第100話 神様が時計の針を戻してくれるって言うなら
「ちょ、ちょっと待ってよ!それって完全にガセネタよ!」
そう言って南城先生は立ち上がって、顔を真っ赤にしながら猛然と抗議したけど藍はニヤニヤしたままだ。
「南城せんせー、拓真君のお姉さんが言うには証拠の品があるそうですよー」
「それもガセネタです!たしかに平山君のお姉さんとお兄さんと同級生だったのは事実だけど、完全にガセネタです!いくら先生が独身だからと言って揶揄うのは程々にして欲しいものです!」
そう言うと南城先生は不機嫌さを隠そうともせず椅子にドカッと腰を下ろしたけど、藍は平然としている。
「・・・このスマホのアルバムの中には、拓真君のお姉さんのアルバムの中にあった1枚の写真を撮ったものが入っています。もちろん、拓真君のお姉さんの許可を得て撮影させてもらいました」
藍はそう言ってブレザーのポケットからスマホを取り出したから、俺だけでなく唯たちも藍の周りに集まってきた。当然だけど南城先生も「何の事?」と言わんばかりの表情で覗き込んでいる。
「・・・この写真を見ても、まだ南城先生は元カノではないと言い切るんですかねえ」
そう言って藍は1枚のスマホのアルバムをクリックしたのだが・・・
「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」」」」
南城先生だけでなく俺たちも一斉に大声を上げてしまった写真とは・・・
「うわー、今の俺にソックリだけどネクタイの色が違うから兄貴だとしか思えないぞ!」
「連れの子はどう見ても高校時代の南城先生よねー」
「あの頃はセミロングだったんだあ」
「しかも結構大胆よねー」
「これを見せられたら『わたしは付き合ってなかった』などと言い逃れは出来ないよねー」
俺たちは藍のスマホの中に入っていたアルバム写真を見てキャーキャー言ってるけど、肝心の南城先生は口をアングリと開けたまま絶句している!
「・・・南城先生、嘘を言ったからには、軽音楽同好会の『名ばかり顧問』ではないというのを証明してくれますよねえ」
藍はニヤニヤを通り越して、完全に勝ち誇ったかのような顔をしているけど、南城先生は相変わらずではあるが顎が外れるんじゃあないという位に口を開けたまま固まっている。
でも、その南城先生が『ハッ!』という表情をして机を『バン!』と叩き付けた。
「あーーー!その写真、どこで撮ったのか思い出したあ!!」
そう言ったかと思ったら南城先生は藍のスマホを取り上げるかのようにして自分の顔に近づけて、その写真を拡大したものをマジマジと見た。
「・・・くっそー、香澄さん、この写真を本当にアルバムに入れて残してあるとは思わなかったわよ!こんな事になるなら、あの時に絶対に写真なんか撮らせるべきじゃあなかったあ!」
そう言ったかと思ったら南城先生は「はあああーーー・・・」と長ーいため息をついたけど、その時の南城先生は完全に落ち込んでいた。
「・・・あのさあ、本当の本当で先生は平山君のお兄さんの元カノではないからさあ、香澄さんが面白半分で揶揄っているっていうのを理解してよお」
南城先生は完全にお願いモードになって俺や藍たちに頭を下げまくっているけど、俺たちは完全に無視してる!
「たっくんのお兄さんも結構薄情者よねー」
「そうよねー、こーんな綺麗な子を振って別の子と結婚するんだもんねー」
「もしかして南城先生の男運は高校生で終わり?」
「だとしたら南城先生にとって兄貴は恨み連なる相手になるかもね」
「先生も早く素敵な旦那さんを見付けて、拓真君のお兄さんをギャフンと言わせないと、イジラレルわよー」
南城先生はなおもお願いモードで頭を下げまくってるけど、俺たちは完全に無視して南城先生を茶化している。とうとう南城先生は「はあああーーー・・・」と長ーいため息をついて、半ば逆キレ気味になって
「あーー!わーかったわよ!やればいいんでしょ、やれば!」
「「「「「「そうそう!」」」」」」
「その代わり、リードギターだけは勘弁してよー。あの時だって先生はサイドギターだったんだからさあ」
「「「「「「あの時?」」」」」」
「そう、あの時。平山君はもう忘れてるのかなあ・・・」
南城先生は再び「はあああーーー・・・」と長ーいため息をついてるけど、俺には南城先生が言うところの「あの時」が何を意味しているか全然思い出せない。
でも、何かの演奏をした時に南城先生はサイドギターを担当していたという事だけは話の内容から推測できるし、その場に俺もいたという事も推測できる・・・
そういえば・・・先月、始業式の前日に母さんと一緒に校長先生のところへ行った時に、南城先生とも話をしているけどどこかで見たような気がしたよなあ・・・たしか、あの時に思ったのは・・・
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
俺が突然、大声を上げて立ち上がったから、南城先生だけでなく藍たちまでビックリして俺を見ているけど、それを無視するかのように再び大声を上げた!
「姉貴の披露宴の時だあああああああ!!!!!!」
「はあああーーー・・・正解よ」
南城先生は淡々として俺の考えが正しかったのを認めたけど、当然だけど藍たちは知らないから首を傾げている。
去年の正月明けに姉貴は結婚したけど、結婚式そのものは行わず入籍のみで済ませた。その代わりと言っては何だけど、俺がこの高校に入った直後の土曜日に市内のレストランを貸し切り状態にして細やかな披露宴が行われた。ただ、新郎側も新婦側も互いに5人程度しか呼ばず、親戚一同も呼ばず互いの直系の家族のみだから全部で20人ちょっとの披露宴、というよりパーティだった。
その披露宴での新婦側の余興として行われたのが、姉貴がギター兼ボーカルを担当したバンド演奏だったのだ!メンバーは女性のみの5人で、全員が今はバンドから遠ざかっている人ばかりだから、ところどころで間違えていたのは事実だけど結構面白かったのは覚えている。その時にサイドギターを担当していたのが南城先生で、他にも3人・・・ベースの人は俺の全然知らない人だったけど、キーボードを担当していたのが・・・それ以上に驚愕だったのが、ドラムを担当していた人が日本人なら一度は絶対に聞いた事のある名前の人だけど、いわゆるペンネームだから本名は非公表になっている・・・後で姉貴から聞いて俺もマジで腰を抜かしてしまった程の超大物だ。
もちろん、その時は藍も唯も単なるはとこで披露宴に出席してないから、南城先生がギターを演奏していたところを見てないのも仕方ない。
「・・・でもさあ、あのバンドメンバーで先生だけが未だに独身よー。というかさあ、こーんな独身地獄に陥ってるなら、平山君の義理のお姉さんになるべきだったのよ!だってー、先生の男運、本当にこいつのせいで目茶苦茶よー。自分はサッサと結婚してパパになってるし、その相手だってさあ・・・まあ、これを言うと平山君に失礼だから言わないでおくけどー、神様が時計の針を戻してくれるって言うなら、今すぐに、この写真を撮る1年前に戻して欲しいわよ!超凄腕弁護士一家の3代目で、当時から天才の名を欲しいままにして今では切れ者の若手有望弁護士と評判の翔真君を確保しておいて、そのまま平山佳乃になっておけば、今頃は教師じゃあなくて三食昼寝付きのウハウハ生活よー。くっそー、香澄さんか翔真君に『誰か若手超有望弁護士を紹介しろ!』って脅迫したい気分よー、ったく!」
あーあ、大和撫子で名高い南城先生、相当荒れてますねえ。ま、仕方ないですね。嘘か本当かは別として元カレの姉から自分の過去をバラされた挙句、やりたくない事を強制されようとしているんですから・・・
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