくなった」

 そういわれれば、あずみもうれしい。おもわず笑みがこぼれる。

 「笑顔、すてき。君の最大の武器になるね」

 「え」

 聞き違いじゃないのか。

 「ほんとほんと。よく言われない?」

 「言われない…というか、初めていわれた。私、そもそもあんまり笑わないから」

 彼はまた声に出して笑った。

 「君って面白いね!」

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