第95話 トンデモナイ計画
絢瀬先輩はテーブルの上に置かれたコーヒーをブラックのまま飲んでるけど、俺はミルクを入れたコーヒーカップをかき混ぜるスプーンを持つ手がガタガタ震えている。そんな状態の俺に絢瀬先輩は容赦なく言葉を続けている・・・
「・・・まず最初に言っておくけど、ダンス部はダンスをしたい子、あるいはダンスが好きな子が集まった集団だというのを忘れないで欲しい」
「う、うん・・・」
「そんな集団に対して、上から一方的に『ダンス以外の事をやれ』とか言われたら面白くないのは平山君でも分かるでしょ?」
「う、うん・・・」
「ようするに、徳川理事長がダンス部の存在を否定するかのような事を言い出したから全員が理事長に反発してるんだけど、君も知っての通り、この桜岡高校の教職員で理事長に面と向かって反論できる人は誰もいない。だから新田先生は理事長と生徒との間で板挟みになってるというのも何となく分かるでしょ?」
「う、うん・・・」
俺はコーヒーを口に含んだけど、全然コーヒーの味がしない。いや、正しくはコーヒーを飲んでいるけど、そのコーヒーが苦いのか甘いのか、熱いのか冷めてるのか、それさえも分からないくらいに緊張している・・・
「・・・そのスマホの中には、新学期早々、わたしと新田先生が理事長室に呼び出された時にコッソリ録音した物が入ってるわよ」
「録音?」
「そう、録音。正しくはスマホの動画なんだけど、理事長室に呼び出された時に嫌な予感がしたから、ハンカチを取り出すフリをして咄嗟に録画ボタンを押したのね。だから画像は真っ暗。もちろん、ボリュームをかなり大きくしないと聞き取れないけど、理事長がその時に何を言ったのか、全て入ってる」
「・・・・・」
「でも、その前に君に尋ねたいんだけど『
「去年の秋にやってたアニメですよね。もちろん全話見ましたし、今年の秋に第二期が放送されるというのも知ってますよ」
「なら説明の手間が省けてラッキーね」
「ラッキー?」
「そう、ラッキー。今のダンス部と『
ちょっと待てよ・・・俺は絢瀬先輩が唐突に言い出した言葉の意味を真剣に考えた。
あのアニメの作品上の設定は、廃校を告げられた生徒たちがスクールアイドルの甲子園『
まだ第二期の詳しい内容が公表されてないから結末がどうなるかは分からないけど、逆境や挫折などが随所に描かれてるし、第一期では『
桜岡高校が廃校するなどという話は全然伝わってない。だいたい、そんな話が出てるなら琴木さんが知らないのも変だし、理事の奥様連中と茶飲み友達(?)の母さんの耳に入らないのも変だ・・・
となると・・・廃校を告げられたのではなく・・・廃止、それもダンス部の廃止を告げられた!マジかよ!?
「ま、まさかとは思いますが・・・あのワンマン理事長が言い出したのは・・・ダンス部の廃止ですか?」
俺は恐る恐るではあったが絢瀬先輩に自分の考えを伝えたけど、絢瀬先輩は無言で首を縦に振った。
「本当ですかあ!」
「正確には廃部ではなく、ダンス部の活動変更よ」
「活動変更?」
「あのアニメのいいとこどりとでも言いましょうか、徳川学園の4つの高校を始め、全国の他の何校かの私立高校とも連携して『
「マジ!?」
「しかも、よりによって学校側がダンス部を無理矢理『
そう言うと絢瀬先輩は飲み終わったコーヒーカップを『バン!』とテーブルに叩き付けた!中身が空だったから零れてないけど、この事だけでも絢瀬先輩の怒りの凄まじさを思い知らされた格好だ。
「わたしたちは
「絢瀬先輩、落ち着いて下さい!」
俺は声を荒げる絢瀬先輩に怯みそうになったけど、絢瀬先輩を宥めるのに必死だった。絢瀬先輩はこれをずっと言えずに貯め込んでいた鬱憤が相当あるのか、まだ怒り足りないような雰囲気だったけど、さすがに他の客や店員さんが見てるから冷静を取り戻して「ごめんなさい」と言って軽く頭を下げた。でも、内心はまだ怒ってるんだろうな・・・
絢瀬先輩は「はーーー」とため息をついたかと思ったら、今度は冷静な普段通りの絢瀬先輩の口調で話し始めた。
「・・・実際には学校側が芸能プロダクションと手を組んで、わたしたちダンス部の中から数人を選抜して、あのアニメに出てきた『
「・・・それって、本当の話なんですか?」
「本当よ。全てはスマホに入ってるから、それを再生すれば、わたしの言ってる事が嘘じゃあないと証明できる」
「そうだったんですか・・・」
「わたしたちダンス部員は、それを『
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